ワークスモバイルジャパンは、全国の中小企業ユーザー数を破竹の勢いで伸ばしている。今年2月の時点で前年同期比2倍の20万社を突破。全国で300社を超えるビジネスパートナーと連携した販売網構築を指揮してきた石黒豊・前社長から引き継ぎ、今年4月1日付で福山耕介氏が社長に就任した。福山社長は「石黒さんが0を1にした経営者だとすれば、私は1を10にする」と抱負を語る。関係会社の「LINE」の個人情報管理を巡る波乱のタイミングでトップ就任となったが、データ保護の取り組みを丁寧にユーザー企業やビジネスパートナーに説明し、理解を求めた。
仕事で安心して使えるチャット
――LINEとつながる唯一のビジネスチャット「LINE WORKS」は、今年2月、前年同期比で2倍となるユーザー社数20万社を超えています。ビジネス拡大の勢いがついているタイミングでの社長就任となり、そのためプレッシャーも大きいのでは。
おかげさまで、ユーザー社数は順調に伸びており、私が社長に就任した時点で23万社を超えました。前任の石黒さんは、ビジネスパートナーづくりに長けた経営者で、激しい競争環境にあるビジネスチャット市場のなかで着実にユーザー数を伸ばし、全国300社を超える販売網を構築しました。私はその強固な仕組みを引き継いだ立場ですので、ユーザー数が増えることについて何ら不安はありません。むしろ、どれだけの勢いで伸ばせるのかが私に課された責務です。石黒さんが0を1にした経営者だとすれば、私は1を10にする経営者になることを目指します。
――ビジネスが伸びている矢先に、LINEの個人情報の管理の仕方が問題となりました。LINE WORKSのサービスにも影響はありますか。
まず、LINE WORKSは「LINE」と名前がついているものの、LINEとはまったく別のサービスです。LINEの問題が表面化した直後から、ユーザー企業に向けて積極的に情報を開示して、理解してもらうよう努めています。
利用規約には、ユーザーデータに対する一切の権利を放棄することを明記しており、海外を含めた社内スタッフがユーザーデータを閲覧することはできない仕組みです。ユーザー企業から求められれば、情報セキュリティや個人情報管理についての国内外の第三者機関、公的機関の認証をすぐにでも提示できます。仕事で使う以上、個人情報をはじめとするデータ保護や情報セキュリティは最も重視すべきものです。
――資本構成について改めて教えてください。
当社は韓国IT大手NAVER(ネイバー)の子会社である韓国ワークスモバイルの日本法人です。LINEもNAVERグループで始まりましたが、今ではご存じの通り、NAVERとソフトバンクグループの合弁事業となっているようです。
LINE WORKSのサービス開始当初は、社名と同じ「WORKS MOBILE」をサービスの名称としていましたが、「LINEとつながるのに分かりにくい」ということで今の名称に変わったと聞いています。その一方、韓国では昨年10月に「LINE WORKS」から「NAVER WORKS」にサービスの名称を変更しています。韓国ではNAVERブランドに対する安心感や信頼度が高いためです。国内ではLINEの知名度が高いためLINE WORKSのブランドを継続します。
このように、LINEとLINE WORKSは完全に別のサービスであることを理解していただくことで、これまで通りLINEの操作感を仕事でも安心して使っていただけるものと確信しています。
“面のビジネス”で経済を底上げ
――多くの人が使い慣れているLINEの操作感を、そのまま仕事で使えるのは、確かに魅力があります。
習熟に必要な学習時間が実質ゼロですからね。手間がかからず、LINE感覚で仕事上のコミュニケーション、スケジュール共有、スマホ対応、情報セキュリティ、ユーザー管理などができてしまいますので、ITに不慣れな業種、とりわけ情報システム管理の専任者がいない中小企業で重宝していただいています。
――福山さんご自身についてうかがいたいのですが、もともと中小企業向けのビジネスを志向されていたのでしょうか。
それがまったく違うのです。前職はSIerでしたので基本的に大型プロジェクトが多かったですし、その前の日本マイクロソフトに勤務していたときは公共や金融といった大規模事業者向けの担当で、しかも直販がメインでした。2017年にワークスモバイルジャパンに来てから、実質、初めて中小企業の市場へのアプローチ、商品やサービスをともに販売してくださるビジネスパートナーの方々を通じた間接販売を手がけることになりました。
右も左も分からない状態で、まず取り組んだことが全国行脚です。18年、19年と2年間、連続して鹿児島、島根、青森……と、地方都市を訪問し続けました。「なんだ、おまえさん、また来たのか」と覚えてもらうまで何度も訪問すると、なんとなくですが、その地域の中小企業と接点を持っている有力ビジネスパートナーが見えてくるような気がしました。ある地域では、通信キャリア系の販社だったり、別の地方では事務機系の販社が強かったり、一つ山を越えれば地元密着のSIerが地域の中小企業ユーザーのITまわりを一手に請け負っていたりとさまざまです。
――どうやってそうした有力ビジネスパートナーとの関係づくりをされたのですか。
