オブザーバビリティー(可観測性)プラットフォームを展開するDatadog Japanは、市場の変化に伴って顧客の裾野が広がりつつあるとし、直販とパートナー経由の両面で、日本市場への訴求力を強化している。2023年には新たな東京オフィスやデータセンターを開設するなど、日本市場へ積極的に投資している。2月にプレジデント&カントリーゼネラルマネージャー日本法人社長に就任した正井拓己氏は、「名実ともにトップのオブザーバビリティーベンダーになりたい」と力を込める。
(取材・文/大向琴音 写真/大星直輝)
企業規模や業種が多様化
――2月に日本法人の代表に就任されました。新たな活躍の場としてDatadog Japanを選んだ理由や、今の心境についてお聞かせください。
IT産業は今、大きな転換期にあります。私自身、28年ほどIT業界で仕事をしてきていますが、現在、社会が直面している変化はこれまでとは比べ物にならないほど劇的で、スピードも速いです。そういった中で、お客様のシステムやアプリケーションの環境はオンプレミスからクラウドにまでわたり、クラウドに関してはマルチクラウド環境やプライベートクラウド環境など、非常に複雑化しています。これらをお客様が全て統合的に管理・運用するのはなかなか難しい状況になっています。
データドッグは、システムやアプリケーション、サービスの環境にとらわれず、全体を統合的に管理・運用すための支援ができる数少ないプラットフォームソリューションを提供しています。私はこれまでもIaaSやPaaS、SaaSのそれぞれのレイヤーに関わる企業で仕事をしてきましたが、今度はさまざまなクラウドを統合的に管理するご支援ができるという意味で、今までの「集大成」だと感じています。製品力はもちろん、ビジネスの成果や日本市場の中での会社としてのプレゼンスといった面で、名実ともにトップのオブザーバビリティーベンダーになっていきたいとの思いを持っています。
――日本市場で導入が拡大しているなど、ビジネスは好調ということですが、理由をどのように分析されていますか。
数年前に導入されたお客様の中での、製品の活用範囲が大きく広がっていることが、ビジネスが好調な理由の一つです。われわれの製品は、最初に1システムや1部門、1事業部での利用、あるいは製品ポートフォリオの中の一部の機能から使い始めるといったように、スモールスタートで導入されることが多いのですが、有用性が認められて、部門横断的に導入していただいたり、複数の機能をご導入いただいたりと、お客様の中でも製品の活用の幅が大きく広がっていくのが一つの特徴です。
また、19年に日本法人を立ち上げた当初は、例えばスタートアップ企業など、クラウドネイティブなビジネスをしている企業での導入が先行していましたが、現在ではより多くのエンタープライズのお客様がクラウドの領域にシフトしてきており、これに伴ってわれわれの製品を使っていただけるお客様の層もずいぶんと変化しています。採用していただく業種、業界も広がってきており、具体的には、金融機関や製造業への導入が非常に加速しています。これらの業種のお客様は、取り扱うデータに関する制限やガイドラインをお持ちのことが多いので、昨年国内にデータセンターを開設したことが一つの契機となり、われわれの製品をより使っていただきやすくなったと分析しています。
日本の顧客のための体制づくり
――国内事業の開始から数年を経てデータセンターの開設に至ったということは、日本市場への投資が加速しているのですね。
はい。データドッグ全体で見ても、日本市場に対しては非常に大きな期待を持っています。日本は市場自体やIT投資の規模が大きい一方、例えば言語や文化については、ユニークかつ複雑なところがあります。ですから、データセンター開設のほかにも、日本人が日本語を使って、セールスチームと一体となって製品のサポートを実施する体制をつくるなど、お客様に対して誠実に取り組むようにしています。これは当たり前のようですが、外資系のITベンダーではこうした体制を持つことが難しい状況であることが少なくありません。日本法人を設立して5年目の段階で体制を整備し、日本のお客様を後押しできるようになっているところは、われわれの強みの一つだと感じています。
――製品に関する強みはどのようなところにありますか。
先に述べたとおり、オブザーバビリティーに関する機能を統合的に提供できることや、オンプレからクラウドまで、システム環境に依存せず支援できることはもちろん、ユーザーエクスペリエンスに非常に力を入れており、製品を活用していただくための学習コストが低いところも特徴的です。統合的に機能を提供しているとしても、お客様がそれらを使いこなせなければ、さまざまなツールを組み合わせて使っていた今までの環境とさほど変わらなくなってしまうわけです。われわれは、製品を使いこなしていただくためのユーザーエクスペリエンスも全て統合的に提供しているので、部門を越えたユーザーが「Datadog」という一つのプラットフォームを使ってオブザーバビリティーの機能を利用できると考えています。
