デジタル家電の黎明──。2003年、IT業界は大きな転換期の幕開けを迎えた。ようやく薄日が射し始めた日本経済だが、デフレ経済の進行の余波を受けて、パソコンやサーバーの低価格化が進み、ITべンダーはこれまで以上にソフト・サービスへの傾注を強めている。ブロードバンドの普及をはじめとして個人のネットワーク環境も大きく変化した1年だった。確実に変化するIT業界のなかで、企業の経営体制も変化を余儀なくされた。新しい幕開けの舞台の主役は?。変化する市場を象徴する事件の多かった今年を振り返る。

デジタル家電の幕開けへ 新時代到来への助走

【10大ニュース 国内編】
  • ・ベンダートップが相次ぎ交代
  • ・IAサーバー低価格化で台数は前年増に
  • ・猛威を振った2大ウイルス
  • ・10月1日、個人向けPCリサイクルスタート
  • ・1980円ソフト登場
  • ・低価格パソコン、“安さ”で好調
  • ・トロン陣営とマイクロソフトが「歴史的な和解」
  • ・“新三種の神器”登場
  • ・12月1日、地上デジタル放送スタート
  • ・e-Japan戦略IIへ移行


ベンダートップが相次ぎ交代

 今年は大手ITベンダーでのトップ交代が相次いだ。NECは3月28日付で西垣浩司氏から金杉明信氏へ、富士通は6月24日付で秋草直之氏から黒川博昭氏へ、5月1日付けで日本ヒューレット・パッカードが高柳肇氏から樋口泰行氏へ、7月1日にマイクロソフトが阿多親市氏からマイケル・ローディング氏へ、7月1日付でサン・マイクロシステムズが菅原敏明氏からダニエル・ミラー氏へと、それぞれ新トップへの”政権交代“が行われた。トップ交代の理由や背景は、それぞれ異なるが、1年で大手のトップの顔ぶれがこれだけ変わったのも珍しい。

 NEC・西垣氏は99年、富士通・秋草氏は98年といずれも日本のIT産業が絶好調の時期に社長就任。当時はネットビジネス全盛期であり、両氏ともにコンピュータ事業をネットワークをからめたITへとシフトし、高い株価をつけた。ところがその後「ネットバブル不況」が直撃。NEC、富士通という日本を代表するコンピュータメーカーのトップが相次ぎ交代したことは、日本のコンピュータ産業がまた新たな転換点を迎えていることを象徴的に示しているといえそうだ。

 米国人社長を迎えたのは、マイクロソフトとサン・マイクロシステムズ。特にマイクロソフトは日本法人設立以来、初の米国人社長体制となった。それだけに、日本でのビジネスがどう変化するのか、マイクロソフトのビジネスパートナーも注目している。(三浦優子)

IAサーバー低価格化で台数は前年増に

 2003年年明け早々の1月8日、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)がサーバー製品の大幅値下げを発表した。2002年は、旧コンパックコンピュータとの合併余波でビジネスが滞り、サーバー市場におけるシェア下落を余儀なくされたこともあって、IAサーバーで最大37%の大幅値下げを実施した。それ以来同社は、5回に及ぶ値下げを実施し、03年のサーバー市場の”台風の目“に。

 日本HPがサーバーシェア獲得に躍起になった背景として、デルの躍進を挙げることができる。デルは、HPが合併でビジネスが滞った02年にサーバーの売り上げを伸ばした。これら外資系2社のIAサーバーの低価格化によって、03年のサーバー市場は完全に価格競争に突入した。

 今後もサーバーの単価が下がっていけば、システムインテグレータやディーラーのビジネスが厳しくなっていくことは確実。04年には単価下落以外のビジネス活性化策が必要になるだろう。(三浦優子)

猛威を振った2大ウイルス

 今年は年明け早々の1月25日、「SQL Slammmer(スラマー)」が猛威を振い、8月11日には「MS Blaster(ブラスター)」騒動と、世界中で大規模な被害をもたらしたコンピュータウイルスが2つ発生した。

 ともにウィンドウズのセキュリティホールを突いたウイルスで、修正プログラムをあてるという事前対策をユーザーが怠ったことがウイルス蔓延の原因。スラマーは、日本での被害件数は少なかったが、韓国での大規模な感染が話題になった。総人口の約5分の1がブロードバンド回線に加入するIT大国は1つのウイルスでネットワークの機能不全に陥った。

 一方、「ブラスター」は、大手セキュリティベンダーによると、発生後2日までの感染被害が一番多かったウイルス。メールやファイル共有以外で感染するタイプで、パソコンのOSも標的になったウイルスとあって、個人消費者を中心に感染が拡大した。

 経済産業省の情報セキュリティ政策室には、国民からの電話相談が殺到したため、専門相談窓口を設置し、24時間対応の緊急体制を敷いた。また、ウイルス対策ソフトの売り上げ本数は、発生後2-3週間、前年同時期に比べ3-4倍(BCNランキング)で急拡大した。