足繁く訪問するのはもちろんのこと、一つにLINEという誰でも使えるUIとビジネスパートナーが持っている業務アプリケーションを連携させて、「一緒にビジネスを大きくしていきましょう」というビジネスプランの提案です。もう一つは、どこの中小企業でも抱えている「IT活用の遅れをなんとかしましょう」という課題感の共有、ビジネスの方向性に賛同していただいたことです。
プライベートではスマホ片手にLINEで写真や動画を交えて濃密なコミュニケーションをとっているのに、いざ仕事となると電話やファックスになってしまう。まずこれをなんとかすれば、仕事がもっと楽しくなるに違いない。「仕事、楽しい」が広がれば経済が活性化し、日本全国規模での底上げができる“面のビジネス”が当社の強みです。
「みんな使っているサービス」に
――面のビジネスとは、ユーザー企業の規模や業種を選ばない、幅広いビジネスという意味ですか。
そうです。業界上位3位までをターゲットにするとか、従業員○○人以上を顧客に想定とか、そうした売り方はせず、全国すべての法人を顧客対象にしています。これが当社で言う面のビジネスです。
国内で会社組織になっている法人数は400万社ほどだと当社では見ており、現時点では単純計算で18社に1社の割合でLINE WORKSを活用していただいています。LINE WORKSは社内の情報共有にとどまらず、取引先や協業先と情報共有することで、より大きな効果を発揮しますので、今の18社に1社の割合では決して多いとは言えません。3社に1社くらいに普及すれば、「新し物好きのユーザーが使っているサービス」から、「みんなが使っているサービス」へと変わるはずです。早くそうした状態に持っていきたい。
――全国の中小企業を販売ターゲットにしたいと考えているITベンダーにとって、LINE WORKSと連携させるメリットは大きそうですね。
私がビジネスパートナーとの協業担当になった17年末時点の連携製品は3社3製品でした。それが今では100製品余りに増えています。営業支援、顧客管理、人事総務、販売在庫といった業種を問わない製品・サービスだけでなく、建設や土木、不動産、医療、介護といった業種アプリが増えてきているのが近年の特徴です。
どこの街にも必要とされる業種で、屋外での作業や職種を越えて連携しなければならない仕事とLINE WORKSの相性はとてもいい。建設・土木は受注した仕事によって作業場所が違いますし、診療所と介護施設、調剤薬局、自治体などは地域の訪問介護・訪問医療の枠組みのなかで業種を越えての情報共有が進んでいます。スマホが1台あれば、場所や時間に縛られずに自由度の高い情報共有が可能になるとともに、コンシューマー向けのLINEユーザーと連携するケースも増えています。
中小企業の情報共有を阻んでいた要素をなくしていくことで、全国津々浦々を網羅するビジネスコミュニケーションのプラットフォームになることを目標に掲げています。
Favorite Goods
小学校から野球に打ち込み、高校では丸刈りの球児だった。趣味の多様化が進んで、野球好きを集めにくい現代ではあるものの、「機会があれば社内で草野球チームを立ち上げたい」と、野球ボールをいつも身近に置いている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
瞬発力と柔軟性、屈託のない笑顔で
全国を行脚
福山氏のキャリアを振り返ると、そのほとんどを大企業向けのプロジェクトが占めている。年商や業種を絞らないサービスを全国津々浦々の中小企業に売り込むのはワークスモバイルに入社した2017年末が初めての経験だった。
福山氏は、「実際に中小企業の現場に行ってみないと分からない」として、18年、19年と2年間みっちり全国の街々を訪問。ユーザー企業のみならず、地域密着のSIerや事務機系、通信キャリア系の販社など多くのビジネスパートナーの懐に飛び込んでいった。
誰もが慣れ親しんだ「LINE」の操作感で、ビジネスチャットをはじめとする情報共有、パートナーの業務アプリやLINEとの連携機能を訴求することで、当初はたった3社3製品だった連携先が、今では100製品を超えるまで拡大。コロナ禍で直接訪問することが難しくなった20年でも、2年間で培ってきた関係を生かしてユーザー数を倍増させている。
大企業、直販のプロジェクトから、ビジネスパートナーと連携して全国の中小企業へ展開していくスタイルへと、瞬時に切り替えられる瞬発力、柔軟性、そして屈託のない笑顔が福山氏の魅力につながっている。
プロフィール
福山耕介
(ふくやま こうすけ)
1974年、埼玉県生まれ。99年、日設エンジニアリング入社。2001年、日本マイクロソフト入社。13年、米マイクロソフトに出向。16年、日本ビジネスシステムズ入社。17年、ワークスモバイルジャパン入社。18年、執行役員。21年4月1日、代表取締役社長に就任。
会社紹介
ワークスモバイルジャパンは、韓国IT大手NAVERグループのワークスモバイル日本法人。従業員数は約100人。LINEとつながる唯一のビジネスチャットとして「LINE WORKS」を運営している。LINEの操作感に寄せたUI設計で、操作に関する習熟期間がほとんど必要ないことが全国の中小企業ユーザーから高く評価されている。