TISインテックグループの岡本安史社長は、トップ就任のタイミングで年商を5000億円の大台に乗せる新しい3カ年中期経営計画を発表した。顧客の経営戦略に深く入り込み、新しいビジネスの共創パートナーとなったり、顧客より半歩進んで独自のITオファリングを創出するといった戦略的な事業ドメインを軸に、新中計で500億円ほど売り上げを伸ばす。海外でのM&Aや一部出資にも引き続き力を入れる。構成員一人一人のエンゲージメントを高めることでビジネスマンとしての意識づけ、熱量を向上させる、“岡本流の経営戦略”について話を聞いた。
戦略ドメイン軸に500億円上乗せ
――岡本社長がトップに就任された4月1日からTISインテックグループの新しい3カ年中期経営計画がスタートしました。まずは中計の目標についてお話しいただけますか。
今中計では2024年3月期の連結売上高で5000億円の大台を目指すとともに、営業利益率は11.6%を目標に置いています。昨年度(21年3月期)売上高が前年度比1.1%増の4483億円、営業利益率10.2%でしたので、向こう3年で売上高を500億円余り上乗せさせ、営業利益率を1.4ポイント増やす感じです。
――どのあたりを重点的に伸ばすお考えですか。
当社では競争優位性を保ち、顧客の課題を素早く解決する重点事業分野を定めており、これを「戦略ドメイン」と呼んでいます。顧客の経営戦略に深く入り込み、顧客のビジネスの根幹を担う戦略パートナーシップを組むビジネス、または顧客より半歩先を進んだ当社独自のITオファリングを創出するといった分野を指しており、昨年度の売上高に対する戦略ドメインの比率は51%、金額にして2285億円だったものを、中計最終年度には3000億円、比率は60%に高める計画です。ほかにもASEANを中心にM&Aや一部出資を継続することで、海外事業の拡大を推し進めていきます。
――トップに就任してから2カ月、これまで社内外に対してどのようなメッセージを発してこられましたか。
ステークホルダーの皆さんに向けては、「質で語られる信頼のトップブランド」や「価値交換性の向上」に取り組む旨を話してきました。「質」が高くなければ顧客との「価値交換(≒取引)」が1回で終わってしまいます。サービスや商品の質を高めることが継続的な取引につながり、やがてそれが信頼のトップブランドへとつながります。
「質」の中には「経営の質」「事業の質」「人材の質」などがあり、どれか一つ欠けていてもダメで、全体的に高めていかなければなりません。ただ、私は全ての「質」のベースとなるのは社員一人一人の向上心やモチベーションの高さだと考えています。
例えば、趣味で釣りが好き、フットサルが好き、映画が好きといろいろあると思いますが、釣りだったらどうやったら大物を狙えるのか、フットサルで勝つにはどうしたらいいのか、映画でも好みの監督の作品やひいきにしている俳優の出演作を深く掘り下げて調べたりしますよね。それって楽しいからなんです。仕事でも好奇心を膨らませて、自分であれこれ考えて、楽しみながらやるのと、そうでないのとでは結果がまるで違ってきます。社員の皆が生き生きと働く環境や場所を用意することが経営の責任であり、これがそのまま経営の質、事業の質に直結します。
DXは「仲間力」と「熱量」がカギ
――「好き」でやっている趣味のモチベーションをそのまま仕事に当てはめるのは簡単ではなさそうです。
ご指摘の通り、自分の「好き」なことばかりできるわけではない側面が仕事にはあります。とはいえ、顧客の経営的課題、業務的課題を洗い出していくには、顧客がどんな商売をしているのか、顧客が置かれている市場環境はどうなっているのかに、まずは興味を持たなければ見えてくるものも見えてきません。顧客の課題の先にはエンドユーザーである生活者の課題があり、生活者の課題を俯瞰すれば社会的な課題が見えてきます。
当社はASEAN市場でも手広くビジネスを展開していますので、国内の社会的課題を観察した知見をさらに押し広げて、海外の国や地域社会が抱える課題も観察できるようになることが望ましい。そうした視野の広さ、いろいろな事象に興味を持って調べていく熱量があれば、いずれ「TISの社員は物事をよく観察しているし、知見、技術もあるのでちょっと話を聞いてみるか」と顧客に思ってもらいやすくなります。
さらに一歩踏み出して、昨今のデジタルトランスフォーメーション(DX)の文脈で先進的なデジタル技術を活用した新しい事業を立ち上げるとき、“仲間”に入れてもらえるかどうかも、当社従業員一人一人の熱量、ひいては会社全体の熱い思いが結果を大きく左右します。
DXは社会全体の変化に適応する動きと捉えれば、どこか1社だけ単独で成し遂げることが難しい特性がありますので、近年では盛んに共に価値を創る「共創」がキーワードとして挙げられますよね。共創の輪に中に入っていくには、仲間になる力がとても重要になります。私は「仲間力」と呼んでいますが、この仲間力を高めていくには、いろいろなものに興味をもって、掘り下げていくモチベーションが欠かせないのです。
――「共創」や「仲間力」とつながるかどうか分かりませんが、「従業員エンゲージメント」という言葉もよく聞くようになりました。