 マイクロソフトも、告知活動をあらゆるマスメディアでこれまで以上に行うとともに、家電量販店やパソコンショップでアップデート専用CD-ROMを初めて配布。異例の施策を行った。

 「個人情報保護法」の成立や、相次ぐ情報漏えい事件の発生など、情報セキュリティ確保の重要性を改めて認識し、対策立案が重視される1年だった。(木村剛士)

10月1日、個人向けPCリサイクルスタート

 10月1日、個人向けパソコンリサイクルがスタートした。経済産業省と環境省が今年4月7日に個人向けパソコンリサイクル制度の実施に向けた関係省令の一部改正を行い、これにより電子情報技術産業協会(JEITA)が日本郵政公社と提携してパソコンリサイクルの回収スキームを構築した。

 参加メーカーは11月上旬時点で39社。JEITAによれば、回収台数が10月末までの1か月間で7566台に上っており、「まずは順調な滑り出し」(JEITA)となっている。

 一方、パソコン専門店および家電量販店ではリサイクル制度にともない、「廃棄料金がかかるならば、買い取ってもらう」というユーザーが増えることを予想し、パソコンの買い取りビジネスを強化した。「不要になったパソコンがあれば買い取る」をキャッチフレーズに、パソコン買い替え需要の促進も狙った。また、NECや日本IBMなどメーカーがパソコンの買い取りを開始するといった動きも出ている。

 現段階では、PCリサイクルのスタートにより、直接、中古パソコン市場が拡大したという状況は表れていないが、業界では今後は拡大するという見方で一致している。(佐相彰彦)

1980円ソフト登場

 2月、ソースネクストが、パソコンソフトの「コモディティ化戦略」を掲げて、主要製品の価格を1980円に値下げした。

 同社は、すでに1980円ソフトの品揃えを140タイトル余りに増やし、今年度末(2004年3月期)には200タイトルに達する勢い。

 1980円ソフトは”ソフト流通の新しい可能性“も生み出した。値頃感が推進役となり、パソコン・家電販売店など既存チャネルに加えて、書店やコンビニエンスストア、スーパーなど新しい販売ルートの開拓も進んだ。

 さらに、日本IBMをはじめとする有力ソフト会社がソースネクストの販売チャネルに強い関心を示したことで、ソースネクストにとっては、ソフト商材が調達しやすい環境も整った。

 一方、ソースネクストと競合関係にあるソフト会社は、相次いで「低価格+新規チャネル」のコモディティ化戦略を踏襲し始め、「1980円ショック」は、ソフト流通のあり方を変えるきっかけにもなったといえるだろう。

 ソースネクストでは、新規チャネルを中心に2万店舗近くに拡大。今年度末には、さらに2万5000店舗にまで増やす。

 同社の今年度通期での既存チャネルと新規チャネルの売上比率は約3対1で既存チャネルが多い見通し。だが、来年度通期では、新規チャネルが半分を超えると見ている。(安藤章司)

低価格パソコン、“安さ”で好調

 本体価格5万円以下の低価格パソコンが登場し、好調な売れ行きをみせている。

 BCNランキングによれば、パソコンにおける12月1-
7日のメーカー別販売台数シェアで、イーマシーンズが7.1%のシェアを獲得し5位と、シェア上位の常連組になった。

 イーマシーンズは、デスクトップ本体のみで4万9800円の価格を”世界標準価格“と謳い、購入者を着実に増やしている。年間目標販売台数は10万台。

 同社以外でも、BTO(受注生産)パソコンショップ「パソコン工房」を運営するアロシステムや、3万9800円のパソコンを販売するエムシージェイなどが続々と販売台数を伸ばしている。

 低価格パソコンを取り扱うパソコンショップも増えており、NECや富士通、ソニーなど大手メーカー以外の「ホワイトボックス」系パソコンは、パソコン出荷台数全体の10%を占めるまでになった。(佐相彰彦)

トロン陣営とマイクロソフトが「歴史的な和解」

 過去にOSの開発競争で熾烈な争い演じ”犬猿の仲“だったはずの2者が手打ち――。国産OS「TRON(トロン)」の開発者である坂村健・東京大学教授と米マイクロソフトの古川亨副社長が9月25日、東京都内のホテルで緊急会見を開いた。

 両氏の握手で始まった会見では、情報家電向けOSの「共同開発プロジェクト」を開始することで合意したとの内容と発表。いずれにせよ、マイクロソフトが歩み寄る形で”長年の怨念“は解消された。

