どうなる? PCリサイクル

<どうなる? PCリサイクル>8.先走る新聞報道

2001/12/24 16:18

前払い方式で決定?

 「リサイクル料金を販売価格に上乗せして徴収する『前払い方式』にすることを正式に決めた」(日本経済新聞)、「購入時に負担することが13日決まった」(朝日新聞)、「産業構造審議会(産構審)で基本合意された」(同)、「先払い方式にすることが13日、固まった」(毎日新聞)、「販売時に徴収する方針を固めた」(読売新聞)──。

 12月13日、第5回目の産業構造審議会の会議当日および翌日の各新聞は、一斉に「パソコンのリサイクルについては販売時徴収で決まった」と報じた。

 この報道に最も驚いたのが、当事者である電子情報技術産業協会だ。

 「われわれは、基本的に排出時徴収の方針を変えていない。第4回の産構審で、『販売時徴収を前提とした仕組みを考えるように』という永田勝也座長からの宿題に答える形で、『販売時徴収でやるとすれば、こうするしか方法はない』と、電子協なりの販売時徴収の在り方をまとめただけに過ぎない。逆に、われわれとすれば、今回の提言で、販売時徴収の問題点が明らかになり、本来の主張である排出時徴収の合理性に対する理解が進むのではないか」

 これが電子協の基本的な考えである。

 少なくとも電子協はまだ「話し合う余地」があると考えていた。ところが、審議と前後して新聞紙面上には「販売時徴収で決定」との印象を与える記事が載り、事実上「合意に達した」という既成事実が即日のうちにできあがった。

 電子協の富田克一・パソコン3R推進事業委員会委員長(NEC執行役員常務)は、翌14日朝、所属会社の上司である西垣浩司・NEC社長の元へ行き、「新聞報道と事実とは異なり、合意には達していない」と報告している。

 誰かが糸を引いている──。電子協関係者の率直な印象だ。

 審議の席上では、「決定」や「合意」とは程遠く議論が紛糾した状態にあるにも関わらず、審議当日の日経新聞朝刊に、すでに「前払い方式になることが固まった」と報じられ、夕方には主要新聞が一斉に同じようなことを報じる。

 結果的に販売時徴収で決まったことが“既成事実”として一人歩きを始め、「あれっ?、電子協も腰砕けだなぁ。これで、パソコンは販売時徴収で決まりか…」と思い始めたパソコン業界関係者も少なくない。

 富田委員長は、「電子協は『販売時徴収をやります』とか『販売時徴収で決まりました』などとは一切言っていない。ビシッとした一枚岩で足並みも揃っている。しかし、誰かが誤った情報を流しているとしても、電子協からではないと思う。少なくとも私は、販売時徴収でやるなんてことは言っていない」と、今回の新聞報道に対して困惑する。

 今回のような、発言当事者である電子協の考えとは異なる報道で強引な既成事実化が行われるとすれば、「メーカー20数社をまとめていく自信はない。次回、既成事実を足がかりに、もっとすごい宿題が出されて、『はい。では、持ち帰って相談してみます』と言えるかどうか。持ち帰っても話がまとまらなかったらそれこそ何の意味もない」(富田委員長)と漏らす。

 パソコンリサイクルに関しては、通常、電子協が発表しているパソコン出荷台数の自主統計に協力していないデルコンピュータやコンパックコンピュータ、すでに日本市場から撤退したゲートウェイまで名を連ねている。「なかなか意思統一を図ることができない」(関係者)という実情がある。

 別の電子協関係者は、「今でも排出時徴収を主張していることに変わりはない。しかしながら、電子協内の一部には『もう覚悟はできている』と、半ばあきらめに近い空気がある。この意味では『受け入れた』ことになるのかもしれない。ただ、今回の既成事実づくりの巧妙さも相まって、次の審議でさらにもう一段高い要求を突きつけられたら、われわれも、さらにもう一段高い『覚悟』をしなければならないだろう」と、今後の展開に強い懸念を示している。

 電子協は「排出時徴収」に次ぐ“次善の策”として、「将来充当企業内資金管理方式による販売時徴収」を、今回の産構審で提案している。

 「新品は販売時徴収の実施が可能」としているものの、既販品については「廃棄時徴収」を徹底して貫く構えだ。(安藤章司)
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