また、バックエンドのシステムの運用管理だけではなく、サービスの開発に貢献できる機能も備わっています。システム運用とサービス開発の連携を強化していきたいとのニーズがお客様の間で強まっていますので、その橋渡しができるのも強みだと感じています。
直販とパートナー両面の体制を強化する
――今後の販売戦略に関して伺います。事業戦略説明会では具体的な施策として、社内で新たなセールス部隊を立ち上げると発言されました。詳しく教えてください。
元々、社内のセールス部隊として、いわゆる大企業向けの「エンタープライズ」と、中小規模の企業を担当する「コマーシャル」が存在していました。最近ではお客様の裾野が広がり、中堅企業向けのビジネスもかなり成長してきています。そこで、エンタープライズとコマーシャルの間に中堅企業専属のチームを立ち上げることにしました。大企業、中堅企業、小規模企業のそれぞれの組織規模によって、要件やクラウドへのトランスフォーメーションの進行度合いも異なるからです。ニーズをきちんと理解して、最適な提案をしていくためには、それぞれのマーケットごとにチームを立ち上げることが重要だと考えています。24年内には確実に立ち上げる予定で、現在、準備を進めているところです。
――パートナー戦略に関してはいかがですか。
導入・展開が容易な製品特性もあり、これまでは直販に主軸を置いたビジネスを展開してきましたが、現在は直販と並行してパートナー戦略にも力を入れています。日本法人を成長させていくことだけでは追いつかないほどマーケットが拡大してきているからです。
今後は、パートナーとの取り組みで、これまでなかったような業種、業界に一緒に参入したり、あるいはすでに一部の製品を取り扱っているパートナーに、より多くの製品を取り扱っていただいたりしたいです。先ほど、お客様の業種、業界が拡大していると申し上げましたが、このようなニーズの広がりに合わせてパートナーとの連携も強めなければならないと捉えています。
われわれのパートナーは、クラウドサービスプロバイダーとチャネルパートナーの大きく二つに分けられます。クラウドサービスプロバイダーとは、ターゲットとする業界などを設定して共同でビジネスを推進しています。
また、お客様の裾野が広がりましたので、チャネルパートナーと共に改めてエンドユーザーの支援に取り組みたいです。お客様のクラウドシフトのステージによって、パートナーの役割は変わってきます。大きな開発や運用のプロジェクトを担当されているパートナーがあり、また、クラウドに特化した非常に高いスキルをお持ちのパートナーもあります。われわれとしては、エンタープライズのお客様に関しては前者のパートナーとご一緒し、クラウドネイティブなお客様に関しては後者のパートナーとご一緒するなど、どちらのパートナーとも連携していきます。
パートナーとの協業を深めていくための具体的な取り組みの一つとして、日本語での認定試験を開始しています。そのほか、今後は製品をより知っていただき、有効活用していただく場を積極的に提供していきたいと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「名実ともにナンバーワンのオブザーバビリティープラットフォーム」を社員全員で目指すために、社員には「グロースマインドセット」を持ってほしいと伝えているという。テクノロジーや業界が急激に変化していく中で知識や能力を成長させていくとの側面はもちろん重要だが、それ以上に、社員同士や顧客、パートナーなどの他者にいかに貢献することができるかの側面を大切にしてほしいと考えているそうだ。この考え方を実践することで、Datadog Japanがワンチームとして機能することができるようになるとみている。
米国本社はニューヨークに位置しているが、「米国の東海岸の企業が得意としているオペレーションと、西海岸のスタートアップ企業の要素である従業員を大切にする姿勢を併せ持っている」と語る。「いいとこどり」の企業文化を日本法人の中で根付かせ、ワンチームで事業にチャレンジできる体制をつくることもリーダーの役割だと心得ている。
プロフィール
正井拓己
(まさい たくみ)
1996年、明治大学商学部を卒業し日本IBMに入社。複数の事業部のほか米IBMでも勤務。2013年にPivotalジャパンのエリアバイスプレジデント兼日本法人ゼネラルマネージャー、19年に日本マイクロソフトの業務執行役員インテリジェントクラウド担当、20年に米Workday(ワークデイ)日本法人のエグゼクティブ・プレジデント兼日本担当ゼネラルマネージャー日本法人社長を歴任。24年2月から現職。
会社紹介
【Datadog Japan】米Datadog(データドッグ)は、2010年にニューヨークで創業。ITインフラやアプリケーションパフォーマンスの監視、ログ管理などを統合したオブザーバビリティープラットフォームを提供している。日本市場では18年にオフィスを開設し、19年に日本法人のDatadog Japanを設立した。