2004年のIT業界は、景気に薄日が差し始めたなか、アテネオリンピック効果による需要の拡大、事業再編などで各社が新たなビジネスモデルに踏み出した1年だった。なかでも近鉄バファローズとオリックス・ブルーウェーブの合併に端を発したプロ野球・パシフィックリーグの再編は、ライブドアの参入表明から俄然盛り上がった。最終的には楽天とソフトバンクの福岡ダイエーホークス買収という形に決着を見たが、IT企業の資金力を見せつけた出来事といえるだろう。その一方で、情報漏えいや詐欺など、インターネット社会のマイナス面も浮き彫りになっている。BCNが見つめたこの1年を振り返ってみる。

IT企業、プロ野球参入――ネットで新たなビジネスモデルも

    【10大ニュース 国内編】
  • ・楽天とソフトバンク、プロ野球団取得
  • ・情報漏えい事件・事故が頻発
  • ・大手ERPベンダー、SMBに照準
  • ・業務ソフトベンダーの再編相次ぐ
  • ・家電量販業界の再編が加速
  • ・相次ぐPC周辺機器メーカーの新規事業開始
  • ・ショップのBTO パソコン販売進む
  • ・大手メーカー、国内投資を活発化
  • ・“オタクの街”へ--変貌する秋葉原
  • ・デジタル家電、さらに伸長
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楽天とソフトバンク、プロ野球団取得

 11月2日、楽天の日本プロフェッショナル野球組織(NPB)への加盟申請が認可され、「東北楽天ゴールデンイーグルス」が誕生した。さらに11月30日には、ソフトバンクによる福岡ダイエーホークスの株式取得が正式発表に。来期にはIT系の球団が2チーム誕生する。

 厳しい経営状態にあるプロ野球の世界は、伝統ある日本企業が経営するいわばオールドエコノミー。それに対しスピード経営で事業拡大を進めている楽天、ソフトバンクはニューエコノミーの象徴のような存在だ。楽天、ソフトバンクによる新たな経営手法の導入で、プロ野球界に新風を吹き込むことが期待されている。

 楽天とソフトバンクにとって、プロ野球への進出は、社名とブランド認知度の向上につながる。NPBに加盟申請したものの、最終的には申請が認められなかったライブドアも、プロ野球参入騒動でその知名度は一気に全国区になった。「これだけの知名度を得るために広告を出すとすれば、数億円、数十億円かかることになるだろう」といわれるほど。

 あとはプロ野球に参入した2社が、期待通り新たな経営手法を打ち出せるかどうかだろう。(三浦優子)

情報漏えい事件・事故が頻発

 2月下旬、ソフトバンクBBから451万7039件の顧客情報流出が明るみになった。IT大手からの過去最大規模となるこの個人情報流出事件をはじめ、通信販売大手のジャパネットたかた、アッカネットワークス、日本信販、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)など、さまざまな業種で、企業・団体が持っている個人情報の流出が続いた。

 情報漏えい対策は今年のキーワードとなり、セキュリティ対策に疎いと言われる日本に、セキュリティの重要性を認識させるきっかけとなった。

 ITベンダーにとっては、この騒ぎがビジネス拡大のための好機となった。大企業から中堅・中小企業まで共通して提案できるジャンルであり、IT企業はセキュリティ対策製品・サービスの強化に一気に力を注ぎ始めた。また、損害保険会社からは「個人情報漏えい保険」という新たな商品が生まれ、ITだけでなくセキュリティビジネスは、他業種に広がりをみせている。

 来年4月1日には「個人情報保護法」の施行を控える。個人情報の漏えいで火がついたセキュリティ対策のための投資は、来年も続きそうだ。(木村剛士)

大手ERPベンダー、SMBに照準

 大手ERP(統合基幹業務システム)ベンダーが相次いで中堅・中小企業(SMB)向けの施策を強化した。SAPジャパン、日本オラクル、日本ピープルソフトなどの大手ERPベンダーは、これまで大企業を中心にビジネスを展開してきた。しかし大企業向けの販売手法の成熟度が高まったことや、SMBのIT投資が拡大期を迎えたことなどを受けて、SMB市場に向けた販売強化に乗り出した。 SAPジャパンは、今年6月に「SAPビジネスワン」の出荷を開始。従業員数200人以下のSMBをターゲットとし、この市場にアクセスできる新しい販売パートナー網の構築に取り組んだ。大企業向けには直接的な営業が中心だったSAPジャパンだが、SMBに向けては販売パートナーが営業の主体になるとしている。

