1950年代からの企業ITはメインフレームによる集中処理から、パソコン、サーバー普及による分散処理へと変遷してきた。そして現在、この分散処理が再度グリッドコンピューティングを基盤とするユーティリティコンピューティングへの世代交代が始まったと考えるべきだろう。ユーザーのTCOを削減するソリューションが普及するだけではIT市場は自動的に縮小してしまう。市場を再び拡大するためには、グリッド上に展開されるウェブサービスをベースとする新しいeビジネスの普及を促進しなければならない。(中野英嗣)

見えてきた次世代ITの潮流

■企業情報システムの世代交代始まる

 世界的に経済が低迷し巨額となった企業IT投資がこのまま推移すると、利益を圧迫する要因になると企業経営者が懸念したのは当然である。このため企業はIT投資効果(ROI)を厳しく追求し、効果が事前に明確化できない新アプリケーション開発への投資は停止させられるようになった。

 とくに米国では、伝統企業までがネットバブルに躍ってeビジネスに大きな期待を抱き多額のIT投資を行ったが、バブル崩壊とともにその期待が裏切られたという経験もした。そのために、ROI追求はとくに厳しい。ROI追求とともにTCO削減も大きな課題となり、そのためのソリューションであるサーバー、ストレージのコンソリデーションは多くの企業が実行し始めた。これまで企業ITは集中処理から分散処理へと変化してきたが、この分散処理そのものがコンソリデーションによって再集中化というトレンドすらも見られた。

 しかし、実はこの変化する企業ITはその世代が分散処理からコンソリデーションを併用しつつ、ネットワーク・アウトソーシング(ネットソーシング)へと移行しつつあるのだ。企業ITは各企業がITインフラとアプリケーションを個々に導入し運用する時代から、ITサービス事業者の提供するITインフラを共用する方向へと向かっている。即ち企業ITは「所有する時代」から「利用する時代」への世代交代が始まっているのだ(Figure19)。

 インターネットを介してプロセッシングパワーを利用するネットソーシングは、電気、ガス、水道などの公共サービスと同じように、使用するITインフラの量と質による従量制料金のユーティリティコンピューティングという新しい時代に突入しつつある。

 さらに現在、このユーティリティ方式の基盤インフラとなるITは、グリッドコンピューティングという新しい時代に突入しつつある。ユーティリティ方式のインフラは、グリッドコンピューティングだと世界の業界、ユーザーが共通的に認識し始めた。

 グリッドとは電力配電網を指す「Grid」に由来する新しいコンピュータネットワークの概念だ。ネットに接続されたコンピュータそれぞれの余剰資源を利用し合うことで、膨大なコンピューティングパワーが得られる。これをユーティリティコンピューティングに利用する考え方は、ビジネス向けという意味で「ビジネスグリッド」と呼ばれる。ユーティリティ方式はアウトソーシングである。世界のアプリケーション処理のアウトソーシング市場は01年の111億ドル(1兆3000億円)から06年には2倍の218億ドル(2兆6000億円)へと拡大する(Figure20)。

 このアウトソーシング市場が徐々にユーティリティ方式へと変化すると考えられている。

■IBMが開始したユーティリティ・コンピューティング

 IBMのルイス・ガースナー前CEOは、「ITメーカーの真のeビジネスは商品のネットによる販売eコマース、ネットによる必要資材の調達eプロキュアメントでない。それはネットを介するコンピューティングパワーの供給である」と語っていた。

 このガースナー前CEOの唱えた新ビジネスが従量制料金のネットソーシング「IBM e-ビジネス・オンデマンド」だ(Figure21)。

 このサービスの大きな特徴は、プロセシング、ストレージなどのITインフラだけでなく、eコマース、eプロキュアメントなどeビジネスそのもののビジネスプロセスもIBMが提供することだ。これでユーザーはeビジネスを巨額IT初期投資なしで展開できる。このコンセプトに基づくユーティリティサービス第1弾をIBMは「Linuxバーチャルサービス」という名称で02年7月、米国で開始した。

 Linuxユーザーは、アプリケーションをIBMデータセンター内のLinuxメインフレーム上で処理できる。この時ユーザーはLinuxメインフレームの1ユニットと呼ばれるパーティションを月額300ドルでIBMから借りる。処理に5ユニット必要であれば、1500ドルが月額で請求される。これでIBMはユーザーのITコストは最低で20%、最大で55%削減できると説明する。IBMはこのサービスをわが国を含めて世界で宣伝し始めた。IBMは電灯を利用するような感覚でコンピューティングパワーが利用できると訴求する(Figure22)。

 そしてIBMは人類が発明した水道、電気、ガス、電話に次ぐ第5の公共サービスがユーティリティコンピューティングだと説明する。

■Linuxベースでグリッドコンピューティングへ

 ユーティリティ方式サービスを提供するデータセンターには当然巨大なコンピュータが必要となる。そのITインフラがグリッドコンピューティングだ。IBMはこのグリッド基盤を構築する基幹プラットフォームがオープンソースのLinuxだと説明し始めた(Figure23)。

 即ち、00年秋にIBMが自社サーバー共通OSとしてLinuxを採用した真の狙いは、グリッドコンピューティングへの準備であったことがはっきりした。現在米国では次世代eビジネスのウェブサービスは、グリッドコンピューティング上に展開されると認識されている。即ちグリッド基盤で供給されるユーティリティコンピューティングを利用することで、ウェブサービスが本格普及するという認識である。このため、ユーティリティ方式への移行準備が米国では活発化している(Figure24)。

 現在米大企業ではIT部門と各ビジネスユニット間のITコスト配布に、このユーティリティ方式の従量制料金を採用することが普及し始めた。この従量制料金を算出するビリングソフトも数多く販売されている。自社ITインフラのコンソリデーションは間違いなくTCOを大幅に削減する。そしてコンソリデーションからネットソーシングへ移ることは、IT市場におけるユーザー企業市場の縮小を示唆する。

 いずれにせよユーザー側TCO削減に効果あるソリューションだけで新アプリケーション利用をユーザーに普及させない限り、IT市場は縮小してしまう。ビジネス・グリッド・コンピューティングは世界のITサービス市場を拡大する。グリッド対応のクライアント、またこれに対応するシステム開発などが加速されれば、世界のIT市場も再び伸び始めると考えられている。