ソフトウェア協会(SAJ)データレスクライアント研究会は、最新のデータレスクライアント(DLC)市場動向と導入事例を2025年12月16日に発表した。25年度の主要8社のDLCベンダーのライセンス販売金額は、前年度比36.0%増の44億円と大きく伸びる見込みで、26年度以降も仮想デスクトップ基盤(VDI)からの置き換え需要が見込まれることから、28年度には100億円を超える規模に成長する見通しと予測する。調査はMM総研が25年11月に取りまとめた。同日の会合では、DLCベンダーの横河レンタ・リース、ZenmuTech、アップデータの3社が放送やIT、金融、製造、文教などの事例を発表した。
(取材・文/安藤章司)
維持費の安さが魅力に
DLCはソフトウェアによってPCの重要ファイルを他者が利用できないようにするセキュリティー機構で、大がかりなサーバー資源を必要とするVDIに比べて維持費が安く、安全性も高いことから近年注目を集めている。DLCの方式は、重要ファイルを暗号化・断片化し分散保存する「秘密分散方式」や、オンラインストレージなどPC以外に重要データを保存する「リダイレクト方式」などがある。
MM総研
中村成希 取締役
現在の主要DLCベンダーのPC1台あたりの平均的な月額費用は1263円で、年額換算では約1万5000円である一方、オンプレミス型のVDIはサーバーの維持管理費がかさむことから「PC1台あたり年額10万円以上の維持費をかけているユーザー企業が全体の7割以上を占める」(MM総研の中村成希・取締役研究部長)とされ、コスト面での差は大きい。DLCの25年度のライセンス販売本数は前年度比67.3%増の29万本の見込みで、28年度には56万本に達すると予測する。
PCの計算資源を有効活用
VDI方式はセキュリティーを重視する金融機関などの組織内に限定した閉域ネットワーク環境との相性が良いものの、常にインターネットと接続するシステムとの相性が良くないとの指摘がある。DLCはWeb会議ツールなどインターネット利用を前提にしたサービスとの親和性が高く、リモートワークやハイブリッドワークに適している点が評価されている。既存のVDIを併用しつつも、ネットワークやVDI更改のタイミングでDLCが選定されるケースは今後も増えていく見込みだ。
また、近年のPCにはAI処理に適したNPUが搭載される割合が増えており、「高性能化したPCの計算資源を有効活用する意味でもDLCに合理性がある」(同)と指摘。とりわけAIは企業活動に欠かせないツールとなっており、PCのAI処理能力を生かしながら情報漏えい対策を実現できる比較的安価なソフトウェアとして、DLCの採用が増える見通しだ。
DLCベンダー3社が事例を発表
データレスクライアント研究会は、DLCの導入事例も併せて発表した。
横河レンタ・リースは、フジテレビジョン、NTTデータMSE、NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT)に納入した。フジテレビは当初セキュリティー強化を目的にVDIを導入したが、動画制作やWeb会議に支障があり、PCの処理能力を生かすDLCを採用する動機づけとなった。NTTデータMSEはオンラインストレージに重要データを常時保存するリダイレクト方式のDLCによって、PC故障時にデータを移し替える手間を大幅削減。NTT-ATはVDIがクラウド環境への移行の障壁となっていたことがDLC採用につながった。横河レンタ・リースの田中信行・ITソリューション事業本部ソフトウェア&サービス部長は、「VDIと比較した際のDLCの維持費の安さが、3社共通の採用動機になっている」と話した。
横河レンタ・リース
田中信行 部長
秘密分散方式を採用するZenmuTechは、従業員規模2万8000人の金融系コンサルティング会社、5万3000人規模の損害保険会社、8000人規模の電気系製造業ユーザーの事例を発表した。大手企業への納入が多くを占め、オンプレミス型のVDIからの移行や、ゼロトラストネットワークを採用する流れの中で導入が決まるなどとした。ZenmuTechの岡田昌徳・パートナー営業部ジェネラルマネージャーは「既存顧客の6割余りがVDIからの置き換えで、セキュリティーへの投資額が大きい金融機関のユーザーが多くを占める」と話す。DLC単体で導入するのではなく、EDR(端末の検知と対応)やクラウド対応のセキュリティー対策であるSASEなどと併せて、総合的な施策の一つとして採用されるケースも少なくないという。
ZenmuTech
岡田昌徳 ジェネラルマネージャー
アップデータ
福原梨乃 課長
アップデータは、ヤクルトヘルスフーズと慶應義塾の事例を発表した。ヤクルトヘルスフーズではVDIの維持費の高さが課題としてあり、VDIサーバーの更改のタイミングでDLCに切り替えた。「VDIによるネットワーク負荷が軽減され、Web会議などの接続性が安定した」(福原梨乃・営業部営業1課課長)という。慶應義塾では、職員の在宅勤務におけるセキュリティー対応としてリダイレクト方式のDLCを導入し、PC交換時のデータ移行の手間が大幅に軽減される利点も享受できるようになった。