日本IBMはビジネスパートナー施策を大幅に軌道修正する。同社はここ数年来、系列ディストリビュータ網を独自に構築。主要な販売パートナーへは系列ディストリを経由する商流へ変更してきた。だが、販売パートナーとの直接の接点が減り、なおかつIBM自身のハードウェア製品のラインアップも減少。このままでは間接販売メインの中堅・中小企業向けのビジネスが縮小しかねないことから、軌道修正に踏み切る。VAD(付加価値ディストリビュータ)と呼ばれる系列ディストリと歩調を合わせながら、販売パートナーとの連携したビジネスモデルを再構築する。


 日本IBMのVAD戦略は岐路に立たされている。現在、国内に実質3社体制で機能しているVADは、新規のビジネスパートナーを開拓し、IBMのハードウェアやミドルウェアを拡販するという面では一定の成果を収めた。一方で、中堅・中小企業向けの販売をVADに依存しすぎたため、日本IBMと販売パートナーとの接点が希薄化。パートナーの日本IBMに対する満足度が年々下がる事態となっているというのだ。

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 問題の根は深い。そもそもVADを立ち上げた大きな理由として、販売パートナーが一つの窓口ですべての商材を調達できるワンストップサービスがある。かつてIBMが注力していたパソコンやプリンタ、HDDは他社へ売却するなどしており、主力のサーバーも昨年、ミッドレンジサーバーのiシリーズとUNIXサーバーのpシリーズを「Power Systems」に統合、製品ラインアップを縮小した。VADはIBM製品をメインとしながらも、情報システムの構築に必要な商材を他社からも仕入れ、一括して販売パートナーに卸している。もし、販売パートナーから“HPのサーバーが欲しい”と要望されれば、「要望に応えざるを得ない」(VAD幹部)としており、VAD独自のマルチベンダー化が進む恐れもある。

 焦ったのは日本IBM自身だ。VADの実力は大きく拡大しており、最大手のイグアスの今年度(2009年3月期)売上高の見込みは、前年度比2割余増加の250億円に伸長。ビジネスパートナー数も上期で約460社、通期では500社ほどに増える見通しであるなど「順調に推移」(矢花達也社長)する。二番手の日本情報通信(NI+C)も「日本IBMの商流変更が追い風になり、VAD事業は伸びている」(野村雅行社長)と、こちらも好調の様子だ。IBM主導で進めてきた中堅・中小企業向けのビジネスのイニシアチブが分散する傾向にある。

 そこで日本IBMが打ち出したのが、VADとの“共同歩調”である。VADを経由して製品を供給する“商流”は変えない。ただ、営業やマーケティングの支援については、VADと歩調を合わせながら販売パートナー向けに積極的に行う。日本IBMが持つ中堅・中小向けのビジネス戦略やテレセールスなどの営業リソースを共有。具体的には、今年4月をめどに日本IBMの営業担当者が主に利用する販売促進や製品に関する資料などの共有システム「ディール・ハブ・ナビゲーター」を、パートナーが自由に使えるようにする。また、販売パートナーの幹部に責任をもって対応するため、日本IBMの理事クラスを担当重役として割り当てる。これにより日本IBMの地域の中堅・中小企業向けのゼネラルビジネス担当者との連携をしやすくなる仕組みを再構築する。

 昨年から今年にかけて全国に足を運び、100社余りの販売パートナー幹部と意見交換した日本IBMの岩井淳文・事業開発パートナー事業担当執行役員は、「IBMと組んだほうがビジネスを有利に進められる仕組みづくり」に力を入れる。単価が下落し、ハード製品の売買差益で収益を得る従来型のビジネスモデルは成り立ちにくい。日本IBMも昨年来、メーカー間の競争激化で主力サーバーを値下げせざるを得ない状況。今後は、サーバーやクライアントの仮想化、クラウドへのシフトが予想され、当面は売るべき製品が不足する傾向が続く可能性がある。ITをリードしてきたビジョナリー・カンパニーとしてのIBMの強みを生かし、長年培ってきた貴重な資産である販売パートナー網を維持できるかどうか、重い課題に直面している。

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ハードのみの関係維持は限界

 日本IBMのパートナー施策の軌道修正は、メーカーと販売パートナーの関係を改めて考えさせられる動きだ。コンピュータメーカーのなかでも、IBMはパソコンなど収益性の低いハードウェア事業の一部から真っ先に手を引いてきた。VADは、IBM単独でカバー仕切れなくなったハード供給を請け負う形で“IBMチャネル”の維持・拡大に努める。販売パートナー会の愛徳会メンバーなどオフコン時代から続くおよそ200社のパートナーに加え、マルチベンダー系の販売パートナーもVADが独自に開拓するケースも増えている。

 現在、SIerの収益の柱は、付加価値の高いソフト・サービス。従来のようなハードの売買差益ではない。であるならば、メーカーとの関係も付加価値の高いソフト・サービス型に移行しなければならないはず。SaaSやクラウドコンピューティングの比率が高まると、なおさらこの傾向が強まる。日本IBMは、「ビジネスパートナーが収益をあげられる仕組みや商材を提供してこそ、当社のビジネス拡大につながる」(岩井淳文・執行役員)と、もはやハードだけで販売パートナーとの関係を強化するのは難しい局面にさしかかっていると考えている。当面はVADと共同して営業やマーケティングの支援を軸に据えるが、中長期的には「ソフト・サービス型の商材をさらに増やす」(同)と、IBM自身が業界に先駆けて実践してきたビジネスモデルを中堅・中小企業向けにも展開していく方向性にあるという。

 オンデマンドコンピューティングを業界に先駆けて打ち出すなど、ビジョナリー・カンパニーとしてのIBMの力量は大きい。ミドルウェアソフト商材の品揃えもメーカー屈指。自社の系列販社網の弱体化を新しい商材やビジネスモデルによって食い止め、中堅・中小企業ユーザーの需要をどう捉えていくのか。他のメーカー系列チャネルに関わるSIerにとっても、興味深い動きである。(安藤章司)