仮想化基盤で大きなシェアを持つ「VMware」。米Broadcom(ブロードコム)による買収後、機能ごとに分かれていた多数の製品をまとめたスイート製品としての提供に切り替えた。部分的な仮想化ではなくモダンプライベートクラウドを実現するとの方針を掲げる中、日本法人の山内光カントリーマネージャーは「ITインフラの在り方を考える良きアドバイザー」として、国内でのビジネス成長につなげていく考えを示す。
(取材・文/堀 茜 写真/大星直輝)
ITインフラを再定義する
――買収という大きな変化があった後にカントリーマネージャーに就任しました。
買収完了後に前任者が退任することになり、チャレンジしてみないかという話が寄せられました。いろいろな思いもありましたが、挑戦してみようと受けました。周りの皆さんからは「大変な時に……」と言われますが、私は会社に15年おり、使っている技術やお客様、パートナーを含めて全く新しい環境から始めるわけではないので、外から見られるほどの大きな変化はないです。
――ブロードコムによる買収完了後、製品のライセンス体系の変更が発表され、VMware製品を導入している企業に
は大きな影響がありました。日本法人トップとしてこの変更をどう感じていましたか。
AIのような新しいトレンドが登場する中で、より効率的なITインフラの運用を考え、ITインフラ自体をどのように再定義していくかが社会的課題になっていると考えています。新しいモダンなプライベートクラウドの在り方を再定義する代表的な製品として、2025年に「VMware Cloud Foundation(VCF)9.0」をリリースしました。VCF自体は16年に初期リリースしていますが、今まさに必要とされるタイミングが訪れています。それを実現するための製品やビジネスモデル、内部的な組織を含め、ヴイエムウェア全体の事業変革が必要でした。
VCFは、コンピュート、ネットワーク、ストレージなどのいろいろな管理製品を一つの製品としてリリースしているのですが、買収前はそれぞれが独立した製品になっていて、必ずしも一つ一つの製品の互換性がしっかり担保されていない部分もありました。それが買収完了後、製品開発部門を一つにして、それぞれの機能がしっかり連携し、一つのモダンプライベートクラウド製品というかたちでリリースしており、必要な変革だったのではないかと思っています。
――ライセンス体系の変更以降、「VMware離れ」という言葉も聞くようになりましたが、国内のビジネスの推移はいかがですか。
具体的な業績や数字は公開していませんが、結論から申し上げると非常に好調です。買収前も買収後も、競争原理の中で事業展開をしてきて、VMwareとそれ以外の比較軸というのは当然昔からありましたし、パブリッククラウドとプライベートクラウドという比較軸もあります。日本において好調な理由はいくつか要素がありますが、従来の部分的な仮想化ではなく、全体をしっかり仮想化してそれをオペレーションモデルに落とし込むというモダンプライベートクラウドのコンセプトを多くの方に共感いただいて採用してもらっているのが一番大きいです。
――製品体系が大きく変わったことで、価格面でフィットしない顧客も出てきています。より価値を訴求できる大
規模ユーザーにフォーカスするのか、スモールアカウントに対しても何らかアプローチする方策はあるのですか。
VCFやモダンプライベートクラウドで実現する価値は、企業規模には関わらないと考えています。少なくとも私が見る限りだと、当然大規模なお客様も採用していますが、中堅以下の規模のお客様でも、VCFの価値を理解いただいて採用している企業はあります。セキュリティーやデータ主権を重視し、今後出てくる新しいAIのワークロードを一つの運用モデルで実現することは、ITインフラとして絶対的な要件になると考えていて、そのニーズに対してわれわれの価値を提供していきます。
部分最適から全体最適へ
――製品群を集約したVCFは、ITインフラの部分最適から全体最適を考えるという提案なのでしょうか。
当社が提供する一番大きい価値は、ソフトウェアベースでプライベートクラウドを構築する点です。それにより物理的なハードウェアのリソースを最低限に抑えて集約することができます。ソフトウェアベースになると、設定変更や運用が非常に簡素化されるので、運用コストも軽減されます。これが部分的なサーバーのみの仮想化にとどまると、価値を最大限享受いただけません。VCF9.0は一つの製品として提供され、各機能の連携がより密接になっています。
製品の機能連携が密に図れているので、真に一つのモダンプライベートクラウドを実現する製品に仕上がっています。さまざまな機能強化をしており、セキュリティーや、システムを止めずにバージョンアップできる点など、これまでよりも日本のお客様が重要視している課題を解決できるようになっています。また、プライベートAIのケーパビリティーも提供していきます。リリース前の評価フェーズで日本の顧客やパートナーに入ってもらい、日本のお客様目線での品質を満たしたものになっています。
――多くの企業がパブリッククラウドも含めていろいろなものを経験した中でオンプレミス回帰の機運が高まり、プライベートクラウドが求められてきているのでしょうか。
