富士ソフトは、CxO職が横串で事業部門やグループ子会社を支援・監督する「クロスマトリックス経営」による構造改革を急ピッチで進めている。九つあった事業部門を三つに集約し、財務や営業、マーケティングなどの専門的な知見をもとにCxOが指導することで、経営リソースの配分や人材戦略を高度化させ、ビジネスを伸ばしていく。オーナー系SIerだった同社は、2025年に米投資会社Kohlberg Kravis Roberts(コールバーグ・クラビス・ロバーツ、KKR)傘下となった。新体制下で経営のかじ取りを担う室岡光浩社長は「一体的なグループ経営によって総合力を発揮する」と意気込む。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
企業価値の向上を第一目標に
――KKR傘下の体制に移行し、現状はいかがですか。
フルコースのメニューで構造改革を行い、企業価値を高められるよう経営のかじ取りをしています。当社は組み込みソフトに強いSIerで、製造や流通・小売りといった業種に強いグループ子会社も擁しており、事業規模や業績に関しても上位グループに入っている優良企業です。社長としての使命は、さらに磨きをかけて、企業価値をより一層高めていくことです。
――どのあたりに課題があり、どのような構造改革を実施していますか。
KKR傘下に入る前の当社は、産業や地域、公共といった九つの事業本部がそれぞれ稼ぐ体制でした。これを当社の強みをまとめるかたちで組込/制御ビジネスユニット(BU)、ソリューションBU、社会インフラBUに集約するとともに、これら三つのBUとグループ会社を横串で支援・監督する経営幹部を配置してビジネスの質を高めていく組織構造に変えました。財務や営業、マーケティング、人材戦略、法務、技術の専門知識を持った人材を社内外から登用し、専門家としての知見や助言を各BUや子会社に提供できる体制へ移行しています。CFO(最高財務責任者)やCRO(最高収益責任者)、CMO(最高マーケティング責任者)などいわゆるCxO職が横串で支援・監督するクロスマトリックスの経営体制です。
過去にも役員が事業部門を監督する仕組みはもちろんありましたが、やや自己流のところが見受けられましたので、私が社長を拝命した直後から専門人材を探し始め、半年後の26年1月に現在の体制を確立しました。各BUと子会社は担当する事業に専念し、それを財務やマーケティング、技術といった専門家の観点から助言することで、既存事業を洗練させ、売り上げや利益、顧客満足度の指標を改善し、最終的な企業価値の向上につなげていきます。
――NECの経営幹部を務めていた室岡社長が、富士ソフトの構造改革の仕事を引き受けることになった経緯をお伺いします。
私はNECで海外子会社の構造改革の経験があったのでKKRから声がかかったのだと思います。08年のリーマン・ショックで北米の事業環境が激変した時期に現地法人の構造改革に取り組むとともに、19年からはオーストラリアの現地法人のトップとして収益力の回復に向けて陣頭指揮を執りました。北米には都合6年ほど滞在し、リーマン・ショックの荒波を乗り越えるなどの経験を積みましたが、実は国内会社の構造改革は富士ソフトが初めてです。この点は少し不安があったものの、「国内でも海外でも基本は同じだ」と自分自身を鼓舞して、この仕事を引き受けることにしました。
IT、OTにAIを加え需要に応える
――注力領域について教えてください。
当社の強みとするITとOT(機械制御)にAIを加えることで顧客の需要に応え、市場競争力を高めます。具体的には、AIが基幹システムのデータを活用しやすいようレガシーシステムを刷新する需要や、AIエージェントを効率よく稼働させるための基盤づくり、スマート工場におけるAI実装の促進といった分野を注力領域に位置づけています。
強みとしている流通・小売業では、AIエージェントが商品の検索から比較、購入までの提案を店員に代わって自律的に行う「エージェンティックコマース」を導入する動きが出始めています。基幹システムが古いままですと、AIエージェントが顧客属性や購買履歴などのデータを十分に活用できませんので、まずは“AIレディー”の状態にもっていくための基幹システムの刷新プロジェクトの提案に力を入れます。
また、複数のAIエージェントが企業の業務を回していくようになると、AIエージェントを管理し、AIベンダーへのトークン課金の状況を把握する仕組みが求められるようになります。ユーザー企業がAIエージェントの管理やガバナンス、トークン課金状況などを可視化し、効率的に運用できるプラットフォームを提供できるよう努めていきます。
――OTの強みを生かせるスマート工場はどうですか。