 米マイクロソフトは、トロンOSを情報家電やデジタル家電向けに改良する「T-エンジンフォーラム」に幹事社として参加し、次世代ソフトウェアの研究で協力する。T-エンジンフォーラムが標準化したリアルタイムOS「T-エンジンフォーラムカーネル」上で、マイクロソフトが提供する情報家電向けOS「ウィンドウズCE.NET」を動作させるための仕様の策定を共同で進めることになる。

 坂村教授は「ウィンドウズCEは、リアルタイムOS上の巨大なミドルウェアとなる」と述べ歓迎するとすれば、古川副社長も「今回の合意で新たな産業の流れができる」と、共に過去を消し去った笑顔。

 「歴史的和解」とまで言われたマイクロソフトの方向転換は、組み込みOS市場で6割以上のシェアを持つトロン陣営への危機感の表れとの見方が大勢だ。マイクロソフトは今年に入り、「ウィンドウズCE.NET」のソースコードを公表するなど、巻き返しに躍起になった。今回は、「T-エンジン」と協力することで情報家電業界への影響力を残したいのが本音と思われる。(谷畑良胤)

“新三種の神器”登場

 かつて“三種の神器”と言えば1950年代には「白黒テレビ」、「洗濯機」、「電気冷蔵庫」、60年代には「自動車」、「カラーテレビ」、「クーラー」というのが通り相場。今年、”新三種の神器“と呼ばれ、家電製品市場で主役となったのが、「薄型テレビ」、「DVD(デジタル多用途ディスク)レコーダー」、「デジタルカメラ」だ。

 なかでも、薄型テレビとDVDレコーダーは、今年一気に火がついた製品。薄型テレビは、液晶、PDP(プラズマディスプレイパネル)テレビともに12月1日の地上デジタル放送開始が後押しし、高価格にもかかわらず好調な売れ行きを見せた。

 他社に先駆けて液晶テレビの開発に着手したシャープは、圧倒的なシェアを獲得。業績も今年度中間期は、売上高が前年同期比12.6%増、純利益同22.1%増と、いずれも9月中間期としては過去最高を記録した。キヤノンやデルといった大手メーカーも新規参入を発表。来年以降も需要拡大が見込めるだけに、シェア争いがさらに熾烈になるのは必至だ。

 一方、DVDレコーダーは、価格が10万円を切り値頃感が出たことで、需要拡大に大きく寄与した。ハードディスク一体型や自動番組機能搭載など、製品も多種多様化したことで、ユーザーの選択肢も広がり需要創出につながった。

 デジタルカメラは、相変わらずの成長率で、BCNランキングでも前年を常に50%以上上回っている。今年は従来の「コンパクト・スタイリッシュ」路線に加え、「デジタル一眼レフ」という新たな分野が成長してきた。(木村剛士)

12月1日、地上デジタル放送スタート

 12月1日、地上デジタル放送がスタートした。地上デジタル放送は、さまざまなメリットがある。EPG、ハイビジョン放送、データ放送、マルチチャンネルサービス、双方向データ放送、インターネットとの接続、サーバー型放送など。だが、ハイビジョン放送と2005年からスタートする携帯電話向け放送以外は未知数の面がある。

 現在、3大都市圏では民放、NHK合わせて1200万世帯が視聴可能だ。関東地区がNHK総合約690万世帯、民放・NHK教育が12万世帯、近畿地区がNHK総合・教育、民放計約280万世帯、中京地区はNHK総合・教育、民放計約230万世帯である。

 CATV局もデジタル放送の配信サービスを始めた。関東地区で390万世帯、近畿地区210万世帯、中京地区110万世帯が視聴可能だ。こうして、04年には3大都市圏で約1700万世帯、同2005年末には2300万世帯が視聴可能となる。

 一方、地方では、NHKが水戸、富山、岐阜、神戸の4地域で04年10-12月にかけて順次、放送をスタートする。民放では、富山の北日本放送が04年10月より、関東、近畿、中京地区に続いて、地方でトップを切って放送を開始する予定だ。

 地上デジタル放送推進協会(Dpa)の普及目標によれば、06年のワールドカップサッカードイツ大会時に1000万世帯、08年の北京五輪大会時に2400万世帯、そして、11年に4800万世帯(全世帯)に達し、アナログ放送が終了となる。(小池正春)

e-Japan戦略IIへ移行

 最先端IT国家を目指して進められて来た「e-Japan重点計画」は、今年7月2日に「e-Japan戦略II」へと移行した。従来の政策が通信ネットワーク整備など基盤構築に重点が置かれてきたのに対して、「II」ではITの利活用を進め、ITを経済再生の切り札にするとともに、21世紀の新しい社会を建設するための重要テーマととらえている。

 新たな戦略思想には「構造改革」や「新価値創造」を盛り込み、医療や食、生活、中小企業、知、就労・労働、行政サービスの7分野でIT利活用を先導的に進める。行政サービスの分野では、8月25日に住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の2次稼動も始まり、ITをベースに行政サービス拡充が本格化した。(川井直樹)