アシストは、今年から始まった3カ年中期経営計画で新規事業への挑戦を柱の一つに据える。業績を支える既存事業を伸ばしつつ、自社の業務効率や生産性を向上させ、「新しいことに挑戦するためにも、まずは余力を生み出すことができる組織へと引き上げる」と大塚辰男社長は話す。同社は付加価値ディストリビューター(VAD)として取扱製品の価値を最大限引き出す手厚いサポートに加え、ユーザー企業やビジネスパートナーとともに課題を解決する姿勢が評価され、昨年度(2022年12月期)は過去最高の取扱高を更新。VADとしての付加価値の範囲を広げる新しい取り組みを加速させていく方針だ。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
前中計は過去最高の取扱高に
―― 22年12月期で5カ年の中期経営計画が終わりました。まずは直近の業績について教えていただけますか。
売上高にほぼ相当する取扱高で22年12月期は約420億円で着地しました。途中、少し凸凹があったものの、中計が始まる前の17年12月期に比べて約145億円増えました。当社は企業向けソフトウェア製品約70種類を取り扱っていますが、ソフト製品は月額で使用料金を支払うサブスクリプション方式の比率が増えています。従来の売り切り型に比べて、単年度ベースで見た売り上げの押し下げ効果がありつつも、業績を伸ばせた点はよかったと感じています。
―― 前中計の点数をつけるとすれば、どのくらいですか。
90点ですね。中計期間中の半分余りはコロナ禍の混乱のなかにありましたが、社員のがんばりに支えられて取扱高400億円を突破して過去最高に達しました。コロナ禍が本格化した20年の時点では、まったく先が見通せなかったため、実は中計の最終年度を2年後ろ倒しにして24年にいったん延長していたのですが、結果的に当初の予定どおり22年で終わらせることができたのも評価したいです。
課題としては、もうちょっと組織力を発揮できたのではないかという気がしています。組織を指揮する最高責任者は私ですので「何やっているだオレ!あれもこれももっとできただろ!」と自分自身を叱咤激励する意味でマイナス10点としました。
―― 御社の位置付けは、ソフト製品にサービスなどの付加価値をつけて販売するVADだと思いますが、どのあたりが好調でしたか。
ユーザー企業が困ったときのよき相談相手となり、システム障害などの問題が起きたときに頼れる安心感、定番商材のアップデート情報や新規商材の情報をいち早くユーザー企業に届けて、業務改善やビジネス変革のきっかけにしてもらう価値ある情報を提供するといった強みが業績の伸びにつながりました。製品面では当社主力の取扱製品であるデータベースやシステム運用の管理ソフト、情報セキュリティ、データ活用が堅調に推移しました。
顧客やパートナーの成功のために
―― VADは基本的にはディストリビューターですので、ユーザー企業との間にシステム構築を担うSIerが入るのではないですか。直販も手掛けているのでしょうか。
純粋なお金のやりとりだけを見れば、ユーザー企業への直販が全体の6割余りを占めます。ただ、ユーザー企業の課題は当社の取扱製品だけで解決できるものではありません。システム全体を見ているのはユーザー企業と懇意にしているSIerであることが多く、当社の製品が担う部分に限って、ユーザー企業やSIerに仕事を任されているとご理解ください。
取扱製品の運用に関しては、社内に専門の人材が揃っています。「この部分はアシストに任せたほうが物事がスムーズに進む」と、ユーザー企業やSIerに当社の価値を認めてもらっていることは、とても有り難いことです。
当社としては、ユーザー企業には本業のビジネスを伸ばしてもらい、SIerには担当しているシステム開発プロジェクトを完遂してもらうことが最大の価値提供となります。ユーザー企業やSIerの成功のためなら、どのような座組みであっても柔軟に対応できるよう心掛けています。
―― 前中計の課題点として「組織力」の話をしておられましたが、具体的にはどのようなことでしょうか。
ディストリビューターとして新しい製品を見つけたり、VADとしての新しい付加価値、新サービスを立ち上げたりするには、何を差し置いても人材と組織の力が欠かせません。新製品や新サービスが成功する確率が必ずしも高くないことを念頭に置きつつも、新しい事業に果敢に挑戦をしてこそ、次の成長につながります。