子会社のサイバネットシステムは、CAE(コンピューター支援エンジニアリング)やモデルベース開発、IoT、VR、PLM(製品ライフサイクル管理)の各種製品を取り扱っており、当社はMES(製造実行システム)の構築に多くの実績があります。AI技術はこうした製品群にも浸透し始めており、よりスマートで生産性の高い工場を実現することが可能になります。日本の製造現場は、人手不足の課題を抱えながら、少量多品種やカスタム生産によって付加価値を高めようとしており、AIの支援による生産性の向上が期待されています。
――ほかの子会社はどのような業種に強いのですか。
ヴィンクスは流通・小売業向けのPOSシステムや販売管理システム、ネット通販で国内有数のシェアを持っていますし、サイバーコムは“ミニ富士ソフト”のような位置づけで、組み込みソフトの受託開発や中小企業向けSIなどを手がけています。特色あるグループ会社と富士ソフト本体のBUに、CxOの専門的な知見による横串を通し、一体的なグループ経営によって総合力を発揮していきます。
AI時代の人材育成に注力
――富士ソフトは国内SIerの中でも有数のSE動員力とのことですが、AIがプログラム生成をするようになると、その強みを生かせなくなるのではないでしょうか。
AI時代になるとSEに求められるスキルが大きく変わってきますので、AIを扱う専門知識を持った人材を積極的に育成する考えです。例えば、AIで何をつくるのかを決めるプロダクトオーナーや、どうつくるかを決めるAIアーキテクト、複数のAIエージェントを統括指揮するAIオーケストレーター、AIの誤謬を見逃さないAI品質・ガバナンス統括者など、当社の1万人を超えるSE全員に何らかのAI専門知識を身につけてもらいます。
――組み込みソフトをはじめ制御系に強い富士ソフトは、フィジカルAIの領域で優位性がありそうです。
既存の産業用ロボットの領域だけでなく、人と共同作業ができる人型ロボットといったフィジカルAI領域においても当社のOTの強みを生かせるとみています。組み込みソフトはハードメーカーからの開発を受託する場合が多い分野でしたが、これまで培ってきたOTやITに最先端のAIを加え、さらにCxOの専門的な知見を活用しながら、フィジカルAI分野で競争力のある当社独自のオファリングを充実させます。
並行して業務アプリケーション分野や、レガシーシステムを刷新するなどのエンジニアリング分野のオファリングも増やしていき、すべてのオファリングに何らかのAI技術を組み込んでいく方針です。当社独自のオファリングが売上高全体に占める割合は、まだ2割弱ですが、早い段階で3~4割に高めたいと考えます。
――業績目標について教えてください。
当社の過去の業績を振り返ると営業利益率で6~7%の水準でしたが、早い段階で10%超を達成したいと思っています。国内情報サービス業界全体で見れば決して低い利益率ではないのかもしれませんが、企業価値を高めていくに当たって利益率は早期に改善しなければならない課題だと捉えています。
業績目標に関しては、25年12月期の連結売上高は3340億円、営業利益は240億円だったのに対して、今後3年で売上高を4000億円を超える水準に引き上げ、営業利益は500億円へと倍増させる計画です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
富士ソフトほどの規模の国内大手SIerを買収するのはKKRとしても初めてであり、当然ながら新経営陣に対する要求レベルは高い。株主とオーナー系の経営環境で仕事をしてきた従業員との間に入ることに「最初は戸惑いがあった」と室岡社長は話す。
背中を押したのは08年のリーマン・ショックで事業環境が急速に悪化する中、「NECの北米現地法人のかじ取りをした経験」だった。現地法人で毎年開いていたクリスマスパーティーさえ中止し、職場から去る仲間もいる厳しい状況においても、みんなで力を合わせて業績回復に努め、翌年にはクリスマスを祝うことができた成功体験が、今の経営者としての自信につながっている。
株主や従業員との密なコミュニケーションを怠らず、IT・OT、そしてAIにも強みを持つ富士ソフトをさらに磨き上げ、一段上のフェーズへと押し上げることで企業価値を最大化させる構えだ。
プロフィール
室岡光浩
(むろおか みつひろ)
1962年、東京都生まれ。86年、青山学院大学経済学部卒業。同年、NEC入社。94年、NEC香港ゼネラルマネージャー。2003年、香港大学にてMBA修了。09年、NECコーポレーションオブアメリカ副社長。15年、NEC米州本部長。19年、NECオーストラリア代表取締役社長兼CEO。22年、NEC執行役員兼CCO。24年、NEC Corporate SVP兼CGSO。25年7月1日付で富士ソフト代表取締役社長執行役員兼CEOに就任。
会社紹介
【富士ソフト】2025年2月に米Kohlberg Kravis Roberts(コールバーグ・クラビス・ロバーツ、KKR)が運用する投資ファンドが実施した株式公開買い付けによってKKR傘下に入り、株式上場を廃止した。25年12月期の連結売上高は3340億円、連結従業員数は約2万人。全国29カ所に拠点を展開している。