【1980年代のIT】コンピュータ・ディーラの夜明け

代販網 市場制覇の決め手(第1回)

1981/10/15 16:04

週刊BCN 1981年10月15日vol.1掲載

 オフィス・コンピュータが切り拓いたコンピュータの大衆化指向は、システムの流通形態にも大きな変化をもたらした。30数年になるわが国のコンピュータの歴史にあって、それまでシステムは、メーカーからユーザーに直接提供されていた。こうしたなかで、コンピュータの市場拡大に伴って、ディーラーがユーザーにシステムを提供する代理店販売という新たな流通形態が形成され始めた。そしてパーソナルコンピュータの登場で代理店販売形態は確実なコンピュータ流通経路に発展し、オフコン・ディーラー、パソコン・ショップは、全国に1000社を数えるにおよんでいる。コンピュータ・ディーラーには事務機販売店、アマチュア無線販売店、家電販売店、百貨店、医療機器商社、人形店、輸送会社、ソフトウェア・ハウスなど、さまぎまな業種の企業が参入している。ディーラーの勢力は年を追って強まり、これまで直販体制を貫いてきた外資系コンピュータ・メーカーも代理店販売体制を採り入れる動きにある。まさに「コンピュータ・ディーラーの夜明け」である。

全国規模の網づくり 他社と手を組み販売力強化


 代理店販売には、メリットとデメリットが混在している。メリットは代理店、いわゆるディーラーの数を増やせば、それだけ販売ルートが拡大される。しかも、まったく別会社であるため、メーカー側は人件費、販売コストなどの事業運営を心配しなくてすむ。

 管理するものとしては、最低限ディーラーの販売実績のみである。メーカーが自社でセールスマンを抱えて直接販売するとなれば教育費、交通費、販売経費、社員のモラル管理にまでおよび、販売活動以外の仕事が山ほどあるわけである。

 こうした条件の下では、企業の社員教育、販売体制、雇用体制が確立されていなくてはならない。また、資金も必要である、といったことから直販体制の規模におのずと限度が生じる。

 これが代理店販売であれば、メーカーは地域内のディーラーが競合しないようにテリトリー分割を採り入れたり、シェアの低い地域には、事業体制のしっかりした販売力のあるディーラーを他社から自社に引っぱり込むとか、人材を地元から集めて新たなディーラーを発足させるなどの販売戦略を大きくうてる点が代販形態の魅力である。

 いわゆる自社の駒に他社の駒を複数持たせることで戦力を強化しようというのが代理店販売形態である。メーカーばかりでなく、ディーラーもサブ・ディーラーを持っている。またパソコン・ショップの販売形態も代理店販売のひとつである。

集合教育で離職率も低下


 デメリットとしては、ディーラーは他の事業体のため、社員の販売力、社会人としてのモラルを一定以上に保つことができない点である。

 これに対し、メーカーはディーラーのセールスマン、SEを6か月から10か月ほど預かるといった集合教育制度を5年ほど前から採り入れているところもある。メーカーとしては教育費をディーラーからもらいセールスマン教育で能力の標準化と向上を図る。

 ディーラーは、社員を教育担当にわざわざさくこともなく、新入社員の社会人教育、セールスマン教育、SE教育を他に依存することができる。教育の効果は、能力向上ばかりでなく離職率を極端に下げることができた。

 しかし、企業にはそれぞれの社風があり、社会人1年生の新人を他人の手に、それもメーカーに預けることには、いささか疑問も残している。ディーラーが完全に1メーカー色であれば、教育を依存するメリットはあるが、複数メーカーの機器を取り扱っているディーラーでは、自社の社員に特定のメーカー色を濃くすることには、全面的に賛成はできないはずである。

 しかし、オフコン、パソコンともに市場はますます拡大し、参入メーカーやディーラーが増え、競合が厳しい現状では、強力なセールスマン、SEを一日でもはやく育成し、戦力としてはやく市場に出し、販売実績を上げることが最優先である。メーカーの集合教育に期待するディーラーは多い。

意外な分野に代理店候補


 オフコンの代理店販売形態は、5、6年前のディーラーの奪い合いに始まって、ここに来てほぼ代理店販売網は落ち着いている。

 事務機メーカー系のオフコン・メーカー、コンピュータ・メーカーのオフコン部では、ほぼ計画どおりの代理店販売網を築いている。

 メーカーにあっては、オフコンの代理店販売網の整備着手が遅れたため、青写真どおりの販売網を整備することができないでいるところもあるが、オフコンを販売するメーカーはすべてが、コンピュータ・ディーラーの存在に注目している。代理店販売網を制するメーカーはコンピュータ市場を制する、である。どのメーカーでも代理店販充促進部を持ち、直販部門以上の発言力を持っている。代理店販売形態には国産機メーカーが積極的に取り組んでいる。