組織に余裕がなければ新しい事業に挑戦もできませんし、万が一うまくいかなくても、成功しなかった教訓を糧にして、次のビジネスに挑戦するのも組織の重要な役割だと捉えています。そのためには、自らも最新のデジタル技術で業務変革しなければなりませんし、徹底的に自動化、効率化して余力を生み出し、中核となる事業や新規ビジネスに挑戦できる体制づくりに積極的に投資をしていきます。ITの会社ですので、自らも飽くなきDXを追求するのは必須です。
五つの柱で新しい中計に臨む
―― 今年1月から始まった新中計についてお話していただけますか。
新中計は25年までの3カ年で、五つの柱を立てています。最初の二つは既存ビジネスの深掘りと既存顧客との関係強化で、いわばアシストの既存の強みを育てる趣旨です。三つめに持ってきたのが前述の新規ビジネスへの果敢な挑戦、四つめがそのための人材育成、五つめが自社のDXによる自動化、効率化による生産性の向上です。
―― 新規事業はどんなものをイメージしていますか。
新しい取り組みという意味では、昨年末からビジネスパートナーとともに共創コミュニティー基盤「With BP!!(ウィズビーピー)」制度を本格的に立ち上げました。パートナー同士の商材を持ち寄ってそれぞれの顧客に最適な提案を行うためのコミュニティーで、アシストもそのコミュニティーのなかに入って価値を共創するものです。今回は当社が販売権を持っていない幅広い商材を使い、パートナーと協業しながら提案する初の取り組みとなります。SCSKやSB C&S、NTTデータ数理システム、JBCC、ジール、電通国際情報サービス、ラックなど11社に参加していただきました。西日本地区のパートナーにも声をかけていくことで30社程度に増やしていきたいと考えています。
デジタル技術で解決可能な範囲が広がるとともにユーザー企業が求める課題の範囲も広がっています。当社が扱う製品には限りがあり、単独ではカバーしきれない部分を共創で補っていきます。当社はディストリビューターとして多数のパートナー企業と接点を持っており、パートナーのビジネスの役に立つ施策の一環でもあります。
―― 既存ビジネスの深掘りや、顧客との関係強化、人材育成ではどのような取り組みをお考えですか。
いろいろ考えていますが、顧客との関係強化では“アシストカレッジ”みたいなものが開けないか検討しています。障害発生時の対応などの実践的な研修を、実機に触れながら学ぶことを想定しています。DXの流れで必ずしもITの専門家ではない事業部門の方々も、最新のITを駆使するケースが増えています。こうした実践的な研修サービスは顧客との関係強化で役立ちますし、当社の付加価値の強化にもつながるとみています。
人材育成では、当社取扱製品のカスタマイズなど部分的な開発にも取り組んでいきます。札幌拠点では約70人体制でユーザーサポートを担っているのですが、開設からおよそ10年が経ってベテラン揃いになりました。彼らのキャリアパスの一つとして開発業務を一部担ってもらうことも検討しています。
こうした取り組みによって、中計最終年度の25年12月期の取扱高は前中計から40億円上乗せして460億円を目標にしていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
大塚社長は「ユーザー企業のビジネスの成功が一番の目標であることは揺るがないし、その目標の達成があってこそ自社の利益がある」との考えを示す。ビジネスパートナーもその点は同じであるはずで、協業の枠組みは常にユーザー企業の成功を軸に据える。
強みとする手厚い製品サポートと、ビジネスパートナーやユーザー企業お抱えのSIerなどとの巧みな協力関係をつくることで自社の存在感を高めてきた。中計最終年度だった昨年度は過去最高の取扱高を更新。企業向けソフトウェアのライセンス販売が売り切り型からサブスクリプション型へ比重が移るなかでも着実に売り上げを伸ばした。
昨年度は折しも大塚氏が社長に就任し、経営の指揮を執り始めてから丸10年を迎えた節目の年だった。「新中計では次の50年を見据えた足場固めをしたい」と未来に思いを馳せる。
プロフィール
大塚辰男
(おおつか たつお)
1956年、新潟県生まれ。83年、アシスト入社。97年、システム管理事業部事業部長。2002年、西日本支社支社長。04年、取締役(中日本・西日本担当)。09年、常務取締役(営業統括担当)。12年、取締役社長。13年、代表取締役社長就任。
会社紹介
【アシスト】オラクルのデータベース管理ソフトや日立製作所のシステム運用ソフトなど約70製品を取り扱う付加価値ディストリビューター(VAD)。2022年12月期の売上高に相当する取扱高は過去最高の約420億円を達成。従業員数は約1200人。