クラウドインフラで確固たる地位を築くアマゾン・ウェブ・サービス・ジャパン(AWSジャパン)は、生成AIの領域でも業界をリードする存在になろうとしている。2024年11月に社長に就任した白幡晶彦氏は「顧客の多様性に応える存在になる」と意気込み、パートナーエコシステムの発展を生成AI関連ビジネスの成長のかぎとする考えを示す。
(取材・文/大畑直悠 写真/大星直輝)
顧客の中長期的な成功にコミット
――仏Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)日本法人のトップといった経歴を踏まえると、AWSジャパンの社長就任は意外な印象があります。
一見、変わった経歴に見えるかもしれませんが、これまで配電機器や制御機器といったハードウェアをIoT化し、ソフトウェアとつなげてスマートファクトリーやスマートインフラストラクチャーを実現する事業などを手掛けてきました。データを収集し、分析し、意味づけして、データから価値を生み出すという点では、AWSジャパンが生成AIなどで顧客に提供する価値とそう遠くありません。むしろデータを収集する機器などを扱うという、より顧客に近い場所に身を置いてきた経験は強みになるでしょう。
――国内の市場環境をどうとらえていますか。
生成AIを含むクラウド上で提供されるさまざまなサービスや技術のアップデートサイクルがあまりに早くなり、短期的な目線ではないグランドデザインを描くことが重要になったと考えています。当社は中長期的な成功にコミットする会社として顧客を支えたいです。人材育成やサステナブルなインフラの整備といった支援が重要になるでしょう。
サステナビリティーに関しては、24年1月に米本社が発表した、日本に対して2兆2600億円を27年まで投資する計画に、電力使用効率を最適化したデータセンターの建設を盛り込んでおり、計画は順調に進んでいます。
エコシステムで生成AI活用を支援
――生成AIが注目されています。国内の活用状況をどのように見ていますか。
生成AIの活用は世界で見てもまだまだPoC(概念検証)の段階です。25年はこれがどれくらいの規模とスピードで、国内企業でも活用されるようになるのか注視しており、当社としても顧客やパートナーと伴走しながら、活用のあり方を探っていきます。
国内独自の取り組みとして「LLM(大規模言語モデル)開発支援プログラム」や「生成AI実用化推進プログラム」といった支援策を展開してきましたが、今後も同様の支援が必要になるでしょう。
――生成AIアプリケーションの構築支援には各社が力を入れています。AWSジャパンの優位性を教えてください。
当社はお客様のニーズありきでビジネスを考えることを重視しており、生成AIに関しても変わりません。生成AIアプリの構築やデプロイを支援するサービス「Bedrock」によって、顧客がコストとパフォーマンスのバランスを見ながら、ニーズに応じて基盤モデルや、学習・推論用のチップなどのインフラを選べるようにしており、選択肢の幅広さが強みです。
加えて、パートナーとの連携が、生成AIの提供に関してもうまく機能している点が挙げられます。米本社は24年3月、パートナーの技術的な専門知識とカスタマーサクセスのノウハウを評価する「コンピテンシープログラム」に、「生成AIコンピテンシー」を設けました。国内では24年3月に野村総合研究所、25年1月にアイレットが取得しており、ほかのパートナーも取得に向けて協議を進めています。
――これまでクラウド環境の構築を手がけてきたパートナーに対し、生成AIアプリの構築の際にはどのような役
割を期待しますか。
生成AIの活用はビジネスの変革に関わるため、顧客のIT部門の課題を解決するだけの問題ではありません。パートナーはITインフラのスペシャリストとしての役割だけでなく、顧客の業務のプロセスや課題に精通したコンサルティング的な役割が必要になります。今後、上流のアプローチをパートナーに求めることもありますし、必要な材料を当社が提供することも重要になります。
――パートナーによっては上流から下流までのアプローチを一貫して担うのは難しい場合もありませんか。
