製造や流通向けのシステム構築から、車載や通信などの組み込み開発、半導体設計まで、多様な領域で実績を積み重ねてきたNSWが、次の注力分野として掲げるのは、現場経験の強みを発揮できるフィジカルAIだ。4月に就任した竹村大助社長は、可視化したフィジカル情報をAIで価値に変え、現場に還元する具体像を提示。国内外の技術を結集し、「日本をフィジカルAIのリーダー国にする」と力を込めた。
(取材・文/春菜孝明 写真/大星直輝)
勢いと現場感が持ち味
──NSWに25年在籍されています。これまでの経験をどのように生かしていきますか。
入社以来、開発に関わり、プロジェクトマネジメントや新しいソリューション、サービスの立ち上げにも携わってきました。私は営業畑というより、技術を起点に新しいものをつくってきた人間です。グローバルパートナーとのアライアンスや、ベンチャー企業の技術発掘にも取り組んできました。その経験は生かせると思います。
──創業家以外からの社長就任となります。プレッシャーはありませんか。
プレッシャーはありますが、これまでのやり方を踏襲しながら、自分なりのカラーも出していきたいと思っています。持ち味は勢いと現場感ですね。
──足元のビジネスの状況を教えてください。
2026年3月期については、売上高は予想を上回りました。営業利益も、ブランディングのための広告宣伝や教育投資など、10億円の投資を織り込んだ計画に対して上振れて着地しています。既存の基幹システムのモダナイゼーションといった企業のDX化の流れを捉えられています。
──会社の強みは何でしょうか。
大きく三つあります。一つめは技術領域の幅広さです。当社は半導体設計からクラウド運用まで手掛けていますが、ハードウェア寄りの技術に強みがあります。二つめは、さまざまな現場の仕事をしてきたことです。製造工場、流通小売の店舗、半導体設計の現場など、実際の業務が動く場所を熟知しています。
最後は組織としての意思決定の速さと自由さです。オーナー企業ですのでスピード感がありますし、独立系SIerであるため、製品や技術の選定についてベンダーの縛りもありません。顧客にとって最適なものを選べる自由度があります。
頭の中の知見をどう活用するか
──現在の注力領域を教えてください。
フィジカルAIへの注力を掲げています。当社はデバイス、クラウド、AI、そして現場の知見を持っているので、フィジカルAIを届ける役割を担っています。これは全社横断のプロジェクトです。
フィジカルAIと言うと、ヒューマノイドのイメージが先行していますが、当社が考えるフィジカルAIはそこではありません。これまで生成AIが学習してきたデータの多くはデジタルデータです。一方、日本の製造現場などには、まだ十分にデータ化されていない物理的な情報が多くあります。現場のフィジカルな情報を取得し、生成AIに入れ、そこで判断やアドバイス、アイデアを出力し、再び現場に戻す、このループをフィジカルAIと捉えています。現場からデータを抽出するのは、当社が取り組んできたIoTの分野でもあります。
(生成AIによる出力情報については)ロボットに戻す場合もあれば、作業者をエンパワーすることも考えられます。重要なのは、物理情報をAIに取り込み、再び物理の現場で価値に変えることです。
──どのような価値を提供できると考えますか。
省力化はもちろん、人を強くする価値があります。人手不足が進む製造業では、外国からの人材が日本人と同じようにオペレーションできる支援や、多能工化、技能伝承の迅速化が求められます。こうした分野でAIを活用すれば、一人ができることを増やせます。
また、設備そのものを賢くすることもできます。設備が自身の状態をモニタリングし、必要に応じて自動復旧や設定変更をする。そのような世界観を目指しています。
──実現に向けた課題は何でしょうか。
まずはデータ化です。製造業や流通業では、人の頭の中にしかないノウハウで成り立っている業務が少なくありません。そのため、カメラやセンサーなどを活用し、フィジカルな情報をデータとして取得するところから始める必要があります。
──具体的な取り組みを教えてください。
国内ベンチャー企業に加え、米シリコンバレーの技術も生かします。5月には米Plug and Play(プラグアンドプレイ)との戦略的パートナーシップを発表しました。ロボティクスや製造現場に強みを持つ日本が、フィジカルAIのリーダー国になることを目指します。海外の技術を持ち込み、日本で培った品質や実装力を組み合わせることもイメージしており、26年はPoC(概念実証)を走らせ、2~3年後にはノウハウの海外展開を視野に入れています。
