米Palo Alto Networks(パロアルトネットワークス)は、ネットワーク、クラウド、エンドポイントの各セキュリティー製品を連携させた、プラットフォームによる対策を訴求している。日本法人のアリイ・ヒロシ社長は、国内でも、大手企業を中心にプラットフォームによるセキュリティー対策の需要が高まっているとし、激化するサイバー攻撃の対抗策として、多くの企業への普及を目指している。
(取材・文/岩田晃久 写真/大星直輝)
変わる顧客の意識
――パロアルトネットワークスは次世代ファイアウォール(FW)のイメージが強いですが、現在は多くの製品をそろえています。製品戦略について教えてください。
次世代FW、SASE(Secure Access Service Edge)製品の「Prisma SASE」、クラウドセキュリティー製品の「Prisma Cloud」、エンドポイントセキュリティーとオペレーション製品の「Cortex」などを展開しています。お客様は、ネットワーク、クラウド、OT・IoTといったさまざまな環境でセキュリティー強化を求められていますが、製品をそろえることで、当社がお手伝いできる場面が広がっています。そして注力しているのが、プラットフォームによるアプローチで、当社では「Platformization(プラットフォーム化)」という言葉を使い、お客様に提案をしています。セキュリティー対策をプラットフォーム化することで、強固な環境を実現できますし、運用も容易になります。
当社は、次世代FWからスタートした企業です。当時のネットワークセキュリティーは、FW、IPS(侵入防止システム)、URLフィルタリング、サンドボックスといった製品をポイントソリューションとして導入し、対策を行っていました。これらの機能をまとめて次世代FWとして提供した、つまり、FWをプラットフォームとして出したということです。最近になってプラットフォームと言い始めたのではなく、当時からプラットフォームでお客様を守るという方向を示していました。
――保護するポイントごとに最適なメーカーの製品を選択する“ベストオブブリード”の思考でセキュリティー対策を行う企業が多い印象ですが、その意識は変わってきているのでしょうか。
かなり変わってきています。先ほど述べたように、企業は、さまざまな環境のセキュリティーを強化しなければなりませんし、働き方も変わったため、管理するデバイスやアプリケーションも増加しています。それらのセキュリティーの強化を図るにしても、お客様には決まった予算があります。また、あるグローバルの調査では、企業は平均して75のセキュリティーツールを利用しているといった結果が出ており、それを運用していくには人材が必要となります。これらの課題を解決するために、グランドデザインを見直し、プラットフォーム戦略にシフトしていくというお客様が増えています。
米国の場合、セキュリティー侵害を受けてから4日以内にレポートを提出することが求められるため、セキュリティー対策は、Mean Time To Detect(平均検出時間)が重視されます。プラットフォームによるアプローチはMean Time To Detectの短縮にも有効です。
今後はAIを利用するために、バラバラのデータを統合して管理していかなければなりません。その際のセキュリティーも、ポイントソリューションよりプラットフォームによる対策のほうが適していると考えています。また、AIを利用する際のガバナンスや、AI自体のセキュリティーはきちんとしているのかといった課題もありますので、事例をつくったり、お客様とのコミュニケーションを増やしたりして、AIの利活用に関するセキュリティーの提案も進めていきます。
――国内企業でもプラットフォーム型の対策の採用は増えていますか。
以前は、次世代FWを利用しているお客様にプラットフォームを提案しても「セキュリティー対策をパロアルトネットワークスに一本化して任せるわけにはいかない」という声がありました。その後、Prisma CloudやCortexを強化してきたことで、(顧客の)意識が変わり、セキュリティー製品を当社で統一するお客様も増えています。あるお客様の例になりますが、当社からネットワーク、クラウド、エンドポイントおよびオペレーションの営業がそれぞれ提案を行っていましたが、お客様から、「一緒のテーブルに座って3年後、5年後までを見据えたセキュリティー対策を提案してほしい」とおっしゃっていただきました。こういったケースはこれからも増えていくと思います。
研究開発に積極的な投資
――自社の強みを教えてください。
当社は研究開発に注力しています。毎四半期ベースで、研究開発に15%超と市場平均を大きく上回る水準で投資を行っていますし、直近の5年間で20社以上を買収して、製品やテクノロジーを強化しています。常に先を見ながら投資することで、市場やお客様が求めるセキュリティーソリューションが提供できます。グローバルで約1万4000人の従業員が働いており、豊富な人材も非常に強みになっていると感じています。また、グローバルで8万5000社超のお客様がいます。利用されている製品からデータを収集し、脅威インテリジェンスに活用、それをまたすぐ最新の脅威動向としてお客様に提供できる点も特徴です。