エンゲージメントは「情報を共有することによる相互理解」だと私なりに解釈しています。経営者が幹部に、幹部が従業員に「○○をしろ」と指示を出すだけでは、エンゲージメントは成り立ちにくい。
そうではなくて、顧客の課題、社会の課題、当社がその課題を解決できる技術や解決策を持ち合わせているのか。なければ研究開発で生み出したり、外部から調達することは可能なのかの情報をできる限り共有していく。そうしたとき従業員が自発的に「だったら○○という解決策があり得るんじゃないか」「いやいやこれは○○のほうがいい」などとアイデアが議論が沸き起こる。エンゲージメントとはこうした相互理解の上に成り立っており、その先に顧客との共創や仲間力があると捉えています。
ASEAN中心に1000億円を視野
――相互理解を深めていくのは、言うは易しで実践するにはハードルが高そうです。
ポイントとなるのは、経営者や部門リーダーがしっかりと方向性を示せるかどうかです。私は経営トップに就いたとき、冒頭でお話したように「質で語られる信頼のトップブランドになりたい」などと大きな方向性を示すことを意識的に心がけました。これを受けて、部門リーダーが従業員に向けて「うちの部門ではこれをやりたい」と方針を示す。じゃあ、どうすればリーダーが示した「なりたい会社」「なりたい部門」になれるかを皆が当事者になって考え、活発に意見を交換し合うことで相互理解が深まっていく。
突き詰めていくと、一人一人がビジネスマンとしての能力をしっかりと高め、客先に出向いたとき、しっかりとした提案、アイデアを出せる人材になることだと考えています。注文をもらう出入り業者のままでは、いつまでも当事者にはなれませんし、会社や上司の指示を待つ社員、あるいは指示を出すだけの上司では、本当の意味でのビジネスマンは育ちません。繰り返しになりますが、DXの文脈ではビジネスマンとして、DX立ち上げの仲間の一人として周囲から認識してもらうことがとりわけ大切なのです。
――海外事業についてはどうでしょうか。ミャンマーの情勢不安も気になります。
ミャンマーについては現地法人の駐在員と従業員の安全が気がかりですが、今は様子を見るしかありません。ビジネス的な観点では、ASEANのタイ、インドネシア、マレーシア、シンガポールなどを軸に、24年3月期までの今中計で100億円余り上乗せして750億円の事業規模を想定しています。事業規模としているのは、ASEAN地区の当社連結子会社の売り上げと資本参加している持ち分法適用会社の売り上げの合算値であり、必ずしも当社連結売上高ではないからですが、まずは地場顧客を主なターゲットとしたビジネス規模を大きくしていくことを目指します。将来的に1000億円規模を視野に入れており、そのためのM&Aや出資にも引き続き積極的に取り組んでいきます。
Favorite Goods
取締役に昇進した記念に買ったモンブランの万年筆。契約書のサイン、人の話をメモするときなど「相手を不快にさせない、清潔感のある手元が演出できる」のが好みで、これまでも機会あるごとに筆記具を買い揃えてきたとのこと。
眼光紙背 ~取材を終えて~
一人一人の行動が
新しいTISインテックを形作る
企業に「人格」があるとすれば、「構成員一人一人の振るまいや行動によって形作られていくものだ」と、岡本安史社長は話す。今年4月、トップに就任して新しい中期経営計画を発表。目指すべき方向性を明確に示したものの、一方で具体的な行動については幹部や従業員の自発的なエンゲージメント(情報を共有することによる相互理解)にできる限り委ねることにしている。
「あれこれトップが具体的に指示を出しすぎると、指示待ち社員を増やすばかりか、先人たちが築き上げてきたTISインテックグループの人格をゆがめてしまいかねない」との思いからだ。振り返って、岡本社長がまだ駆け出しの頃、「超」がつくほど「細かく指示を出す上司だった」という。上司の人格がそのまま事業部門の人格になってしまうと、上司の伸びしろが業績の伸びしろになるばかりか、上司が代わるごとに顧客体験や満足度にもバラツキがでてしまうことを大いに反省した。
DXの文脈における顧客とともに創る新しいビジネスや、多様性の受け入れが強く求められる今、エンゲージメントを促進し、構成員全員の熱量のある行動を通じて新しいTISインテックグループを形作っていく。
プロフィール
岡本安史
(おかもと やすし)
1962年、大阪府生まれ。85年、東北大学理学部卒業。同年、東洋情報システム(現TIS)入社。2011年、執行役員企画本部企画部長。13年、常務執行役員ITソリューションサービス本部長。16年、専務執行役員産業事業本部長。18年、取締役専務執行役員サービス事業統括本部長。20年、取締役副社長執行役員。21年4月1日、代表取締役社長に就任。
会社紹介
TISインテックグループの昨年度(2021年3月期)連結売上高は前年度比1.1%増の4483億円、営業利益は同2.0%増の457億円。今年度売上高は同4.8%増の4700億円、営業利益は同6.0%増の485億円を目指す。連結従業員数は約2万人。ASEANや中国などの成長市場にも積極的に進出している。