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<IT業界海外10大ニュース 2003年を斬る!>中堅・中小企業が主役に

2003/12/22 19:39

週刊BCN 2003年12月22日vol.1020掲載

 長引いた世界IT不況も、2003年の中頃から、次第に緩やかな市場回復が感じられる。しかし、IT市場は大きく変化した。市場拡大の牽引力は、これまでの大企業に代わって中堅・小企業となった。さらにIT業界の競争軸も、これまでの基盤技術に代わって、システムの複雑性を解消する利用技術開発へと移り、オンデマンド潮流も強くなった。さらにシステム連携が強く要請されるなか、どのベンダーも所有権を主張しないオープンスタンダード市場が拡大を続けた。また、03年は往時のキープレーヤーであったノベルやSCOが、世界の注目を集めて主役となる訴訟や提携劇も目立った年であった。(中野英嗣)

緩やかな世界市場回復

【10大ニュース 海外編】 
  • ・SCO、LinuxでIBMを提訴
  • ・イラク戦争、米国軍隊はITで武装
  • ・オンデマンドがITの新潮流に
  • ・中堅・中小企業が市場牽引力へ
  • ・「ITはもはや重要ではない」米で反響に
  • ・パソコン市場はデルとHPの2強時代へ
  • ・MS、パッケージアプリケーション市場へ参入
  • ・デル、液晶テレビでAV領域に参入
  • ・ノベル、LinuxディストリビュータSuSE買収
  • ・サン、64ビットプロセッサでAMDと提携


SCO、LinuxでIBMを提訴

 米中堅ソフト会社でUNIXソースコードを所有する「SCOグループ」は、IBMが自社UNIXコードを無断でLinux開発コミュニティに渡し、これをLinuxに無断転用したとして、IBM提訴に踏み切った。

 SCOはIBMに30億ドルの損害賠償を求めた。さらに無断利用の法的責任はユーザーに及ぶと、全世界1500社の大企業に警告するとともに、ユーザーのLinuxサーバーの1CPU当たり699ドルの請求書を送りつけ、この訴訟はユーザーをも巻き込む騒ぎにまで発展している。IBMはSCOを逆提訴し反撃するが、まだ裁判開始にも至っていない。

イラク戦争、米国軍隊はITで武装

 米軍がイラク戦争で使用した兵器には最新のITが採り込まれた。米軍補給路物資輸送には最新のSCM(サプライチェーンマネジメント)手法が、そして米歩兵は完全なモバイルITで武装された。歩兵のモバイルITを動かす電源としては、靴のカカトが地面を叩く度に発電し、蓄電できる斬新な装置が用いられ、今これは商用品として開発が米国で行われている。またイラク戦争で最も威力を発揮したのは、精密軍用GPS(全地球測位システム)だった。米爆撃機攻撃目標はすべてGPSで測位され、物資の投入地点もGPSによって輸送機・地上軍間で確認するシステムが使われた。

オンデマンドがITの新潮流に

 長いIT不況が回復に転じると、世界有力ベンダーは一斉にビジネスの変化に敏捷対応できる柔軟なITシステム概念を次々と発表した。米国ではIT産業はポストテクノロジー時代に入ったともいわれる。

 ITベンダーの開発競合軸は、これまでの高速・大容量コンピュータ開発から、システム複雑性を隠ぺいし、管理コストを削減する利用技術開発へと移った。この代表はIBMのオンデマンド、富士通のトリオーレなどで、その概念も自律型、多様化技術で実用化時代を迎えつつある。この新概念は長年の課題、ビジネス戦略とITの一体化を解決するためにも期待される。

中堅・中小企業が市場牽引力へ

 世界の大企業は、これまで巨額投資を行ってきた結果、IT設備が過剰となり、これに代わってIT市場拡大の牽引役は中堅・中小企業(SMB)であるとの認識が定着した。このSMB市場を開拓するには、ベンダーと販売パートナーとの密接な関係が重要となる。このため、IBM、ヒューレット・パッカード(HP)、マイクロソフトはSMB対象のパートナーを優遇するプログラムを次々と発表し、絆を太くしている。IBMは自社直販とパートナーテリトリーを明確に区分し、無駄な競合を排除した。マイクロソフトはソリューション販売のパートナー組織を世界規模で強化している。

