OVER VIEW

<OVER VIEW>未曾有の不況下、国内IT企業 02年3月期決算総覧 Chapter6

2002/08/05 16:18

週刊BCN 2002年08月05日vol.952掲載

ディストリビュータ、ソフトベンダー決算

 パソコン市場低迷でキヤノン販売、カテナなどディストリビュータが減収となるなかで、ダイワボウ情報システムは増収と健闘した。しかし価格破壊の影響は強く、ディストリビュータ各社は営業損益で減益となった。ソフトベンダーでは日本オラクルが若干の減収減益、オービックビジネスコンサルタントは増収増益、ジャストシステムは2ケタ台の減収で営業損益赤字、アクセスは売上高が倍増したが販管費も大きく膨らんだため、僅かながら営業損益も赤字から脱却できなかった。

■パソコン市場失速がディストリビュータに影響

 わが国を代表するディストリビュータ(卸売り)のキヤノン販売(キヤノ販)、ダイワボウ情報システム(DIS)はそれぞれわが国第2位、第7位の巨大システムプロバイダである。

 カテナはパソコン卸売りビジネスが厳しくなるのを見越してディストリビュータからソフトウェア開発ツール「Lyee」を中核とするソリューションプロバイダへ転換するという点から注目されている。(Figure31)。

 キヤノン販は事務機(売上構成比74.7%)、光機(同13.4%)、カメラ(同9.1%)などのビジネスセグメントをもつ総合販社である。また卸売りとともにITシステム直販力も強いため、全社的総利益率も31.0%で、一般的ディストリビュータの経営モデルではない。構成比の大きい事務機売上高が前年比5.7%減となったため、全社的に1.0%の減収となった。また退職給付会計基準変更時差違一括償却額688億円を特別損失に計上したため、純損失は328億3100万円と巨額になった。

 営業利益は売上高、総利益がそれぞれ減少したため前年比5.4%減となったが、売上高比は2.5%と前年比ほぼ横ばいにとどまった。

 DISはパソコン市場が厳しいなか健闘し、売上高を前年比1.6%伸ばした。しかし価格デフレによって総利益は3.8%減少し、一方販管費が10%近く増加したため営業利益は60.1%と大きく減少した。

 カテナは業態転換中のため、パソコン関連間接販売が前年40.2%減少し、さらにLyee開発事業を含めたソリューション事業も26.0%増にとどまったため全社売上高は17.0%減、営業損益も3億2700万円の赤字となった。いずれにせよパソコン市場が回復するまではディストリビュータは厳しい決算を強いられよう。

■日米ともに厳しいディストリビュータ経営指標

 パソコン卸売り業の総利益率など経営指標は日米ともに年々厳しさが増している(Figure32)。

 卸売りが中核ビジネスのDIS、米イングラム・マイクロ、米デック・データの各経営指標は厳しい点で共通だ。総利益率はDISが8.3%であるが、米2社はいずれも6%以下(サブ6)である。

 当然これで営業損益黒字を確保するには低い販管費率が要求され、DISは7.6%、イングラム4.7%、テック・データ3.9%とサブ5である。この差の営業利益率はDISが0.7%、イングラム0.4%、テック・データ1.3%となる。米2社売上高はいずれも巨額で、イングラムは252億ドル(3兆224億円)、テック・データは172億ドル(2兆637億円)であるが、前年比ではイングラムが18.0%、テック・データが15.8%という大幅な減収となっている。

 この米2社に比べるとDISは健闘しているといえる。しかし、サブ6という低い総利益率での経営モデルは限界に近づいたと米2社トップは語っている。

 そのためそれぞれがIBM、マイクロソフトのような巨大メーカーと手を組み、ワイヤレス分野や中小企業ソリューションビジネスなどの新しい付加価値を模索している。

 DISも米2社と同じような視点からビジネスモデル変革を追求している。そのためDISは顧客の立場からのソリューションビジネスが重要であり、「顧客に選ばれるディストリビュータ」になることを課題としている。

■ジャストはネット事業売却、アクセスは世界展開

 ソフトベンダーとしてエンタープライズソフト中心のオラクル、わが国を代表するデスクトップソフトのジャストシステム、中小企業業務ソフトのオービックビジネスコンサルタント(OBC)、そしてnon-PCブラウザで世界市場を視野に入れるアクセス決算を分析してみよう(Figure33)。

 オラクルは売上高が前年比1.6%減となったため、営業利益も2.7%減となった。オラクルはデータベースなどソフトプロダクト売上高が16.0%減となる一方、サポートサービスなどサービス合計売上高は25.5%増と大きく伸びた。

 IT業界ではハードベンダーのみでなく、オラクル、マイクロソフトなどソフトベンダーもプロダクト中心からサービスへと軸足を移し始めている(Figure34)。

 ジャストは売上高が前年比13.0%減となり、営業損益でも前年に続き3億5300万円の赤字となった。同社ソフト事業売上高減少は6.3%であったが、JustNetを運営する子会社株式を売却したためネットワーク事業売上高がほぼ半減の46.8%減となった(Figure35)。

 しかしジャストは投資有価証券、関係会社株式売却などによって28億7300万円の特別利益を計上したため純損益は9億4600万円の黒字となった。

 OBCは売上高も前年比3.3%増となる一方、販管費も3.8%減少したため純利益も前年比9.0%増となった。OBC総利益率は好決算の米マイクロソフト、米IBMソフト部門と同様80%台を維持し、販管費率は40%台であるので、38.6%という高い営業利益率を確保している。

 わが国でもユニークなソフト会社アクセス売上高は前年比倍増近い95.2%増となった。同社は携帯電話などnon-PCのブラウザソフトでは世界一のシェアを誇る、いわゆるユビキタスコンピューティングの代表的ソフトベンダーである。

 同社セグメント情報によると、製品売上高前年比で移動体は162.1%増、固定・屋内は188.8%増という大きな伸びを示した。ロイヤリティ収入も同様に移動体、固定・屋内それぞれ101.4%、308.3%増という大きな伸びだ(Figure36)。

 同社は売上高、総利益ともに大きく伸びたが、販管費も60%近く膨らんだため、営業損益も5900万円と僅かな赤字を続ける。同社はNTTドコモのiモード世界展開とともに、同社ブラウザソフトのヨーロッパ、アジア、米国での市場拡大に向けて海外戦略を強化している。

 同社の標榜とするモバイルインターネットは今後世界的に広く普及するので、世界に通用する数少ない国内ソフトベンダーとして、アクセスの今後に期待したい。(中野英嗣)
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