NTTデータグループは、一連のグループ再編で世界第3位のデータセンター(DC)設備を持つSIerへと変貌した。DC基盤からネットワーク、ITコンサルティング、アプリ開発、保守運用までフルスタックで受注する案件が、2023年度上期(23年4~9月)は前年度下期の2倍余りの500億円規模に拡大している。23年7月には持ち株会社体制となり、各国・地域や顧客ごとに最適化したオファリングを強化するとともに、技術や業種ノウハウなどをグループ全体で共有する全体最適化も推し進める。持ち株会社トップとしてグループのかじ取りを担う本間洋社長に話を聞いた。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
3社体制で地域や顧客により密着
――持ち株体制に移行して半年が過ぎました。グループのトップとして24年はどのようなかじ取りをしていきますか。
23年7月1日付で、持ち株会社のNTTデータグループと、国内事業会社のNTTデータ、海外事業会社のNTT DATA, Inc.(NTTデータインク)の3社体制へ移行しました。私はNTTデータグループのトップとして、事業会社同士の相乗効果を最大限引き出せるよう経営のかじ取りをしています。ご存じの通り、SIビジネスの基本は地域・顧客密着で、ユーザー企業の経営戦略を支える立場となるわけですが、一方で当社の強みはグローバルに事業を展開していることであり、全世界の事業会社同士が知見を共有し、共通化できるところは徹底的に共通化していきます。
例えば、ユーザー企業の経営戦略を支えるコンサルティングサービスやITソリューションなどを体系化したオファリングはグループ全体で共有すべきものですし、業種ノウハウも国や地域で違うところはあるものの、グローバル経済のなかで共通するところも少なからずあります。当社グループでは“グローバルワンチーム”と称して、事業会社の組織の壁を越えて、横断的なチームづくりに取り組んでおり、3社体制に移行した今でも変わっていません。
――グローバルワンチームといえば、10年ほど前に当時のNTTデータグループ社員6万人の歌として「NTT DATA One Song」をつくりました。英国に本社を構えるNTT Ltd.(NTTリミテッド)が22年10月に加わるなどしてグループ全体で20万人近い体制になり、改めてグループの一体感を示す施策が要りませんか。
それはさすがに必要ないですね。当時、海外事業が本格的な拡大期に入っていたとはいえ、まだ国内と海外で隔たりがあり、なんとか一体感を醸し出そうとしてグループの歌をつくりました。あれから10年余りがたち、今回の3社体制を発表したときは、むしろ国内の若手から「グローバルな仕事がやりにくくなるのではないか」と不安を訴える声があがったほどです。以前とは比較にならないほどグローバルとの一体化が進んだことを実感しました。
23年度(24年3月期)はグローバルのオファリング強化などでは320億円の投資を行っており、世界のどこの事業会社に所属していても、グループ横断でさまざまな知見を活用できる体制整備を加速させています。
海外148棟のDC、世界第3位の規模
――オファリング関連での320億円は、既存のSI領域での投資と理解していますが、それとは別に主に海外でのDC設備への投資を、23年度は3500億円予定しています。既存SIとは桁違いの投資額となります。
海外DC事業はNTTリミテッドが担っており、3500億円はNTTリミテッドが管轄するDC設備の増強のためです。折からのクラウド需要や生成AIの隆盛もあって、足元のDC市場は供給不足が続いており、当社は27年度までに累計1兆5000億円のDC投資行い、本業の稼ぎに相当するEBITDAで1800億円を稼ぐ事業に育てる計画を立てています。23年度の同事業のEBITDA見込み780億円を2.3倍にするイメージです。
――グローバルのDCは、いま何カ所くらいあるのですか。
NTTリミテッドが所管しているDCは、直近で98拠点に148棟あり、世界第3位の規模になります。24年度も北米やインド、タイなどでDC設備を増強していく予定です。国内ではNTTデータが15カ所のDCを運用しています。
――国内DCはユーザー企業のサーバーやネットワーク機器を預かって運用するオンプレミス用途が多いかと思いますが、海外DCはどんな用途で使われているのですか。
海外では一般企業向けITソリューション基盤として活用する用途が半分弱、大手クラウドベンダーなどハイパースケーラーと呼ばれる業態のユーザーに貸し出している分が半分強を占めます。
NTTリミテッドはDCやネットワーク構築を主力としていますので、一般企業向けの商談もDCとネットワークで終わってしまうケースがありました。もちろんNTTグループとして当社と連携するパターンもありますが、22年10月から当社の事業会社の一つになったことで、IT基盤からネットワーク、ITコンサルティング、業務アプリの構築、運用サービスまでフルスタックで提供できる体制を一段と強化することができました。
