東京エレクトロンデバイスは主力の半導体および電子デバイス(EC)事業に加え、ネットワークやセキュリティー製品などを取り扱うコンピュータシステム関連(CN)事業の拡大に取り組んでいる。サイバー攻撃の脅威が高まる中、セキュリティー領域を中心に着実にビジネスを伸長させている。2026年4月からかじ取りを担う宮本隆義社長は「各事業の磨き上げを推進する」と語り、単なる半導体商社ではなく、ITの構築もできるユニークな存在として飛躍を目指す考えだ。
(取材・文/大畑直悠 写真/大星直輝)
自社商材のように愛着を持つ
――社長に就任して、現在の心境はいかがですか。
自分の気負いを抑える意味もありますが、役職イコール役割だと考えています。会社全体を取り回す役割をまっとうしていきます。新体制とはいえ、経営方針を急に方向転換することはありません。CN事業の責任者をこれまで務めてきましたが、同事業だけではなくEC事業やプライベートブランド(PB)事業のすべてで、稼ぐ力を伸ばします。
――CN事業はここ数年、成長を続けており、26年3月期はセグメントの売上高が前期比10.4%増の412億400万円、経常利益は前期比24.2%増の65億4200万円で増収増益でした。好調の要因をどう考えていますか。
かつてはハードウェアに寄った商売をしてきたところもありますが、ハードウェアだけ、ソフトウェアだけという双方のこだわりを早期になくした点が良かったと考えています。
CN事業で注力するセキュリティー、ITインフラ、クラウド、AIの4領域は、顧客が次の世代の商売を伸ばしていくために最適化しなければならない領域です。競合が多い中で、当社ができる部分で最大限のパフォーマンスを発揮し、お客様に貢献していきます。
――CN事業で取り扱う製品は国内市場では目新しい商材も多いです。
大手の商材を取り扱わないというわけではないものの、基本的には海外のスタートアップと連携しています。ラインアップにメジャーな製品もあるのは、初期から関わって成長したケースが中心です。
連携先については、CN事業が長年にわたって築いてきた多様な情報源を通して開拓しており、その中から国内で受け入れられる製品を吟味する体制を整えています。当社がつくっていなくても、自社の製品と同じように愛着を持って売れる商材であるかを重視し、新しいチャレンジを一緒にできると感じられるベンダーとの連携を推進しています。
ディストリビューター権を持つ商材に関してはパートナー経由でのビジネスも展開しています。有望な商材を発掘する力だけではなく、当社が裏方として技術支援を担う点も強みで、新しいカテゴリーの製品でも安心して顧客に提案してもらえます。今後もパートナーの開拓を積極的に推進し、一緒に市場を拡大していきます。
伴走支援を強みに
――好調なセキュリティー領域は、今後どのように伸ばしますか。
攻撃の傾向として、IDを不正に入手され、ウイルス対策ソフトやバックアップデータを消去されるといった被害が顕著に増加しており、IDの保護に対する注目が高まってきています。米Semperis(センペリス)のITDR(Identity Threat Detection and Response)製品や米Rubrik(ルーブリック)のバックアップ製品、イスラエル発のPentera Security(ペンテラセキュリティー)の自動ペネトレーションテスト製品などを組み合わせて、認証基盤全体の保護を支援します。
単に製品を販売するだけではなく、サービスの提供にも注力しており、オンボーディングのサポートなど、カスタマーサクセスを重視したサービスを展開しています。顧客のIT環境もマルチクラウドやオンプレミスなど幅広くアタックサーフェスは拡大傾向にあり、AIの悪用によって、脅威は量・質ともに増しています。こうした状況下で、何も対策しないという顧客はいませんが、一方で無尽蔵にセキュリティーに投資できるわけでもありません。どこまで対策するのが最適解なのかに悩む顧客は多く、伴走支援の重要性は高いと考えます。
運用サービスが好調で、24時間365日ワンストップでネットワークやデバイスを監視する「TED-SOC」では顧客数や監視する端末数が増えています。検証から運用までフルラインアップでサービスを提供し、顧客に安心してビジネスを展開できる環境を届けます。
――AIに関する取り組みを教えてください。
