1969年に日商岩井(当時)のIT子会社として設立された日商エレクトロニクスが、今年7月に「双日テックイノベーション」に社名を変更した。4月に新社長に就任した西原茂氏は、新社名に込めた意味について「テクノロジーでイノベーションを起こす会社」と表現した。これまで培ってきた技術力をはじめ商社系ITベンダーとしての強みを生かしながら、オファリングビジネスの推進など新たな取り組みに挑戦して存在感を強め、ビジネスのさらなる拡大につなげる姿勢だ。
(取材・文/大向琴音 写真/大星直輝)
リスタートの新鮮な感覚
――今年4月に新社長に就任されました。これまで商社で経験を積んできた中で、ITという異業種への転職についてどのように感じていますか。
大学卒業後、日商岩井に入社し、それからは主に鉄鋼や金属資源、生活産業や不動産などのビジネスに携わってきました。これまでIT関係の方と話す機会はありましたが、本格的にITのビジネスに携わるのは初めてです。ビジネスモデルも業界の常識も今までと違いますので、新鮮な気持ちです。
――7月には、日商エレクトロニクスから社名を変更しました。
社長も社名も変わり、社内は「リスタート」という新たな感覚が持てる環境になったと感じています。社名の変更については、実は以前から話が出ていたのですが、なかなか踏み切れずにいました。私が新社長となってそれを引き継ぎ、社名変更を実施することになったのです。
――社名の「双日テックイノベーション」にはどのような意味が込められているのですか。
日商エレクトロニクスは1969年に日商岩井の子会社として創業しましたが、日商岩井が2004年4月に双日に社名を変更して以降も、当社は20年間、「日商」という名前を使っていました。双日への社名変更から20年が経ったタイミングで新たな冠をつけるのには意味があります。一つは、双日のグループ会社で、IT企業であることを示すためです。また当社は現在、キャリア向けのネットワーク機器販売や、商社・金融向けのシステム開発、ITインフラの構築やソリューション提供、あるいは双日向けを中心としたマネージドサービスなど、さまざまな事業に取り組んでいます。これまでの「エレクトロニクス」という名称は、必ずしも事業に合致していませんでした。そのため、より業態に合った「テクノロジーでイノベーションを起こす会社」という意味の社名にしました。これはわれわれの理念でもあります。社名を変更した7月1日には全社員でイベントを開催し、「会社を飛躍させていこう」との決意を新たにしました。
――社名以外にも変化したことはありますか。
名称を変えるだけでなくコーポレートブランディングも見直そうということで、特に本部長や本部長補佐、副本部長といったクラスの社員が、ミッション、ビジョン、バリューについて議論し、「われわれの存在意義とは何か」について見直しています。部長より下の社員に向けては、会社の方向性やブランディングの考え方を理解してもらうために、社員の階層ごとにワークショップを開催しています。一方、社名を変更して社外にどんなことを打ち出したいのかをお伝えしたいと考えており、11月には新社名の略称である「STech I(エス・テック・アイ)」を冠した初めてのフォーラム「STech I Forum 2024」を開催しました。
このように社内外に周知をしている段階ですが、社員が会社の新たな姿をきちんと“自分ごと”として腹落ちし、社外の方々に発信できるようになることがとても重要だと考えています。「こういう社名になって、こういう会社を目指しています」ということを社員がそれぞれの立場で伝えていけるようにしていきます。
オファリングビジネスを推進
――これまでの会社の歩みを踏まえて、双日テックイノベーションの強みはどこにあると考えていますか。
われわれは、米国発のIT機器を発掘して日本に紹介していくことを大きな武器としており、それに伴って培ってきた知見や技術力を強みとしています。例えばキャリア向けに、米Juniper Networks(ジュニパーネットワークス)製品を中心としたネットワーク機器の販売を手掛けてきました。また、システム開発の分野では、当社を含む国内IT企業によるコンソーシアムが提供する国産ERP「GRANDIT」をベースとした、商社の基幹システムの構築でも実績があります。
