ソフトウェア協会(SAJ)は5月31日、田中邦裕・筆頭副会長(さくらインターネット社長)の新会長就任が内定したと発表した。同日の記者会見で田中筆頭副会長は「デジタル前提の社会をつくるためにしっかりと活動していく」と抱負を語り、教育現場への支援や政策の提言などに力を入れる方針を示した。
(齋藤秀平)
記者会見に臨んだ荻原会長(左)と田中筆頭副会長
田中筆頭副会長は「教育や法律など、さまざまな物事が積み重なって今の社会ができた。日本は非常に競争力のある国になったが、一つ欠けているのがデジタルだ」と指摘し、「(これまでに積み重ねてきた)すべての層にデジタルのない時代の前提が含まれている。今は上層にデジタルを載せて何とか社会が成り立っているが、すべての層をデジタル前提に変えれば、社会の生産性は大きく改善するし、人生の効率も上がっていくだろう」と話した。
SAJはこれまで、教育分野への支援を進めてきた。田中筆頭副会長は、新体制となった後も、教育DXの実現に向けてこれまでの路線を継続する姿勢で「教育現場の人は本当に困っている。縦割り行政の中で変わらない状況はあるが、ソフトウェアの業界団体がしっかりと発信していけば、現場は変わっていくと思っているので、すぐにでも取りかかっていきたい」と語った。
また「旧態依然とした体制を守りたい人が、さまざまな政治力を使って、現状を維持しようとしている。これが日本が停滞する原因になっている」と持論を展開し、社会を変えていくためには良質な政治力が必要との見方を示した。その上で「我田引水にならず、産業がよくなるように大所高所から政策を要望していかないといけない」とし、政府や関係省庁への政策提言には引き続き力を入れる考えを示した。
ほかにも、スタートアップ企業への支援を新たなミッションとして掲げた。関連する業界団体が存在感を発揮できるように、新団体の設立に関わり、ハブとしての役割を担うことに注力すると説明。地方への展開では、地域ごとに理事を割り振って活動を拡大させたいとした。今年3月時点で700を突破した会員数のさらなる拡大も目指す。
記者会見には荻原紀男会長も出席し、8年の任期を「大変だったが、やりがいもあった」と総括した。具体的なエピソードとしては、制度化に向けて活動したIT導入補助金について、当初の100億円から予算の総額が大きく拡大したことを挙げ「相当に(中小企業の)DXが進んだ」と振り返った。GIGAスクール構想の開始やデジタル庁の新設にも触れ「SAJの外のことにも取り組んできたが、副会長や理事に支えてもらった」と謝意を表明した。
田中筆頭副会長に対しては「クラウド時代になり、評価されるかどうかはソフトウェアにかかっている。田中さんがトップになり、さまさまざまなソフトウェア会社が集ってくれば、SAJと日本の発展につながる。一生懸命応援する」とエールを送った。
会長を含む役員変更は、6月8日の第37回定時総会で正式決定される見通し。荻原会長は、名誉会長・理事に就任する予定。
田中筆頭副会長は、1978年生まれ。大阪府出身。舞鶴工業高等専門学校(京都府舞鶴市)に在学していた18歳の時にさくらインターネットを起業。SAJのほかに、日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)や日本データセンター協会(JDCC)、ブロックチェーン推進協会(BCCC)など、各種団体の理事や委員も務めている。