2026年4月、KDDIアイレットが始動した。母体となるアイレットが20年以上にわたり培ってきた技術力を中核に、グループ各社の個性的なソリューション、KDDIの通信基盤を掛け合わせ、「AIインテグレーター」としてAIの社会実装を強力に推進する。高木秀悟社長は、最先端のテクノロジーと、大手SIerに引けを取らないスキル、CIerならではのスピード、そして大手通信キャリアのアセットを備えた唯一無二のポジションを武器に「尖っていく」ことで、存在感を発揮したい考えだ。
(取材・文/藤岡 堯 写真/大星直輝)
「プッシュ型」営業で攻める
──新会社設立の狙いを教えてください。
元々は中間持株会社であるKDDI Digital Divergence Holdings(KDH)の傘下にアイレットをはじめとする各社が入っていました。ただ、グループとしてお客様にアプローチして、共通のオファリングをつくり、提案すると考えたとき、ホールディングス機能だけのKDDHでは難しさがありました。そこで、アイレットの中に新たな営業機能を備えたという点が、今回の一番のメッセージと言えます。
設立に伴い、KDDIの法人ビジネス部隊から営業やエンジニアが80人ほどジョインしました。彼らを中心に、KDDIの営業組織や当社のグループ会社を取りまとめ、プッシュ型のセールスに取り組むために、事業会社を先頭に再編した。これがシンプルな狙いです。これまではハイパースケーラーをはじめとするパートナーからの送客を起点としたプル型が中心でしたが、これからはプッシュで攻めていく。アイレットにとって初めての挑戦です。
KDDI本体の中期経営戦略でも、セキュリティーのラックやAI-BPOのアルティウスリンクなどの子会社の成長を掲げており、最終的には当社のグループのみならず、各社のソリューションをまとめてお客様に提案する総合的なインテグレーターとしての期待が大きいと感じています。KDDIからのメンバーは通信キャリア事業やローソンのデータ活用など幅広いビジネスに精通し、当社はさまざまなハイパースケーラーのクラウド技術を熟知しています。双方の融合で大きな変化が生まれますし、それだけでなく、KDDIグループ全体の横の連携という狙いもあります。
──事業開始に伴うプレスリリースではAIインテグレーターを標榜していました。どのような思いが込められていますか。
アイレットは、クラウドインテグレーションの領域では信頼感やスピード感のある企業として認知していただけています。ただ、クラウドインフラの上に載る部分のSIやAIインテグレーションではまだ想起されない面があります。実際には、オンプレミスのシステムをクラウドにリフトアップするだけでなく、最新のAIツールによるアプリケーション開発にも取り組んでおり、その部分をより大きく見せるためにAIインテグレーターという言葉を使っています。
この「インテグレーション」という言葉に意味があると感じていて、最近は「自動車」になぞらえて説明しています。クラウド基盤には「Amazon Web Services」や「Google Cloud」「Oracle Cloud Infrastructure」「Microsoft Azure」といった、多様な「ボディ」があります。「エンジン」となるAIモデルにも米OpenAI(オープンエーアイ)や米Anthropic(アンソロピック)など、いくつもの選択肢があり、そのガソリンとなるデータの整備も欠かせません。
当社はお客様が乗りやすいサイズのボディを選び、最適なエンジンにしっかりガソリンを入れ、安全に走れる状態にしてお届けします。また、AIを導入したものの社内に浸透しない、メンバーが使ってくれないというご相談も増えているので、「乗り方」をレクチャーし、浸透率を高めていく。そうしてお客様が自身の自動車を自律的に乗りこなせるようになるまで、ワンストップでお支えする。それが総合的なインテグレーションだと思っています。
大切なのは、AIを入れること自体が目的ではない、ということです。軽自動車で近所のスーパーマーケットに行きたいお客様に、ダンプを勧めても仕方ありません。課題や実現したいことに対してスピーディーに最適なパーツを組み上げ、目的地まで一緒に走り、その後はご自身で運転していただく。つまり、AIを使いこなし、仕事をより効率的にする。それを実現できる企業として第一に想起されれば良いと感じています。
もう一つの思いとして、お客様に「AI駆動開発」という考え方へ、発想を変えていただきたいと考えています。私たちはKDDI本体のさまざまなシステムを内製開発し、いわゆる「カスタマーゼロ」の取り組みを進めています。当社と共に仕事をすることで、KDDI本体側の開発手法もこれまでとだいぶ変わってきた印象があります。初めは多少ぶつかります。KDDI側はウォーターフォールで安心安全なシステムをつくりたい、一方で当社の強みはスピードや最先端のAIテクノロジーにある。ただ、発注者側であるKDDIがその手法に順応すると、両輪が噛み合って開発がスピーディーに進む。KDDIという大きな会社での実践を、お客様にストーリーとして届けたいと考えます。
オファリングを一元提供
──具体的にはグループ内での連携はどのように進めますか。
グループ各社はレイヤーの異なる長所を有しており、お客様に応じたオファリングを組み立て、それを当社があたかも一つの会社から提供するように提案できることは、大きな強みです。