重要なのはエコシステムとして顧客を支援することであり、パートナー間でも各社の強みを生かして連携する仕組みが必要になるでしょう。IT業界の過去を見ても、ハードウェアとソフトウェアの垣根を越え、スマートマニュファクチャリングのようなかたちで価値を提供するといった、既存のすみ分けを崩していった例があります。これが起こらないと本格的なDXの支援はできません。当社がどのような役割を果たすべきかは検討している最中ですが、生成AIにおいても当社のコミュニティーの中から(パートナー同士の)垣根を越えるような事例や協業を生み出せるように力を尽くしたいです。
また生成AIに関する深い知見を持つスタートアップとの協業も重視します。AWSジャパンの歴史を理解するほど、新しいテクノロジーに挑戦するアーリーアダプターと連携してコミュニティーを立ち上げる重要性は明らかで、彼らとの連携はわれわれのDNAとして大事にしなければなりません。生成AIに関しても、新興のスタートアップが最初に仕事をする相手がAWSジャパンでありたいと考えています。
国内の隅々に新しいテクノロジーを
――生成AIのほかに、パートナーと取り組みたいことはありますか。
地方向けのビジネスに関してもパートナーとの連携を重視しています。国内では、各地それぞれにITエコシステムが形成されているため、社内では、あらゆる地域で、その場所のエコシステムの特性に応じたビジネスができるようになろうという話をしています。それぞれの地域に合わせた協業のかたちを探る必要があるでしょう。
パートナーとの協業は当社の成長戦略のど真ん中の一つです。あらゆる業界に対して、パートナーと協力しながら、国内の隅々に新しいテクノロジーを届けていきたいです。
――組織マネジメントの観点で重視することを教えてください。
入社してまず感じたのは、顧客の多様性です。基幹システムのクラウド化に取り組む企業もあれば、そもそもクラウドネイティブな企業もあります。当社オフィスのエレベーターに乗ると、白いワイシャツにネクタイをしている人もいれば、Tシャツに短パンの人もいるわけです。であるならば、当社の社員の価値観も多様でなければなりません。お客様を見て、お客様ありきで仕事をするのが当社の一丁目一番地ですから、カルチャーの違いを当たり前に受け入れられる組織をつくりたいです。
お客様が成功するために「すごい」と言われる会社を目指します。これまでお話ししたこと全てが、お客様のためになり、ひいては、日本社会に貢献するものとなるように、ビジネスを進めます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
オフィスには「IT‘S STILL DAY ONE(常に1日目)」との言葉が掲げられている。アマゾングループ全体で共有している理念である。クラウドインフラで圧倒的な地位を築く同社ではあるが、毎日が1日目であるという思いを持ち、最初の一歩を踏み出す挑戦者としての気持ちを持ち続けることを大事にしている。白幡社長は「当社はまだまだこれから」と話し、自社が持つ可能性を探求することに「わくわくする気持ちだ」という。
力を入れる生成AIビジネスは顧客の業務変革に大きなインパクトを与えるポテンシャルがある。一方でコストに見合った成果を出すには、顧客が望む用途に応じたアーキテクチャーを選択できるようにする必要がある。顧客のニーズの多様性に応えるために、新しいパートナーエコシステムの模索や、最新の技術の提供に向けた挑戦に意欲を示す。
プロフィール
白幡晶彦
(しらはた あきひこ)
慶應義塾大学文学部卒。1994年に日商岩井(現双日)に入社。2003年から米General Electric Company(ゼネラルエレクトリックカンパニー)のセンシングや検査機器の部門などで日本の責任者を歴任。18年に仏Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)日本法人のカントリープレジデントに就任し、国内における全事業を統括する。24年11月から現職。
会社紹介
【アマゾン・ウェブ・サービス・ジャパン】米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)を親会社に持つ、クラウドインフラ大手の米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)の日本法人。国内には東京リージョン、大阪リージョンを持つ。