生成AIに関してはモデルをつくるためのインフラの投資が盛んになっており、計算リソースやストレージ、ネットワークといったAIの環境に合わせたインフラの構築を支援しています。また、AIエージェントの可視化や検証のサポートも展開するなど、幅広いビジネスを展開しています。AIと言っても関連する領域は広範です。すべてをカバーできませんので、伸びしろのある領域を見極めながら、めりはりを効かせて提供価値を拡充させていきます。
エッジAIに関しては、EC事業でデバイスを顧客に提案しており、農業などの領域で事例があります。エッジAIの国内での普及はまだまだ限定的ですが、いきなりではなくても、確実に状況は変わると思います。AI関連だけではありませんが、顧客が直面する課題に対応できるように先に始めておくことが当社の役割として重要でしょう。
――EC事業についてはどのような見通しですか。
EC事業は、26年3月期はサプライチェーンの在庫調整の長期化など
により減収減益でした。ただ、サプライチェーンの在庫水準は適正化へ向かい、また、産業・車載機器は回復局面に移行するとみており、今期は増収を見込んでいます。
新しいチャレンジの背中を押す
――今後の展望を教えてください。
中期経営計画「VISION2030」(26年3月期~30年3月期)では、メーカー機能と技術商社機能の両輪による社会課題の解決を全社戦略として掲げています。メーカー機能という点では、ウェーハ検査装置を中心とした製品をグローバルに提供してビジネスを拡大していきます。
また、EC事業、CN事業、PB事業のそれぞれを太い幹として育てたいです。各事業は、仕事の仕方が違う会社が三つあるかのようにばらばらですが、将来的には最終的なゴールを融合させ、新たな価値をつくりたいと考えます。例えば、EC事業が卸した電子部品で半導体を製造する際、ITインフラの部分でCN事業が活躍するといったかたちで、複数の事業が自然と一緒になって仕事を前に進めていくケースが、今後さらに増えてくるでしょう。
――組織マネジメントにはどのように取り組みますか。
将来にわたって求められる商品やサービス、当社が扱う商材も変わると思いますが、ビジネスを積み重ねる中で生まれる組織力を大事にしたいです。人材に求められるスキルはある意味、勝手に変わっていくものです。ただ、中身が変わっても土台となる組織としての強みがあれば、事業としては多くのことに挑戦できるようになります。
当社の特徴として、社員が新しいことにチャレンジするハードルが非常に低いという点があります。これは歴代の経営者がつくってきた文化です。一方で、新しいことへのチャレンジはまだまだ足りないと思っているので、社員の背中を押し続けていきます。挑戦する組織文化を「企業のOS」と表現して、これが共通認識となるように念仏のように唱えており、これが今後、価値になると思います。当社は新しいことにどんどん取り組みます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
自社が目指す方向性について、「単に半導体商社としてもIT関連企業としてもまとめられない存在になりたい」と語る。その上で、「顧客の役に立ち続ける状態を模索したい」という発言の裏には、組織に柔軟性を持たせて、変化し続ける顧客の期待に応え続けたいとする意気込みが垣間見える。
自社が展開するビジネスは「誰も見たことがなく、見通せる世界でもない」。だからこそ、「必要であればリスクを取ってでも前進することが重要だ」と考えている。目まぐるしく変わる社会の状況に対応できる組織をつくる一環として、新人であってもさまざまなプロジェクトに参加し、会議で何を言ってもいい文化をつくっているという。社員一人一人の挑戦が同社の未来を切り開くと信じる。
プロフィール
宮本隆義
(みやもと たかよし)
1970年生まれ。93年に大阪工業大学工学部経営工学科を卒業後、東京エレクトロンに入社。2015年に東京エレクトロンデバイスのコーポレートアカウント営業部長に就任。その後、コンピュータシステム関連(CN)事業の要職に就き、同事業をけん引。24年に執行役員専務、25年に執行役員副社長などを歴任し、26年4月から現職。
会社紹介
【東京エレクトロンデバイス】1986年に設立。東京エレクトロンのグループ会社。コンピュータシステム関連を手がけるCN事業、半導体および電子デバイスを販売するEC事業、プライベートブランドを販売するPB事業を展開する。2026年3月期の売上高は2037億4800万円、営業利益は102億5300万円。