例えば、Scrum Inc. Japanがスクラム開発の考え方をお客様の経営層に説明し、AI活用を社内へなじませる訓練をボードメンバーにしていただく。その後、KDDIアジャイル開発センターが実装の内製化を支援し、実用化のタイミングで当社がクラウドを提供、膨大なデータをAIに学習させる環境をフライウィールが整える。特殊な環境下で専用のLLMが必要なら、ELYZAの技術を使う。ピースがきれいにはまっている感覚があります。
そこにKDDI本体のアセットが加わります。約40万社の法人顧客を有し、IoT回線の導入実績は6000万回線を超え、26年1月に稼働した大阪府堺市のデータセンターをはじめとするAI計算基盤と、それらをつなぐ超低レイテンシーのAIネイティブネットワークをつくり出そうとしています。ローソンはリアルとデジタルを結ぶ存在として、お客様向けの実験場になりえます。
僕らの仕事は、リアルな顧客接点、AIの計算基盤、それを使いこなすためのネットワークを活用しながら、お客様に車を提供し、安全運転していただくことだと考えています。AIインテグレーターとして、その領域にまでたどり着けているかというとまだまだですが、そこを目指して尖っていくことはとても重要でしょう。
人月ビジネスのような手法は僕たちには難しく、その領域では勝てません。ただ、AI駆動開発のような技術が猛烈な速度で進化しており、この「隕石」の衝突によって、僕らの勝ち筋ができると考えています。他方で、AIを主軸とする新しいIT企業がいますが、彼らとも異なる部分がKDDIの有する基盤です。例えば大きな山があるとして、片方からは人月ビジネスを展開する大手SIerが、もう一方からはAI開発を掲げる新進気鋭の企業が登っている。当社は双方のいいとこどりをしながら、キャリアのバックボーンを生かし、山の頂上をスピーディーに目指せる、面白いポジションに立っていると言えます。
互いを補い、フュージョンする
──新会社になったことで、大企業であるKDDIの色がより濃くなることはないのでしょうか。
KDDIの冠をつけるかどうかは悩みました。ただ、メンバーは比較的ポジティブに受け止めてくれたと感じていますし、より大きなお客様と仕事ができるのではないかという期待の声もあります。これまでは、依頼に基づいてお客様と一緒に構築したソリューションを、同じ課題を持つ別のお客様に横展開することはできませんでしたが、プッシュ型のビジネスでは可能になります。当社としてサービスプロダクトを開発することもありえるでしょう。
また、KDDIから来た人員には「KDDIの仕事のスタイルを持ち込むな」と伝えています。ほぼゼロからセールス組織を立ち上げるのですから、AIネイティブなセールスになろうと話しています。当社の強みであるスピードや世界最先端のテクノロジーを、よりお客様に必要としてもらえるようにする。そのためにこの会社ができたと言っても過言ではありません。お客様に必要とされるために、変えるべき部分は変え、互いを補い、フュージョンしていくということです。
──今後の目標を聞かせてください。
この会社はエンジニアの会社です。エンジニアがこの会社にくれば、世界最先端のテクノロジーが使え、お客様のシステム実装を支援する喜びを感じられる。その部分を究極まで磨き、エンジニア志望の人やIT業界で働く人にとって、当社が最終的なゴールになるような存在となりたい。「ピカピカのエンジニア」が集まる会社にしたいです。
セールスの観点では、ゼロから組織を立ち上げられることにわくわくしています。営業は一般的に、外に出てお客様と触れ合う時間よりも事務処理のような作業に割く時間が多いですが、そこを縮小し、常にお客様と接して価値を最大限生かせる営業をつくりたいです。そういう営業とエンジニアがいれば、会社は必然的に面白くなります。お客様にも「この会社と付き合うと面白いな」と感じていただける会社に絶対なると思っています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「戦うエンジニア集団」。就任前に高木社長は、創業者の齋藤将平会長から自社についてこう聞いていた。千葉県の一軒家から始まった会社は、国内有数のCIerに成長し、大手キャリアの名を冠するまでになった。それでも変わらないのは、深く根付いた組織のカルチャーである。
中に入り、齋藤会長の言葉を実感した。スピードがあり、最先端の技術に貪欲で、若いメンバーは良い意味で遠慮がない。「一言で言えば、すごく面白い会社」。この文化に惚れ「絶対に受け継ぎたい」と思う。戦う集団にまた一人仲間が増えた。
プロフィール
高木秀悟
1997年、第二電電(現KDDI)入社。大手法人営業、新ビジネス企画・アライアンス推進などを経て、官公庁営業部副部長、パートナー営業部長、エネルギー・運輸営業部長を歴任。2022年からビジネスデザイン本部副本部長としてエンタープライズセールス部門を担当。その後、執行役員に就任し、25年10月にビジネスイノベーション本部長。26年4月から現職。
会社紹介
【KDDIアイレット】KDDIの中間持株会社であるKDDI Digital Divergence Holdingsとその完全子会社だったアイレットが2026年4月1日付で合併して設立(アイレットが存続会社)。ITコンサルティングから、システム開発、運用保守、生成AI導入・活用支援、AI駆動開発などを展開。データ活用基盤などを手掛けるフライウィール、大規模言語モデル開発などのELYZAをはじめとした5社を傘下に置く。