少数精鋭の独立系として
──SI全体で生成AIをどのように活用しますか。
現状は工程単位の最適化にとどまっています。プロセス全体を再定義し、AIありきの開発になるには、もう少し時間がかかると思います。AI駆動開発は社内システムや社内プロジェクトで試すことができるでしょう。顧客向けの本格適用は来年、再来年に広がっていくのではないでしょうか。
──採算性を高める上で、何が重要になりますか。
現在は人月型のビジネスですが、AIの活用が進むと、顧客や社会に提供する価値への対価をいただくかたちに変えていく必要があります。米国では「Value as a Service」と言われています。つくって終わりではなく、その後の運用によって改善するなど、価値を再認識しなければいけません。従来の請負開発ではなく、顧客の現場により深く入り込み、細かな改善を繰り返しながら価値を出し続けたいですね。
──業界再編が進んでいますが、これからの時代、独立系SIerであることの価値は何でしょうか。
先ほど申し上げた通り技術や商流の縛りがないことで、より顧客の価値にフォーカスできます。規模で勝負しようとすれば再編の議論になりますが、こうした強みで戦うべきでしょう。社員は約2500人と少数精鋭です。AIをどう武器にできるか、これからの取り組み次第です。
──エンジニアの割合が非常に高いと聞きました。AIが普及する中でどのように力を発揮しますか。
既存のものをつくること自体はAIで効率化できる部分も増えますが、0を1にするのは難しいと考えています。当社では半導体デバイスの領域がそうです。AIを正しく指揮するためにも、根底に技術力が必要です。人間が担うべき領域を見極め、そこに集中することが重要です。
一例として、アプリケーションの姿も変わりつつあります。これまでは、UIをきれいにつくり込み、操作しやすくする発想が中心でした。今後は、UIネイティブではなく、データネイティブな開発へのシフトが必要で、そのようなデータマネジメントプラットフォームを取り扱っています。
──事業領域別の見通しを教えてください。
公共や金融、リテールを中心とするエンタープライズソリューションでは、公共と金融でモダナイゼーションの余地が大きいので、AIを活用して需要を取り込みます。サービスソリューションでは、製造業向けに生成AIやフィジカルAIの前段にあたるデータ取得を支援します。ERPというよりも、MES(製造実行システム)やSCADA(監視制御システム)を通じて現場のデータを収集できるようにしていきます。
エンベデッドソリューションでは、車載システムなど、これまで取り組んできた領域を引き続き強化します。デバイスソリューションでは、生成AIの普及による半導体需要が続くので、チップ設計のニーズが続くとみています。現在は国内中心ですが、日本品質の設計力を生かした海外展開も考えており、4月にマレーシアに現地法人を立ち上げました。半導体領域の人材確保と市場開拓に取り組みます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
長年のエンジニア経験の中で最大のやりがいだったのは、「新しい技術を一番最初のお客様に届けること」。寝食を忘れて夢中で取り組むと、その熱意が伝わり、次の案件の相談にもつながった。かつてトラブルを経験したユーザーとも「お互いに会社の代表として本気で戦っている。だからこそ、そこを乗り越えると強固な信頼関係に変わる」と振り返る。
これまで製造現場をはじめとする最前線へのシステム実装を数多く手掛けてきた。改めて社内を見渡すと、「例えば生産管理の深いノウハウを全員が持っているかというと、ITの知見だけに偏っている場合もある」。技術力に長けている組織だからこそ、裏返しの側面だ。社長に就任した今、「お客様の課題と技術をつなげる人材が必要」と、組織の次なる成長を見据えている。
プロフィール
竹村大助
(たけむら だいすけ)
1977年生まれ。2000年、デジタルヘッドクォーターズ入社。01年に日本システムウエア(現NSW)入社。サービスソリューション事業本部長や取締役執行役員常務、取締役執行役員専務を経て、26年4月から現職。
会社紹介
【NSW】1966年、東京都港区に事務計算センターとして設立。82年に日本システムウエア、2022年にNSWに社名を変更。26年3月期の連結売上高は524億3100万円。従業員数は連結で2536人(26年3月時点)。