米ServiceNow(サービスナウ)の日本法人、ServiceNow Japanは、2023年度から本社直轄の事業体に昇格し、国内市場に根差した製品戦略、パートナー戦略を進めている。今年1月に新社長に就任した鈴木正敏氏は、さまざまなビジネスプロセスを変革、効率化する同社のプラットフォームの価値を訴求し、「企業がDXを推進する上での柱となる」と意気込む。製造、金融、公共領域での業界特化ビジネスの推進により、さらなる成長を狙う。
(取材・文/大畑直悠 写真/大星直輝)
SoEはIT業界のダイナミズムの中心
―― 1月5日付で日本法人の新社長に就任されました。入社以前は、サービスナウにどのような印象をお持ちでしたか。
サービスナウは広範なプロダクトのポートフォリオを持っており、SoE(システムオブエンゲージメント)の領域では、他社に比べ頭一つ二つ抜けていると思っていました。業界を見渡すと、アプリケーションやインフラなど、領域ごとに地位を確立しているベンダーはいますが、サービスナウが提供する、さまざまなアプリケーションやワークフローをつないでいくような領域では、やるべきことが多く残っており、ここはIT業界のダイナミズムの中心ではないかと思います。
サービスナウの特徴はITサービスマネジメントだけではなく、CX(顧客体験)やEX(従業員体験)といった領域のワークフローや、ノーコード/ローコードツール、業種・業務別のソリューションなど、広範なポートフォリオをシングルプラットフォームで提供していることです。現在もプロダクトを拡充していますが、それらを一つのプラットフォームで管理できることは、大きな強みになると考えています。
―― ビジネスの状況はいかがですか。
サービスナウは比較的新しいプレイヤーではありますが、グローバルでは17年度から22年度までの年平均成長率が32%と非常に高く、昨年度の売り上げは72億4500万ドルでした。すでにキャズムは超えたと認識しています。
日本法人も堅調に成長できており、昨年度は幅広い業種・業態の新規顧客を獲得できました。EX・CX領域で活用する顧客が増加したことも成長の要因になっています。また、プラットフォームの価値を生かした大型契約も増加しており、今後も顧客がDXを進める上での主たる柱となり、支援を加速していきたいです。
こうした状況を踏まえ、日本法人は本年度から米本社直轄の独立採算制に昇格しました。日本法人が設立されて10年となりますが、米本社からは、日本市場にはまだまだポテンシャルがあるとして、大きく期待されています。そのため、どのような組織体制を作り、投資していくべきかが本社を巻き込んだ議論となり、従来のアジア太平洋地域の一市場という位置づけから、本社直轄の独立したリージョンとすることで、中長期的に日本に根差した会社にしていこうということになりました。
独立採算制に移行したことで、これまでより裁量権を得られますので、意思決定や施策の遂行をスピーディーにできます。加えて、日本市場の顧客やパートナーの声を本社に届けやすくなりますので、カスタマー/パートナーサクセスにもつながると考えています。
業種業界特化型の提案を強化
―― 今後の成長戦略を教えてください。
通信・サービスプロバイダー業界を基盤としつつ、製造、金融サービス、公共といった業界特化型のビジネスを推進します。業界別に営業体制を強化していくほか、グローバルのベストプラクティス、ケーススタディを積極的に日本の顧客に提供します。また最新ソリューションをタイムリーに活用してもらえるようにローカライゼーションを加速し、業界ごとに根付いた商慣習や要件に、ソリューションを対応させます。こうした取り組みを強化していくのは、顧客からの引き合いが増加しており、ニーズが高まっているからです。これまでもインダストリー(業界)ごとの取り組みには注力してきましたが、その成果が表れてきています。
私たちのソリューションは、各業務部門の提供するサービスが、エンドユーザーに届くまでの流れを効率化することをコンセプトにしています。こうした特性から、特定の部門への問い合わせでは完結しないような、複数の部門を横断する必要がある業務に活用したいという要望が高まっています。例えば製造業では、品質保証や購買管理といった複数部門を横断したワークフローを構築することで、業務効率化につなげたいというニーズがあります。
この機運をしっかりとつかむべく体制強化を図り、従来のようにIT部門を介して顧客とコミュニケーションを取るのではなく、業務部門と直接やり取りできる業界ごとのスペシャリストの配置を拡大していくことで、このインダストリービジネスを次の段階に引き上げたいと考えています。
