日本電子計算(JIP)は、レガシーシステム領域に最先端技術を積極的に応用する。2022年に創業60年を迎えるJIPは、金融や公共セクター向けの大規模システムを数多く構築してきた。この実績に甘んじることなく、レガシーシステムの維持費低減や変化への適応を積極的に推進することでビジネスを伸ばす。顧客のIT予算の7割が既存システムの維持メンテに費やされる大規模レガシーシステムだからこそ「先進的な技術やアイデアによって変革したときの投資対効果は大きい」と、今年6月にトップに就任した松永恒社長は指摘する。先端技術を起点とした提案活動でビジネスを伸ばす方針だ。
レガシーには先端技術が不可欠
――2022年に創立60周年を迎えるとうかがっています。これを節目にJIPをどのように発展させていくお考えですか。
今年6月、社長に就いて詳細な事業内容を目の当たりにしました。外から見るのとは受ける印象が大きく違います。まず、顧客向けに何十年も維持運用しているシステムがゴロゴロあって、60年近くシステム事業を手がけてきた老舗SIerの重み、存在感みたいなものを改めて実感しました。つまり、何十年も変わらない価値、求められ続ける価値がそこにはあるわけで、次の成長、あるいはさらに先の10年後のJIPの在り方を考えるときも、「変わらない価値」とは何なのかを追求していきたいと考えています。
――「変わらない価値」とは、どのようなものをイメージしていますか。
10年前を思い起こすと、今や仕事や生活に欠かせないスマートフォンはほとんど普及していませんでしたし、コロナ禍がきっかけで都市部を中心にリモートワークが定着するなど働き方が激変するとは、まったく予想できませんでした。一方で、ITビジネスを巡っては、安心・安全にかかわることや企業の事業継続、売り上げや利益を伸ばすこと、コスト削減、業務効率化に役立つサービスやシステムは、普遍的な価値を生み続けています。
もちろん、売り上げを伸ばしたり、コスト削減を実現する手段としての技術は常に変化しています。ですが、ユーザー企業や社会が求める価値のなかには、変わらないものが意外と多いんです。当社が60年近くにわたって顧客に価値を提供できたように、これからも「変わらない価値」は何なのかを重視して経営の舵取りをします。
――JIPは証券会社や自治体で長らく使われている基幹システムに強いと聞いています。少し失礼な言い方になってしまいますが、レガシー領域のビジネスの割合が多く、古くさい印象も受けます。
レガシーシステムの領域は、見方によっては最先端の技術が最も必要とされる領域でもあります。私はNTTデータで長らく金融顧客を担当していたので実感できるのですが、大規模システムになるとIT予算の7割が既存システムの維持メンテに費やされると言われるほど、レガシーシステムにかかる予算は大きいのです。顧客視点で見れば、費用が最も多くかかっている分野をどうにかしたいと課題感を持つわけで、この課題を解決するにはその時代の最先端の技術を使うのが最も合理的です。
JIPは証券と自治体で売り上げの半分ほどを占めるSIerで、社歴の長さもあって、いわゆるレガシーシステムの維持メンテを多く手がけてきました。多額の費用がかかる課題の解決に向けて、常に新しい技術を取り込み、場合によってはシステムの一部更改や運用の見直しを提案し続けています。「古くさい」システムだからこそ、先端的な技術や運用にかかわる深い知見、ノウハウが必要になるのです。
――松永社長は金融顧客の担当が長いとのことですが、JIPとの関わりは以前からあったのでしょうか。
JIPは12年にNTTデータグループに入ったのですが、そのときのNTTデータ側のM&A手続きを担当したのが最初の直接的な接点です。当時、私はNTTデータのパブリック&フィナンシャル事業推進部の責任者をしており、証券や自治体のビジネスを推進していく立場でJIPのグループ化の実務を担当しました。その後、沖縄県にNTTデータのBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)センターを立ち上げるプロジェクトを担当したとき、JIPが持つBPOのノウハウが大いに役立ちました。
長らく証券会社の事務代行などを手がけてきたJIPは、NTTデータにはないBPOの独自ノウハウがあり、NTTデータと一緒につくったセンターは15年に開業しました。顧客からの評価も上々で、今はセンターの新棟を増設して旺盛な需要の取り込みに力を入れているようです。
IoTを工事不要で手軽に活用する
――JIPが手がける事業内容や新しく取り組んでいるビジネスについてお話ください。
大きく金融・証券、産業などの業種別事業に分かれます。金融業向けには個人融資の審査業務システム、証券業向けには証券総合システム「OmegaFS」シリーズを主軸としてビジネスを展開しています。OmegaFSは構築中のユーザー企業を含め52社に利用していただいており、当社の中核的な製品の一つとなっています。公共セクター向けには、当社の市町村向けの総合行政情報システムを97団体に利用していただいているほか、自治体専用クラウド基盤サービスも提供しています。
