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アドビシステムズ ライセンス事業拡大を本格化

2009/06/08 21:34

週刊BCN 2009年06月08日vol.1287掲載

販社との協業強化で需要開拓 売上高全体の60%に引き上げる

 アドビシステムズ(クレイグ・ティーゲル社長)は、ソフトウェアライセンスの事業拡大に本腰を入れ始めた。販社と共同で、アドビのソフトと他社のハードウェアなどを組み合わせた製品・サービスの創造に注力する。リベート改善やトレーニング強化などの体制も整備。来年度(2010年11月期)をめどに、ライセンスの販売比率を現状(全売上高の40%)から60%にまで引き上げる。

 ライセンス販売の増加に向けてアドビが力を注いでいるのは、ユーザー企業に対して「アドビ製品が有効かどうか」をアピールすること。佐野守計・チャネルセールス本部長は、「ユーザー企業の声を収集し、販売パートナーとともにソリューションを提供する」方針を示す。ハードウェアを組み合わせてシステムの一部としてアドビ製品を売ることで、ユーザー企業がアドビ製品を活用する環境を広げるわけだ。

 販社によるシステム提案の促進に向け、直近では販社向けイベント「パートナーズカンファレンス」で、アドビ製品を有効活用しているユーザー企業を招いてセミナーを開催。「販売パートナーが具体的に売ることをイメージできたのではないか」とみている。それぞれの販社が自社の強みを生かしてユーザー企業に対する提案を模索する際、「共同のソリューション創造に取り組む」という。特定業種に向けた製品・サービスの提供も検討。アドビが販社を業種別で分類し、「ラインアップを揃え、多くの業種を網羅できるようにする」としている。

 また、販社がアドビ製品をベースにシステム構築していくためのトレーニングを実施。PDFの作成や編集が可能な「Acrobat」では、「ライセンス・マスター・プログラム」と称した資格制度を設けており、販社のなかで20人程度が取得している。販社の売る意欲を向上させる策については、今年3月から「オブジェクト・リベート」と呼ばれる収益を伸ばすためのリベート改善策を講じている。

 ここにきて、アドビがライセンス事業の拡大に踏み切ったのは、「引き合いが強い」ことが大きな要因。ビジネスモデルについては、バージョンアップの提案や、契約期間が切れる際の更新促進などで「販社が収益が伸ばせる」と改めて訴える。「ユーザー企業にとっては、販売パートナーから購入したことで、さまざまな用途を気軽に聞けるという点で安心感を得ることができる」と訴求する。一方、アドビにとっては、「ユーザー企業が当社の製品を使わなくなるような状況を打破できる」としている。

 国内ソフトウェア市場は、パッケージを中心に減少傾向にある。さらに、世界同時不況の影響でITに対する企業投資意欲を薄れるばかり。こうした状況のなか、ユーザー企業のIT投資意欲を喚起するには、「提案型モデルを確立することが重要」と判断したのだ。ライセンス売上高比率については、現状の40%を来年度に60%への到達を目指しており、「まずは、今年度末までに50%の水準にする」としている。

 現段階は道半ばで、多くの課題が残っている。例えば、登録レベルで400の販社を確保したものの、有力販社は首都圏に本社を置く全国区のSIerを中心に20社未満という状況などが挙げられる。「地方や特定の業種などで活躍するSIerとのパートナーシップを深めていきたい」考えを示している。しかし、これまで“プル”型の要素が強かったアドビが、「今後は“プッシュ”型を遂行する」。チャネル戦略を大きく変えようとしていることは確かだ。(佐相彰彦)

【関連記事】アドビ製品の混在環境を是正
全国SIerへ浸透させられるか?

 企業内には、「Acrobat」をはじめ、知らず知らずのうちにアドビシステムズ製品が個別にインストールされて散在・混在している例が少なくない。アドビシステムズ日本法人の収益はこれまで、こうした家電量販店などで購入されるパッケージの販売に支えられていた。ただ、企業内で個人・部門別に散在し管理が煩雑になったほか、業務に関わる部分で利用が進まず、ライセンス数が伸び悩んだ。

 一方、アドビ製品を販売するパートナーの多くは、ライセンス数を増加させることに力点を置き、ソリューション販売する術を体得していなかった。アドビ製品は高価で粗利が高く、これで十分にビジネスを展開することができた。だが、国内企業にアドビ製品が行き渡るようになり、様相が一変。このため、世界で成功しているプログラムを日本用にアレンジし、既存パートナーに業種業務用途に応じたソリューションを提案できる体制づくりしているのだ。

 アドビ製品を使ったソリューション展開としては、「PDF」を利用した官公庁・自治体の公開資料や教材用途で文教向けに「Flash」が使われ、医療業界でも同社製品がフロントシステムに組み込まれるなど、幅広く利活用が進んでいる。こうした「売り方」を広くパートナーに知ってもらおうというのだ。

 どの製品をどんな業種業態にどのように「売る」かのテンプレートが揃えば、パートナーが簡単に販売できる。現状ではまず、既存パートナーを主体にソリューション販売力を身につけさせるプログラムを展開中。大阪に支社を設けたことからも分かる通り、全国の特化分野に長けたSIerを獲得し、全国の幅広い層へ製品展開する計画だ。

 しかし、同社が繰り出すソフトウェア資産管理(SAM)などのプログラムの有効性を知るITベンダーがまだ少ない。いかに早く業界へ浸透させることができるかどうが成長のカギを握る。(谷畑良胤)
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