―― パートナー戦略についてはどのようにお考えですか。
パートナーとの協業は、日本でソフトウェアビジネスをしていく上で優先事項であることは間違いありません。グローバルである程度共通の、基本的なパートナープログラムはありますが、そこから先の、日本のパートナーごとの特性と市場のニーズに合った施策を個別に展開していこうと考えています。
われわれのプラットフォームの強みは、私たち自身がソリューションを開発できるだけではなく、サードパーティーの持つ製品を連携させた提案もできることです。特定の専門領域を持つパートナーとの協業や、中堅・中小企業向けに、マネージドサービスプロバイダーとのソリューション共創を拡大するといった、一歩踏み込んだ協業も考えています。
おかげさまで日本でのビジネスは堅調に拡大していますし、プロダクトのポートフォリオは広がっていますが、その分、重要になるのはパートナーのデリバリーのリソースです。提案はしたいが、リソース不足であるという状況も生まれているようなので、しっかりとパートナーとともにサービスナウのソリューションを扱える技術者を増やしていきたいと考えています。技術者を育成していく「RiseUp」というグローバルの取り組みもありますので、そうしたプログラムとも連携しつつ、人材育成には力を入れます。
またグローバルでは、「ServiceNow Ecosystem Ventures」という、対象地域のパートナーエコシステムの成長促進を目的としたファンドの設立を予定しており、日本は最重要投資先となっています。これにより、ベンチャー企業への投資に加え、アライアンスパートナーとの協業とゴー・トゥ・マーケット戦略を強化し、日本向け製品のローカライズも加速します。
プラットフォームとしての価値を訴求
―― 日本法人にはどのような企業文化があるとお考えですか。
入社してから感じるのは、仕事に対してすごく熱心だということです。売り上げ目標を達成することや、KPIに沿った業務を遂行していくことは当然のこととして、人材育成や生産性の向上、日本社会のDX推進といった、社会課題の解決に貢献することにも情熱が向いており、それが会社として大きなエネルギーになっています。
―― 今後の展望を教えてください。
やはりITやデジタル技術の導入というのは、単一部門ではなく、複数部門や全社規模で導入するほど大きな効果が出ます。私たちはこれまでITサービスマネジメントを強みとしてきましたが、現在では新規顧客の40%がそれ以外の領域で利用しており、この割合は今後も増加していく見込みです。ですので、広範なラインアップを持つプラットフォームとしての価値を届け、顧客のあらゆるビジネスプロセス改革を支援することが重要になると考えています。
サービスナウのツールを使うことで得られる価値は、まだまだ市場には届けきれておらず、ポテンシャルがあるといえます。契約更新率は98%と非常に高く、「求めていたのはこれだ」と言ってくれる顧客は多いです。今後も新規顧客を増やしながら私たちの価値に気づいてもらい、IT業界の中で大きな流れをつくっていきたいですね。
眼光紙背 ~取材を終えて~
日本法人の独立採算制への昇格は、本社から日本市場に寄せられる大きな期待を表している。
このタイミングでトップに就任した鈴木社長は「プレッシャーもあるが、楽しみなことのほうが多い」と語る。日本市場が注目されるのは、市場規模などの要因もあるが、「本社が日本企業をリスペクトしているから」だ。業務への工夫や求める品質が高いため、日本での成功には定量化できない意味がある。「本社が日本市場を良く理解してくれていることは、かじ取りをする上で非常にありがたい」とする。
一般的に日本企業のDXの取り組みは進んでいないと見られがちだが、「単に遅れているとは、絶対に言いたくない。本当に使命感を持って、ITを使った業務改革を挑む人たちが多くいる」。サービスナウはそうした人たちに寄り添い、「システム的に解決できるところを最適化し、人にしかできないところで人が活躍できる」ように、社会を変革できると信じる。
プロフィール
鈴木正敏
(すずき まさとし)
日本オラクルでの勤務を経て、SAPジャパンのバイスプレジデント、シマンテックの執行役員社長、米UiPath(ユーアイパス)日本法人の取締役兼最高収益責任者を歴任。2023年1月5日より現職。
会社紹介
【ServiceNow Japan】米ServiceNowの日本法人として2013年に設立。ITシステム管理や従業員接点向け、顧客接点向けなど、広範なデジタルワークフローを提供している。グローバルの顧客数は7700社を超え、1500以上のパートナーを有する。