産業セクターでは、昨年4月にカーエアコン用コンプレッサメーカーの名張製作所を傘下に持つ名張ホールディングスと協業して、生産設備の故障予兆を検知するIoT分析システム「ParaRecolectar(パラレコレクター)」を製品化しています。生産設備に後付けでセンサーを取り付け、データ分析ツールで可視化し、生産設備の突発的な故障を未然に防ぐシステムです。
振動や温度、電流、気圧、湿度などユーザー企業が必要とするセンサーを必要に応じて取り付けて分析するもので、工事不要の手軽さ、簡単さ、安価な点が国内外の製造業ユーザーから高く評価されています。今年6月には情報サービス産業協会(JISA)の「JISA Awards 2021」の特別賞もいただきました。今後はAIを駆使した予兆検知の一段の精度向上やクラウド版への拡張を進めることで、有用性や利便性を高めていきます。
科学技術計算の知見を積極応用
――ParaRecolectarのデータ分析もそうですが、JIPは歴史的に科学技術計算分野に強い印象があります。
高度成長期のときは橋や高速道路に使う橋梁の強度計算で実績を残しました。今は科学技術計算の部門が独立するかたちで、グループ会社のJIPテクノサイエンスがこの分野を担当しています。近年ではスマートフォンを使った道路状況の管理システム「DRIMS(ドリムズ)」がヒットしました。スマートフォンの加速度センサーを使って道路の凹凸、痛み具合を把握したり、車載カメラの映像から路面の損傷の度合いを分析するものです。
これまでは道路の状態を把握するために専用の車両を用意していたのですが、DRIMSはクルマに取り付ける工事は不要で、センサーの役割を担うスマホやドラレコのような車載カメラはすべて汎用品です。道路管理を担う自治体や維持メンテを受託する民間企業が日常の巡回業務に使う車両にDRIMSを乗せるだけで、道路の状態をほぼリアルタイムで把握でき、かつ費用を従来の20分の1に抑えられることもあって、多くの引き合いをいただいています。
――新しい技術やアイデアを使うことで、コストを大幅に低減できたり、これまでできなかったことができるようになるのはITの醍醐味でもありますね。
冒頭に触れた金融業や自治体で使っている大規模システムも、最新技術を駆使することで同じようにコスト低減や効率化を実現できる可能性が高い。私も長らく金融業の顧客を担当してきて、金融業はつくづく「装置産業」だと痛感しました。半導体製造業が巨費を投じて新しい製造装置を導入し、より高性能な半導体の製造を可能にしているのと同様、金融業においても新しいシステムの導入によってビジネスを成長させることができます。
レガシーシステムに多額の費用がかかっている業務こそ、実はビジネスチャンスの宝庫であり、それを手にするためにも先進的な技術開発や人材の育成に力を入れ、ビジネスを伸ばしていきます。
Favorite Goods
鞄を引っかける留め具「クリッパ」。健康のため毎日1万歩を目標に歩くため、外出時はリュックサックを使っている。リュックの置き場所に困ったとき、「クリッパを使えば机の縁などに簡単に引っかけられる」とお気に入りだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
成長する場の提供は経営者の責務
日本電子計算(JIP)の経営に当たって松永恒社長は、「技術者が成長し続ける場所を提供するのが経営者の責務」だと話す。金融や公共セクターの大規模基幹システムの顧客を多く抱えるJIPは、長期間にわたって重要システムの運用や改修を担ってきた。こうしたケースではややもすれば技術者が“塩漬け”になって、新しい技術を習得しにくい状況に陥る危険性がある。
NTTデータで長年、金融業顧客のシステムを担当してきた松永社長は、「大規模なレガシーシステムこそ、コスト削減やデジタル変革に向けて、その時代の最先端の技術を常に求められていることを肌で感じてきた」と振り返る。とかくルーチン作業に陥りがちな運用や改修作業に甘んじることなく、技術者が常に先端技術を習得し、スキルアップしていくことが大切だと説く。
今年6月にトップに就任してから「最新の技術に触れられる仕事や職場環境を十分に提供できているかを徹底的にチェック」してきた。習得した新しい技術を顧客へ積極的に提案してビジネスチャンスを掴むとともに、これからもそうした環境を維持していくことで人材を育てる。
プロフィール
松永 恒
(まつなが ひさし)
1962年生まれ、東京都育ち。86年、慶応大学法学部卒業。同年、日本電信電話(NTT)入社。88年、NTTデータ通信(現NTTデータ)発足に伴い転籍。2001年、金融システム事業本部部長。09年、パブリック&フィナンシャル事業推進部長。15年、執行役員第一金融事業本部保険・共済事業部長。18年、常務執行役員第一金融事業本部長。19年、取締役常務執行役員第三金融事業本部長。20年、取締役常務執行役員バンキング統括本部長。21年6月16日、日本電子計算代表取締役社長に就任。
会社紹介
日本電子計算は1962年に創業した老舗SIerである。2022年に創業60周年を迎える。12年にNTTデータグループに入った。昨年度(21年3月期)連結売上高は336億円、連結従業員数は約2000人。金融・証券、自治体の基幹システム分野に強い。