日本においては、10年ほど前にクラウドファーストという流れがあり、クラウド化が手段ではなく目的になってしまったような側面もあると思います。業務で必要な時に瞬時にリソースが提供されるパブリッククラウドのユーザーエクスペリエンスと、オンプレミスが得意とするセキュリティーやデータ主権、コストの見える化ができるといったメリットを融合させたのが、VCF9.0の大きな特徴だと考えています。今後よりAIを活用していくとなった時に、コスト面もありますが、重要なデータやセキュリティーの観点からプライベートクラウドを検討するきっかけになっています。
――AI活用という文脈では顧客にどんな提案をしているのでしょうか。
エンタープライズ企業がより業務に近い競争領域にAIを適用していく際に必要になるのが、AIアプリケーションなど機密性の高いソリューションを効率的に運用するためのインフラの在り方です。当社ではクラウドオペレーティングモデルと呼んでいますが、すでに持っているITインフラとワークロードをモダンプライベートクラウドにブラッシュアップし、運用も含めて実装していきましょうと提案しています。
AIに密接にひも付くのはGPUです。高価なGPUを効率的に使うためにGPUの仮想化が重要な技術になり、VCF9.0では各半導体メーカーとの協業で実装されています。それを実現するための準備を進めている段階で、数年以内にはエンタープライズの重要なAIビジネスはプライベートクラウドの中で実現するという世界が来るとみています。
引き続きパートナーを重視
――ブロードコム体制下で、パートナープログラムに変更はありましたか。
VCFを中心としたモダンプライベートクラウドを日本で推進するために、一緒に協業いただくパートナーを引き続き重視しています。モダンプライベートクラウドの世界観を理解いただき、それを実装する上で必要な技術があるので、エンドユーザーに届けていただくパートナーによりフォーカスし、日本において事業を展開しています。パートナーの数は公表していませんが、当社がフォーカスしている方針に沿ってご一緒いただいているパートナーと密に連携しています。
――VCFにフォーカスすることでパートナーに求める役割は変わってきますか。
VCF9.0は、サーバーやネットワーク、ストレージ、それぞれ仮想化領域があり、それを束ねる運用管理機能があります。技術領域をまたいで一つの製品として提供しているので、エンジニアスキルや構築能力は多岐にわたります。当社はメーカーとしてそれを実現するための各種トレーニングや認定資格制度を日本語で整備していますので、国内のパートナーのスキルアップをサポートしていきます。すでに多くのパートナーは、モダンプライベートクラウドの在り方や日本市場における適用価値を十分に理解いただいています。
――今後、日本企業にどんな価値を届けていきますか。
お客様に、仮想化からモダンプライベートクラウドへと一つステージを上げていただき、最適なコストやセキュリティーといった最大限の効果を提供することが、一番大きいミッションです。VCF9.0の実装は26年が重要なフェーズになります。ITインフラがどうあるべきかを示しながら、お客様に伴走し、良きアドバイザーになりたいです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
日本法人のトップに就任して以来、初めて個別のインタビューに応じてくれた。8月に米ラスベガスで開催された年次イベントに記者が参加した際に、日本の顧客とパートナーに向けてぜひメッセージを語ってほしいと依頼したのが実現した。
仮想化基盤としてVMwareが日本企業で広く採用されているからこそ、ライセンス体系の変更がもたらした影響は大きかった。競合から代替製品も多く登場し市場が活性化されているともいえる。
ITインフラの再定義は、事業戦略を描く上でどの企業にも避けられない課題だが、ヴイエムウェアが提案するモダンプライベートクラウドを実現し成長につなげる企業がどれほど出てくるのか。2026年の市場動向からますます目が離せない。
プロフィール
山内 光
(やまうち ひかる)
青山学院大学国際政治経済学部卒業。2001年、日本SGI(現日本ヒューレット・パッカード)に入社しエンタープライズ向け営業およびチームマネジメントに従事。10年、米VMware(ヴイエムウェア、現米Broadcom=ブロードコム)日本法人に入社。NTT営業部部長、Global Account and Telco部門のGlobal Client Directorを経て、24年7月より現職。
会社紹介
【ヴイエムウェア】サーバーなどの仮想化ソリューションで大きなシェアを持つ米VMware(ヴイエムウェア)は1998年創業。2004年米EMC(イーエムシー、現米Dell Technologies=デル・テクノロジーズ)が買収。21年、デル・テクノロジーズからスピンオフし、再び独立企業に。23年、米Broadcom(ブロードコム)が買収。日本法人は03年設立。買収後も、日本法人は「ヴイエムウェア」の社名で事業を展開している。