外資もパソコンで代販の方向に


 輸入機メーカーの大手はすべてが直販体制で、個人的あるいは日本のブランチとしては代理店販売を強く望みながらも、多国籍企業の大局的なデシジョンと社内規約によって踏み切れないでいる。

 しかし、外資系コンピュータ・メーカーはすべてが、パーソナル・コンピュータの分野においては代理店販売を採り入れる方向で現在歩んでいる。こうしたメーカーは、新規のディーラーを開拓するのが最短距離であろう。

代理店をまとめる政策と機微


 パソコン・メーカーが、有料でフランチャイズ募集の説明会を行ったところ、コンピュータ業界以外の人の参加が多く、なかでも中小企業診断士とか、経営コンサルタント、税理士といった企業運営を専業者とは違った立場で見る人が多く集まった。

 コンピュータ・ディーラーの候補者は、意外な分野に散在していることも予測できる。が、人の集まる条件は、ブランド力、マージン、企業の開発力、資本力、付き合いの良さである。

 国産オフコン・メーカー各社はこうした代理店販売形態の機微を企業自体が吸収している。この点が、代理店販売の対象となるコンピュータ商戦における国産メーカーの強力な武器である。

 直販の企業には、それなりの企業色があるように、複数社が集まって形成する代理店販売にも、資金力、ブランド力を駆使した戦略的販売展開で、代理店販売の5、6年の遅れは1、2年で取り戻すのではないか、といった懸念はある。

 ところが、既存のコンピュータ・ディーラーは、メーカーとの結びつきが固く、これから新たに代理店販売網を築くとすれば、まっとうのカラーがある。己れは代理店をまとめあげるメーカーのカラーであるわけだ。

 逆に、ひとつのディーラー・グループを見まわしたとき、個々のバラツキが目立つグループは戦力が弱い。これは、なにも制服を着用せよという意味でなく、事業展開、事業目標を指摘するもの。

目立つ異業種の参入 パソコンが人気あおる

 代理店販売政策は、いくら大きな戦略がうてるといっても、市場の広さが見えるような規模では採り入れても意味がない。またディーラーもうま味がない。コンピュータでは、中大型機クラスにあってはディーラーの入る余地はない。オフコン、パソコン・クラスのコンピュータで代理店販売は生きる。コンピュータの代理店販売は、小型機から始まった。およそ20年前である。現在のオフコンの母型ともいえる超小型機での代理店販売は13年ほど前に始まった。

 その後、オフコンに名を替え、オフコン元年として本格的な代理店販売が始まったのは6年前からである。そして今年がパソコン元年である。パソコンの登場で、さまぎまな業種の企業がコンピュータ・ディーラーに名乗りをあげてきた。実はオフコンにおいても3、4年前から異業種企業の参入が増える傾向を示していた。汎用オフコンのディーラーという企業もあるが、多くは自動車整備業、ガソリンスタンド業、歯科医といった特定業種への販売をするディーラーであった。

 3、4年前の専用機は300万円から400万円であった。これが今では100万円前後のパソコンで充分処理をするほどである。コンピュータは、年率15%ずつ価格が低下していた。現在の100万円前後の機械は、十分に中小企業のスタンドアロンとして使え、人気も盛り上がっている。パソコンの登場は、パソコン教室の乱立をまねいた。オフコン・ブーム時のディーラー乱立と傾向が似ている。

 オフコンの歩みからパソコンの3年先を予測するとすれば、人気はピークを越え、利用者は成功を納めているグループと、機械がホコリをかぶったグループに分けられよう。すでにパソコンの見直しが始まっていると指摘する業界人もいるが1983年差では人気が伸び、需要は順調に増加するであろう。パソコン・ショップはますます増え、資本力を持ってショップを拡大する企業と、一匹狼によるショップ開設の方向がある。