 日本オラクルは、大企業向けのERP「オラクルEBS」をSMBで素早く導入できる導入ソリューション「オラクルネオ」の販売に力を入れた。日本ピーフルソフトは、中堅企業向けに強いERPベンダーの日本J・D・エドワーズとの合併を済ませ、これまで手薄だった中堅企業向けの商材を拡充した。

 SMB向けのERP市場は、国産ERPベンダーの牙城でもある。今後は国内外のERPベンダーが入り乱れてのシェア争いがより激化すると見られている。(安藤章司)

業務ソフトベンダーの再編相次ぐ

 会計・財務ソフトを開発・販売する業務ソフトベンダーの再編が相次いだ。顧客獲得競争が激化するなか、製品開発力やショップでの競争力をさらに高めるため、豊富な資金力を持つIT企業の傘下に入る動きが目立った。主役は、ショップを中心に販売を手がけるベンダーだ。

 2月、会計事務所向けシステムで実績のあるミロク情報サービス(MJS)が、業務ソフト「かんたんシリーズ」を出すユニシンクの営業権を獲得。4月1日、MJSの子会社として「ミロクユニソフト」が誕生した。旧ユニシンクは、ショップ販売でシェア中位にあるが、上位の弥生や日本デジタル研究所(JDL)に追随できずに悩んでいた。

 一方、シェアトップの弥生も、11月にライブドアに買収された。03年に米インテュイットからMBO(経営者による企業買収)で独立後、順調に業績を伸ばしてきたが、株式の95%を所有するファンド会社からの借り入れを返済できなかった。

 ジェイシーエヌランドは10月、シェア1位(BCNランキング)の青色申告ソフトの販売権をホロンに移譲。ショップでは業務ソフトの低価格競争が激しく、粗利益が低くなっているためだ。業務ソフト市場では、今後もベンダーの合従連衡が続きそうだ。(木村剛士)

家電量販業界の再編が加速

 家電量販業界で企業統合が加速している。4月1日には、大手量販店のケーズデンキと中堅量販店のギガスが事業統合し、「ギガスケーズデンキ」としてスタートした。今年度(2005年3月期)中間期の売上高は1515億900万円(前年同期比48.0%増)と大幅な増加。10月1日には、八千代ムセン電機も傘下に収め、家電量販業界でのポジションを高めていく。統合効果により、売上高は今年度が前年度の1.4倍にあたる3080億円を見込む。さらに2010年度に1兆円規模まで引き上げる方針。

 経営の建て直しを図るパソコン専門店も出てきた。オーエー・システム・プラザは、昨年度(04年9月期)の業績が大幅に落ち込んだことから、ピーシーデポコーポレーションから資本および業務の支援を受け、競合他社に対抗できる価格戦略と品揃えの確保に力を注いでいる。店舗は、業務提携前の31店舗から来年3月までに15店舗まで縮小する。

 家電量販業界では、売り上げ1兆円突破を達成しようとする企業があるなか、専門性の追求といった差別化を行わなければ淘汰される時代に入った。確実に業界再編が進みつつある。(佐相彰彦)

相次ぐPC周辺機器メーカーの新規事業開始

 パソコン周辺機器メーカーの新規事業開始が相次いだ。ネットワーク機器や増設メモリなどの分野で大手のバッファローは7月、PCサプライ事業に参入した。今年度(2005年3月期)は、10億円の売り上げを目指しており、カテゴリーの拡大などをテコに06年度には100億円規模まで引き上げる。

 PCサプライ分野でトップシェアを誇るエレコムは、7月12日にパソコン増設メモリモジュールを発売し、メモリ市場に参入。10月29日には、ソースネクストと業務提携し、ビジネスソフトをバンドルしたUSBフラッシュメモリを発売した。さらに、周辺機器メーカー、ロジテックの株式譲渡に関する基本合意を、筆頭株主の丸紅インフォテックおよび主要株主の丸紅と11月2日に締結。ロジテックの買収で、国内第3位の売上規模を誇るPC周辺機器メーカーとなった。

 周辺機器メーカーがビジネス領域を広げているのは、パソコンのコモディティ(日用品)化が進んでいるため。パソコン市場が成熟する一方で、デジタル家電市場が急速な立ち上がりを見せている。そのなかで、新規事業に着手し、新市場の創出が急務となっていることを示している。(佐相彰彦)

ショップのBTO パソコン販売進む

パソコン専門店および家電量販店のパソコン販売でBTO(受注生産方式)化が進んでいる。 ピーシーデポコーポレーションは4月、自社ブランドでBTOパソコン「オッジオ」を発売。「店頭ダイレクトBTO」と呼ばれる、ショップでコンサルティングから注文、製造、受け渡し、メンテナンスまでを手がける体制を確立した。店内に組立センター「オッジオファクトリーセンター」を設置し、注文から最短で75分、最長でも72時間でパソコンを組み立てて引き渡す。