私はグローバルワンチーム体制のもと、フルスタックのビジネスを伸ばすことが成長のかぎを握ると見ています。22年度下期のフルスタック案件の受注高は世界で200億円規模でしたが、23年度上期は500億円規模に伸びました。
一例を挙げると、ある北米の運送機械メーカー向けに工場内のネットワーク基盤を整備する商談で、NTTリミテッドや北米事業会社が連携してデータ収集や分析、マネージドサービスまで行うフルスタックでの提案が成約に至っています。23年度通期では、こうしたフルスタック案件の受注が1000億円規模に拡大することを期待しています。
AI需要でDC運営の強みが生きる
――NTTリミテッドは既存のNTTデータの海外事業の規模と匹敵する大きな会社ですが、一つの企業グループとしてまとまりつつあるということですか。
新年度が始まる24年4月1日付の海外事業会社の新しい役員体制を23年10月に発表しました。新年度の役員人事を半年も前に発表するのは当社としては初めてのことです。NTTリミテッドを含めた海外事業の運営体制を早期に示すことで、万全の準備で新年度に臨めるようにするのが狙いです。具体的には海外市場をEMEAL(欧州・中東・アフリカ・南米)、APAC(アジア太平洋)、北米の三つに大きく分けて、それぞれの地域でフルスタックのオファリングを提供できる体制を強化するとともに、DCやネットワーク、SAPなどの地域差はありませんので従来通り世界共通で進めていきます。
――米Equinix(エクイニクス)や米Digital Realty(デジタルリアルティ)といったDC専業大手と並ぶ規模の設備を持ったSIerは、世界で唯一の特色ある立ち位置となりますね。
ユーザー企業のシステムをフルスタックで請け負う場合、省エネであることや二酸化炭素の排出をどこまで抑えられるのかなどグリーン(環境配慮)であることが強く求められる時代です。情報システムで電力を消費する最大の設備はDCですので、自社グループで計画的な投資が可能なDCやネットワーク基盤を持つことは、市場競争力の向上に間違いなくプラスに働きます。折しも消費電力の大きいGPUを多用するAIがあらゆる業務アプリに組み込まれるようになると、DC設備を持つ優位性はより高まります。
――23年度のNTTリミテッドを除く北米の売り上げが前年度比2.9%減の見通しで、増収見込みの欧州や中南米に比べて伸び悩み感があります。
北米は過度なインフレを抑制するための利上げの影響で、IT投資を先送りする動きがあったためですが、今は投資意欲が戻りつつあると見ています。23年12月に北米に出向き、現地の状況を見てそう感じました。楽観はできませんが、受注の前段階の見込み案件も回復傾向にあることは確かです。もう一つ、北米の構造改革の一環で提供価値が限られる収益性が低いビジネス領域から戦略的に撤退していることも減収要因になっています。
――国内ではどうですか。
社会経済を支える大規模な基幹業務システムに多く関わらせていただいていることもあり、安定成長を見込んでいます。基幹領域の刷新案件は、少なくとも30年までは続く見込みで、最新のデジタル技術を積極的に取り込みながらビジネスを伸ばしていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
3社体制へ移行して初のNTTデータグループ全体の幹部研修会「グローバルカンファレンス」を2023年7月にインドのIT産業の集積地であるベンガルール(旧バンガロール)で開催した。本間社長が約150人の経営幹部と一緒に写った写真を見せてもらったが、当然ながら日本人は少数派で、多くが海外法人の幹部。女性比率は3割ほどを占め、多様化やグローバル化が進んでいる印象を受けた。
開催場所にインドを選んだのは、「成長目覚ましいグローバルサウス市場のなかで、インドは重要な位置を占めるから」と本間社長は話す。NTTデータグループにとっても従業員の2割を占める約4万人がインドで勤務しており、主に日欧米のグループ事業会社からのオフショアソフト開発を請け負う。インド国内の市場も勢いよく成長していることから、新体制初のカンファレンス場所に選定し、インド重視の姿勢を示している。
プロフィール
本間 洋
(ほんま よう)
1956年、山形県酒田市生まれ。80年、東北大学経済学部卒業。同年、日本電信電話公社入社。2001年、NTTデータ情報ネットワークビジネス事業本部カードビジネス事業部長。07年、広報部長。09年、執行役員広報部長秘書室長兼務。10年、執行役員流通・サービス事業本部長。13年、常務執行役員第三法人事業本部長。14年、取締役常務執行役員エンタープライズITサービスカンパニー長。16年、代表取締役副社長執行役員法人・ソリューション分野担当。18年6月19日、代表取締役社長。23年7月1日、NTTデータグループ代表取締役社長に就任。
会社紹介
【NTTデータグループ】2023年度(23年4月~24年3月)の連結売上高は前年度比17.5%増の4兆1000億円、営業利益は同12.7%増の2920億円を見込む。英国に本社を置くNTT Ltd.(NTTリミテッド)をグループに傘下に収めたことで海外売り上げが大幅に増える見通し。連結従業員数は約20万人。