「ITはもはや重要ではない」米で反響に

 権威あるビジネス誌のハーバードビジネスレビューは、同誌編集人、N・カール氏の論文「IT Does'nt Matter(ITはもはや重要でなくなった)」を発表し、世界の業界に大きな論争を巻き起こした。カール氏は「ITは既にありふれたモノとなり、これで企業の競争優位を確立することは難しくなった」と主張した。同氏は「経営者はITが十分活用されていないことを懸念するより、ITに過剰投資をすることを絶対避けねばならない」と強調。当然、業界からは強い反論の狼煙が上がった。しかし、当論文は「経営とIT」を改めて考えさせられたと高く評価もされた。

パソコン市場はデルとHPの2強時代へ

 IDC、ガートナーの発表によると、HPがコンパックを買収して1年を経た2003年中盤、既に世界パソコン市場では、デルとHPがそれぞれ16-18%のシェアを獲得し、3位IBMシェア6-7%を大きく引き離したことが明確になった。コンパックが健在だった時には、コンパック、デル、IBM、HPの4強時代が長く続いた。しかし、長引いたIT不況が回復し始めた03年中盤には、デル、HP2社のシェアのみが大きく伸び、IBM以下のベンダーとの格差が大きくなった。出荷台数は再び伸び始めたが、価格破壊は激しく、第2位HPもパソコン事業黒字化では苦戦する。

MS、パッケージアプリケーション市場へ参入

 世界市場でのパソコンの飽和、あるいはソフト価格低下を懸念するマイクロソフトは、パッケージアプリケーション市場へ参入し「MS-CRM」を欧米で発売した。この準備のため同社は、米グレートプレーンズなどISV買収を積極的に行ってきた。

 同社のバルマーCEOは「アプリケーションはあくまでもSMB対象で、SAP、オラクルなど大企業対象のISVと競合してはならない」と社内、パートナーに再三警告する。

 さらに同社はERPやSCMなどを開発中で、これら業務パッケージが、.Net時代のマイクロビジネスの重要な柱となることを世界に印象付けた。

デル、液晶テレビでAV領域に参入

 パソコンなどITのコモディティ化戦略で成功したデルは、キラーとなる商品カテゴリを拡大するため、サーバー、PDA(携帯情報端末)、ストレージ、ネット機器、プリンタへ参入した。

 さらにデルは03年、これまでのITではなくAV商品の液晶テレビ、携帯音楽再生機を発売した。デルはテレビをスタンドアロンの家電と考えるのではなく、あくまでパソコン周辺機器に位置づけると説明する。

 デルはITと家電はデジタルコンバージェンスによって完全に融合することを強調する。従って近いうちに、家電であるテレビなどが映像端末として企業システムに組み込まれることも予想する。

ノベル、LinuxディストリビュータSuSE買収

 一時は鳴りを潜めていた往時のネットワークOSの覇者、ノベルがLinuxディストリビューション2番手の独SuSEを2億1000万ドルで買収すると発表した。

 米IBMも資金支援のためノベルに5000万ドルを出資。人気が高まるLinuxだが、レッドハットがその50%シェアを握っていた。ノベルは自社Net Ware全盛時代に世界にきめ細く販売網を築いてきた。従って、先行するレッドハットよりノベルの市場カバー力は大きい。

 これによって伸び続ける世界Linux市場にレッドハット、ノベルの2大ディストリビュータ時代が訪れ、市場拡大に寄与することが期待される。

サン、64ビットプロセッサでAMDと提携

 サンは自社チップSPARC、自社OSのSolarisを開発する垂直統合型ベンダーだった。しかし、低価格Linuxインテルサーバーに市場を奪われて苦戦が続く。サンはこのため32ビットではインテルチップを搭載するLinuxサーバーも発売した。しかし、サンの本命は64ビット市場で、ここにAMDの64ビットで低価格Opteronも採用することを決断し、AMDとの提携に踏み切った。一方のAMDも64ビットMPUに社運を賭けており、サンとの提携に大きな期待を抱く。
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