 ソフマップは、「我流工房」という名称で11月からBTOのノートパソコンを販売。ユーザーはHDD(ハードディスクドライブ)、メモリやCPUなどを自由に選べる。筐体も6種類を用意した。組み立てはショップのスタッフに依頼するか、自分で作るかを選択できる。

 ショップがBTOビジネスに着手しているのは、ユーザーニーズに合ったパソコンでなければ売れないため。つまり、メーカー製パソコンだけでは多様化するニーズに対応できないということだ。競合店との差別化を図る上でも、BTOパソコンが重要なアイテムになっている。(佐相彰彦)

大手メーカー、国内投資を活発化

 大手メーカーが生産拠点を日本国内に新設する動きが目立った。人件費の安い海外に生産拠点を設け、開発コストを抑える動きが目立ったなか、今年は大手メーカーが続々と国内に新工場を設けた。

 コモディティ(日用品)化した製品は海外生産するが、事業の柱となる戦略商品については国内で生産。日本国内へ技術の集積を図るとともに、技術の流出を防ぐことがメーカーの狙いだ。今後も大手電機メーカーでは、薄型テレビなど好調に推移するデジタル家電製品を生産する新工場設置への巨大投資が進みそうだ。

 1月、シャープは液晶テレビの生産拡大に向け、約1000億円の資金を投じ、液晶パネルの生産から液晶テレビの組み立てまでを手がける工場を三重県亀山市に建設。

 このほか、松下グループでプラズマディスプレイパネル(PDP)を生産する松下プラズマディスプレイは、大阪府茨木市にある茨木工場に加え、フル稼働時で年産300万台と世界最大規模になる工場を大阪府尼崎市に建設すると発表。05年11月の稼動に向けて今秋着工した。

 デジタル家電製品は、今後も引き続き安定的なニーズが見込める分野で、日本メーカーの強みでもある。それだけに、国内中心の生産体制確立はますます加速しそうだ。(木村剛士)

“オタクの街”へ――変貌する秋葉原

 東京・秋葉原地区が着実に変貌を遂げようとしている。電気街は、パソコンや家電機器などを販売するショップだけでなく、アニメやフィギュアなどエンターテインメント性の高いショップが次々と出店。コスプレ喫茶も増えるなど、〝オタクの街〟としての色彩が一段と濃くなってきた。一方、パソコンおよびパソコン関連機器の競争激化で、ショップ閉鎖も相次いだ。

 8月14日には中央通り沿いに「ドン・キホーテ秋葉原」がオープン。ディスカウントストアの出現で、土日・祝日には若いカップルや家族連れも増えた。しかも、ドン・キホーテ最大の〝売り〟である深夜営業により、これまで夜10時には静まり返っていた電気街が深夜まで活動する街に変わった。

 JR秋葉原駅前の再開発で、来年3月には「秋葉原ダイビル」が完成し、最先端のIT拠点として本格的に動き出す。秋には「つくばエキスプレス」の開業や、ヨドバシカメラの再開発地区への出店などが控えており、電気街は新しい姿を見せる。秋葉原はさまざまな〝顔〟をもつ街になっていく。(佐相彰彦)

デジタル家電、さらに伸長

 8月に開催されたアテネオリンピックを契機にDVDレコーダー、薄型テレビの販売に勢いがついた。各メーカーの2004年度9月中間決算でもデジタル家電の好調さが反映された。さらに、主戦場を年末商戦にシフトした各メーカーは戦闘態勢が続いた。

 〝新3種の神器〟のうち薄型テレビ、DVDレコーダーの勢いは引き続き加速しているが、デジタルカメラは伸び率が鈍化し始めた。コンパクト型のデジタルカメラは、需要が一巡した感がある。その一方で、デジタル一眼レフカメラはラインアップが増え、市場に浸透した。

 大手パソコンメーカーは、小型液晶テレビ、DVDレコーダーに対抗し、テレビ機能搭載パソコンに力を入れたほか、周辺機器メーカーも相次いでデジタル家電ビジネスに参入。パソコンとハードディスク、テレビを接続することでDVDレコーダーのような機能の提案を始めた。家庭内の無線LAN設置やホームサーバーの訴求など、デジタル家電と連携する製品をコアとするビジネス展開が進んだ。

 また、周辺機器メーカーの技術がデジタル家電に取り入れられ、家電製品のユビキタス化が具現化され始めるなど、市場におけるデジタル家電の位置づけが確立した年となった。(田澤理恵)