ソフトハウスもシステムを販売


 また、ソフトウェア・ハウスもパソコンのシステム販売に乗り出すであろう。いわゆるパソコンは自分でプログラムを組むのが基本的な姿勢であるが、パソコンのプログラム開発を通常の倍以上の値段、いわゆるオフコンのプログラム開発費用を多少下まわった値段を設定し、ハードウェアはオフコンより値段が安いパソコンを適用して、パソコンの機能を100%使ったシステムをユーザーに提供しようとするものである。ところが、SEにはセールス能力がないため、セールスマンとのペアで事業を興すことになるのであろう。オフコン、パソコンの代理店販売形態は今後、かなりの速度で拡大する。それもいく種類もの形態が現われてくるであろう。

売りやすくなったコンピュータ


 コンピュータ・ディーラーは四つに分類できる。

 (1)ハードウェアのみを販売

 

 (2)ソフトウェアのみを開発販売

 

 (3)ハードとソフトを販売

 

 (4)受託計算センター

 

 以上の分類のうち、オフコン・ディーラーは(1)と(3)である。(1)ではセールスマンを自社で抱え、外部のソフトウェア・ハウスと提携する形である。(3)はオフコン・ディーラーにもっとも多い形態。

 (2)は、ソフトウェア・ハウスで、パソコンの登場により、ハードウェア販売をも行おうとパソコン・ショップに事務所を改装する会社も増えている。(4)は計算センターが計算処理を受注しているユーザーヘハードウェアを提供する形態である。もしくはセンターの一部をパソコン・ショップに改装し、教室も開いてシステムを販売する。

 このようにコンピュータ業界内においても、さまぎまな会社がコンピュータ・ディーラーに衣替えしている。この傾向はコンピュータが、いかに使いやすくて簡単な機械になったかを物語っている。使いやすさ、簡単さは操作機能はユーザーばかりでなく、販売する側の層の拡大も意味するものである。コンピュータは、ずいぶんばかでかくて、特別な空調を施した部屋から、通常のオフィスに抜け出した。そして、オフィスを脱出して外販員とともに外を出歩くようになった。

 ポータブル・コンピュータは今のところ走りだが、いずれアタッシュケース・コンピュータが、百貨店で売られるようになり、その脇には何種類かのアプリケーション・プログラムが陳列されていよう。パソコンに関するソフトウェアの動向は別の号にゆずるとして、コンピュータは特別な機械でなくなることは予測できる。一方、全社業務の事務処理分野でのコンピュータは、中小企業ならばオフコンで、大企業では中大型コンピュータといった従来どおりのシステム構築が進み、社内のネットワーク、本支店間のネットワークが構築される。

 パソコンは、こうしたネットワークのなかでの利用もされ、先に示したような個人利用、小企業でのスタンドアロン利用としても普及する。コンピュータ・ディーラーは、オフコンのように企業を対象としたシステムの販売を主体とするか、パソコンに代表されるような個人販売対象とするか大きく分けて二つ販売対象を持つことになろう。企業を対象とする場合は、ハードウェア、ソフトウェア開発費によって利益をあげ、個人の場合はハードウェアを安く仕入れて台数を大量にさばくことが、収益増となる。販売対象の違いは、同じ代理店販売であってもコンピュータ・ディーラーの事業体制を変える。今のところ流動的に動いている。今後コンピュータ・ディーラーの数はさらに増える。そのつど形態分類や地域販社を分析してみたい。

信州精器FDDに進出 驚異の低価格!

 コンピュータの代理店販売は、システムの値段が安ければ安いほど多岐にわたり、政策しだいで売上げが増減する。目的が定まった獲物を。狙うのとは違ったおもしろさがある。

 コンピュータ、とくにパソコンは周辺端末機器、機構部品の値段でシステム価格が上下する。
フロッピーディスクはパソコンに欠かせない周辺装置で、マイコン・ホビイストにとってはフロッピーディスクの購入がひとつの目標ともなっている。

 5インチフロッピーディスクは現在、2デッキで約30万円の値段である。信州精器ではこれを18万円前後で発売する。フロッピーディスクの歴史は10数年になるが、いくら新規参入メーカーであっても現在の価格を10数万円も下回る価格で新製品を発売する例はない。

 パソコンは大手メーカーであっても、ベンチャー企業であってもシステムを構築する周辺機器、機構部品は複数社から購入している。ことさら珍しくないが、こうした土壌の下では、安い装置へメーカー各社は走る。信州精器の5インチフロッピーは同社にとってプリンタに続くヒット商品として期待している。

 信州精器はフロッピーディスクの発売は初めてである。新規参入としての信州精器は驚異的な値段を設定した。これによりパソコンはさらに低価格化が進む。
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