オービックビジネスコンサルタント(OBC)の和田成史社長は週刊BCNのインタビューに応じ、2025年度の注力戦略として、中堅・中小企業の業務をAIによって革新する「AIトランスフォーメーション」を推進する方針を説明した。「奉行クラウド」シリーズの中にAI機能を組み込むほか、奉行クラウドと連携する周辺ソリューションでもAIの活用を拡大し、業務効率化や意思決定の高度化を支援する。和田社長は「パートナーがもつ専門分野の知見と連携していきたい」と述べ、パートナーによるAIエージェント開発の活発化にも期待を示した。
(日高 彰)
和田成史 社長
OBCは今年、二つの形態でAI機能を実装し、ユーザー企業のAIトランスフォーメーションを進める戦略を発表した。その一つが「AIアシスタント」で、これは奉行クラウドシリーズの中にAI機能を組み込み、ユーザーが自然なかたちで業務を効率化できるようにするものだ。
既に発表している機能としては、入出金データやクレジットカードの利用明細をもとにした仕訳の自動化や、帳票を自動で読み取り仕訳処理まで行うAI-OCR、業務の手順や制度改正などの質問に答えるAIチャットなどがある。「○○円以上の外注費を確認して」などの自然言語による条件指定や、独自形式の帳票の自動作成といった機能も順次拡充する。
もう一つの提供形態が「AIエージェント」で、これは奉行クラウドと連携しながら動作し、より高度な業務変革を実現するソリューションという位置付けだ。第1弾として、中堅企業向けの「勘定奉行V ERPクラウド」で、連結決算業務を支援するAIエージェントを投入し、連結会計で煩雑な業務であるグループ間取引の突き合わせなどを自動化する。エージェントはOBCが自社で提供するだけでなく、奉行クラウドと連携するパートナーも開発できる。
和田社長は「奉行シリーズは、あらゆる企業で必ず発生する業務をカバーしてきた。それに対して、例えば受発注や見積もりといった業務は、企業や業種によって独自のルールや様式があるため、専門性をもつパートナーが連携ソリューションとして提供してきた」と話し、AIエージェントにおいても同様にカバー領域をすみ分けていく考えを明らかにした。エージェント開発パートナーに向けては、奉行クラウドとの連携を支援するためのデータ基盤を用意する。
和田社長は「DX、AIトランスフォーメーション、そしてセキュリティーを実現するためには、クラウドが不可欠」と強調。同社は特別な要件のある顧客を除き、既にオンプレミス版の販売活動を終了している。25年3月末時点でSaaS版の基幹業務システム稼働数は6万6000件と、前年比13.2%増のペースでユーザーは増加している。一方で、オンプレミスもしくはIaaS上で動作する「奉行11」シリーズは約11万システムが稼働中といい、既存ユーザーのクラウド移行が課題となっている。
同社の調査では、ユーザーがクラウド移行をためらう最大の理由がセキュリティーの不安だった。このため、信頼できる基盤にシステムを移行することで、自社環境で運用するよりもむしろ安全性は高まることを丁寧に説明していく。6月には奉行クラウドシリーズとして、政府情報システムのためのセキュリティー評価制度であるISMAPへの登録を完了し、より客観的に安全性を提示できるようにした。
和田社長は「不安を解消したうえで、その向こうにはAIを含めた素晴らしい世界があるということを知っていただくのが必要」と述べ、AIによりバックオフィス業務が大きく変革できることを伝え、クラウド移行を加速していく考えを示した。