――セキュリティー運用にも注力されている印象です。昨年は、自立型SOC(Security Operation Center)の「Cortex XSIAM」をローンチされましたが、どういった製品なのでしょうか。
AIとマシンラーニングによりSOC業務を合理化するソリューションです。SOCでは、大量のアラートへの対応をアナリストが行っていますが、AIを活用すると、アナリストは本当に対応が必要なアラートに専念できます。これにより、空いた時間を、新しいプロジェクトに使ったり、社内システムのテストに充てたりすることが可能になりますし、ワークライフバランスの充実にもつながるため、アナリストのモチベーションを向上させることができます。
充実したパートナー支援体制
――長く日本法人の社長を務められています。どのように組織を強化してきたのでしょうか。
私が入社した時の従業員数は40人程度でしたが、現在は約300人まで増えました。そのうち半数がエンジニアで、日本独自のサポート体制を築いています。当社のミッションは、お客様をサイバーセキュリティーのパートナーとしてお手伝いすることです。このミッションに共感し、常に変化を楽しめる人材を採用してきました。エンジニアも営業も、日々トレーニングを行いスキルアップしています。その中で、ワークライフバランスを充実させるのも重要ですので、きちんと休みを取得するのはもちろんですが、ファミリーデーといったイベントを開催するなどして、楽しく働いてもらえる環境づくりをしています。
日本市場への対応としては、複数の製品をISMAP(政府情報システムのためのセキュリティー評価制度)に登録しています。この分野にも引き続き投資を行い、お客様に安心して使ってもらえるようにしたいですね。
――パートナー施策ではどのようなことに取り組んでいますか。
当社の場合、一つの製品を導入していただければアップセルもできますし、製品を活用してパートナーが自社のサービスをつくれるなど、エコシステムも充実しています。こういったメリットをパートナーに伝え、ビジネスプランを一緒につくれるように取り組んでいます。そのために、「Sell-Togather Motion」として、ウェビナーをはじめとしたオンラインイベント、当社やディストリビューターによる製品トレーニングなどをしています。例えば、昨年は600人のパートナーのエンジニアに対してトレーニングを実施しました。
市場には、多くのセキュリティー製品がありますが、パートナーがすべての製品を学び販売するのは難しく、優先順位を付けて製品を扱うようになっています。だからこそ、今後も支援を充実させていきます。
――今後の展望をお願いします。
未来は非常に明るいと思います。日本市場はポテンシャルが高く、当社にはそれに応えられる製品やサポート体制があります。ネットワーク、クラウド、エンドポイントとすべての分野の売り上げが伸びていますので、グローバル同様にPlatformizationを加速し、売り上げを伸ばしていきたいです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
外資のITベンダーの場合、日本法人の代表が短期間で変わるケースは珍しくない。その中でアリイ氏は、2014年8月にパロアルトネットワークス日本法人の社長に就任し、10年目を迎えている。これは、米国本社の期待に応え続けてきた証しだ。
10年前を思い出してみると、国内企業のIT投資の中でセキュリティーは重要視されておらず、後回しにされていたケースが多く、現在と比較すると製品の販売は容易ではなかった。その後、サイバー攻撃が激化したことで、「企業にとってセキュリティーは“Must”だという時代になった」。顧客の意識の変化、市場の拡大により、さらなる成長への期待も大きくなっている。
国内企業のセキュリティー対策は進みつつあるが、まだ十分とはいえない状況だ。これからも、「お客様のセキュリティーパートナー」として、顧客のセキュリティー課題の解決に向けてまい進する。
プロフィール
アリイ・ヒロシ
(Hiroshi Alley)
1963年生まれ、横浜市出身。米国で大学卒業後、本田技研工業の米国法人で営業・マーケティング、品質管理などを担当。海運会社のP&Oネドロイド(現A.P.モラー・マースク)へ移籍し、事業戦略担当者としてアジア太平洋地域を統括。その後、日本BEAシステムズ(現日本オラクル)へ入社してIT業界に転じ、2005年に同社代表取締役社長に就任。07年のウィプロ・ジャパン代表取締役、11年のF5ネットワークスジャパン代表取締役社長を経て、14年8月にパロアルトネットワークス日本法人の代表執行役員社長に就任。
会社紹介
【パロアルトネットワークス】米Palo Alto Networks(パロアルトネットワークス)の日本法人として2009年6月設立。次世代ファイアウォールを中心としたネットワークセキュリティーや、クラウドセキュリティーなど幅広い製品を提供する。