親会社の双日やグループ会社との関係も、われわれの一つの強みにしていかなければならないと考えています。双日は総合商社ですから、金属や食料、自動車、プラントなど幅広い事業を展開しています。本年度からスタートしている双日の新しい中期経営計画の中では、DXを戦略的強化領域の一つに挙げています。日商エレクトロニクス時代は、当然、双日に関わるシステムの保守を手掛けていましたが、一方で当社は独自に生きていくという考えが強い面もありました。加えて、ほかのグループ会社との連携についてはあまり手掛けられていませんでした。しかし今後、ITの分野においては双日テックイノベーションが先導者として、グループ全体を引っ張っていくことになると思っています。また今の時代、セキュリティーも大変重要です。コストとの兼ね合いもありますが、(グループ会社を)一元管理できるかたちに整備するためにも、双日ならびにグループ会社との連携を深めていきたいです。
――注力したい事業や商材について教えてください。
人手不足やコスト、ビジネスのスピードなどに対応するという意味で、SI的に一つずつシステムを開発するだけでなく、オファリングビジネスをもう少し推進していきたいと考えています。われわれは商社系のIT企業ですので、商社の業務に関しては非常によく分かっています。長年のノウハウが蓄積されています。一口に商社といっても、総合商社から専門商社までさまざまで、ビジネスが非常に複雑です。商社に知見がある当社だからこそ取り組める領域だと思います。例えば、ある商社向けに納入したシステムをテンプレート化し、ほかの商社にご紹介することが考えられます。カスタマイズする考え方から、いかに標準化していくかの考え方へ変えていくということです。つまり、自社商品をどのようにつくるかに、注力していきたいと思っています。ただし、商社系のITベンダーはほかにもありますから、GRANDITなどをうまく使って競争力を高めていきたいです。
ネットワーク機器も主力事業の一つです。前述したジュニパーネットワークスも含め、米国のベンダーの再編が進んでいます。先ほど申し上げた技術力という強みを生かしてベンダーとより強い関係を築き、それをベースに顧客基盤を拡充していく流れをつくりたいと考えています。
顧客企業の経営改革にまで取り組む
――今後の目標や展望についてはいかがでしょうか。
われわれの強みは、米国発の製品を発掘して、日本に紹介してきたことにあります。例えば、オンライン会議ツール「Zoom」の代理店としてかなり貢献度が高いです。コロナ禍においてZoomのニーズは急激に増え、顧客層はずいぶん広がりました。ただし、顧客数を増やしてたくさん売っていくだけでは面白くありません。販売した後には、当然、オフィス環境や働き方、経営手法などに関するさまざまな顧客のニーズが聞こえてくるわけです。これからは、ITツールを売るだけにとどまらず、企業の経営改革につながるビジネスにも取り組んでいかなくてはなりません。
その先にはデータやAIのような話が出てくるのだと思います。データやAIにどのように取り組むのかについて、企業はかなり悩んでいます。ですから、(ITツールから経営改革まで)全体でソリューションを提供できるようになることが一つの大きな目標になるでしょう。ITツールを導入した後に、より顧客の価値につながる部分までを支援していくということです。単に売って終わりでは、存在感を発揮できなくなってきています。いかに付加価値を高めていくのかということを考えると、やはりソリューション提供なのだと思います。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ビジネスで意識しているのは、「本質を見極めること」と「不撓不屈の精神」だという。西原社長は、会社が置かれている状況や顧客が考えていることの本質を見極めず、単に表層を見ているだけでは、「ビジネスに深みは出ないし、価値は生まれない」と指摘する。考え抜くことややりきることは「ビジネスの基本中の基本」と考えている。いずれも実践するのは簡単ではないが、意識しながらこれまで仕事に向き合ってきた。
社員とコミュニケーションを取る中で、双日テックイノベーションはこれら二つの精神をきちんと持ち合わせた組織を目指しているのだと感じた。西原社長は、そうした姿勢を磨くことで、さらに素晴らしい会社になるだろうと展望する。これも自身の仕事の一つだと語るその目には、今後への確かな期待が見えた。
プロフィール
西原 茂
(にしはら しげる)
1986年3月に横浜国立大学工学部を卒業後、同年4月に日商岩井(当時)に入社。2004年4月の双日への社名変更後、石炭部長や経営企画部長、執行役員、常務執行役員などを経て、20年6月に専務執行役員米州総支配人兼双日米国会社社長。22年4月にメタルワンで代表取締役副社長執行役員に就任。24年4月から現職。
会社紹介
【双日テックイノベーション】1969年、日商岩井(現双日)が日商エレクトロニクスとして設立。2018年に双日システムズと合併。24年7月に現社名に変更。24年3月末時点の連結従業員数は908人。ネットワーク・ITインフラの構築や、システム開発、運用・保守、DX支援などの事業を展開する。