OVER VIEW

<OVER VIEW>構造的不況下、世界市場での米IT企業決算 Chapter6

2003/04/07 16:18

週刊BCN 2003年04月07日vol.985掲載

 パソコン市場の世界的な低迷でインテルの売上高は2001年から20%以上の落ち込みが続く。しかし、同社の営業利益率はIBMやデルなどのシステムベンダーと比べると極めて高い。インテルの大きな強みは技術開発力で、IBM、マイクロソフトに次ぐ巨額研究開発費を投入し続ける。一方、台湾、中国が世界ハイテク生産の中心拠点になったことで、同社の地域別売上構成にも大きな変化が起きている。インテルはパソコン、サーバー分野以外にも手を広げているが、これらセグメントはいずれも赤字で、これらの黒字化もインテルにとって今後の課題だ。(中野英嗣)

売上高、大幅落ち込み続くインテル

■半導体市場動向を反映するインテルの売上高

 02年、インテルの売上高は前年比0.8%の微増で、267億6400万ドルにとどまり、01年の大きな落ち込みからの回復は成されなかった(Figure31)。

 これにともない、純利益も31億1700万ドルでピークの00年比で30%程度である。これは世界的パソコン市場の低迷によるもので、このような環境下でも売上高を伸ばし続けるマイクロソフトとは対照的なインテルの決算である。

 世界のIT業界をパソコンが牽引し始めて以来長い間、マイクロソフトとインテルはともに好業績を続けたため、Wintel連合は世界パソコン市場のデファクトスタンダードを握ると同時に、両社決算はともに業界では突出して好調であった。

 インテルの売上高は不況に苦しむ世界半導体出荷と極めて類似したパターンとなっている(Figure32)。米国半導体工業会によると、世界半導体出荷金額は00年がピークで前年比37%増の2050億ドル(24.6兆円)であった。これが01年には32%と大きく落ち込み、1394億ドル(16.7兆円)となり、02年もほぼ横ばいの1407億ドル(16.9兆円)であった。

 半導体市場は携帯電話とパソコンに大きく依存しており、この両主役がともに低迷すれば、当然、半導体出荷は落ち込む。

■パソコン市場低迷でも巨額なインテル研究開発費

 インテルの業績がピークだった00年、売上総利益率は62.5%、売上高営業利益率は30.8%と極めて高かった。しかし、パソコン市場低下による売上高の大幅減にともなって、02年のインテル総利益率は49.8%、営業利益率は16.4%まで低下した(Figure33)。

 しかし、このようにインテルにとっては低迷する決算であるが、システムベンダーに比べればインテルの利益率は極めて高い。Wintel市場で独り勝ちするデルの直近決算の総利益率は17.9%、営業利益率8.0%である。

 また、エンタープライズ市場で強いIBMの総利益率は37.3%で、税引き前利益率が9.3%であり、この勝ち組2社の経営指標に比べても、インテルの利益率の高いことがわかる。

 インテルの経営指標で目立つのは、売上高比15%台の研究開発費率(R&D)である。R&D率はIBMが5.9%、HP5.4%、デル1.3%である。Wintel製品の比重が高いデルの同率が極めて低いのは、デル技術がWintel両社のR&Dに依存しているからである。02年の米有力ベンダーのR&DはIBM、マイクロソフト、インテルがいずれも40億ドル台、これに40億ドル弱のHPが続く(Figure38)。

 世界のパソコンベンダーの技術は、デルだけでなくWintel両社のR&Dに支えられているのだ。一方、インテルセグメントは、パソコン、IAサーバーのインテルアーキテクチャ、無線LAN「Wi―Fi」を中心とするインテルコミュニケーションズ、組み込み用プロセッサXScaleなど、ワイヤレスコミュニケーションズ&コンピューティングである。しかし、インテルアーキテクチャは全売上高の83%を占め、他のセグメントはすべて赤字である(Figure34)。

 インテルはパソコン、サーバー用の半導体部門以外のビジネス育成が中期的な課題である。とくに、出荷台数が4億台を超える世界携帯電話プロセッサやDSPでインテルは後発である。さらに世界半導体産業はナノプロセス技術争いの時代に入った。当プロセスでは単純な微細化による高性能、低コスト、高集積の3つの目標を同時に達成できなくなった。

 このためインテルは、微細化と高性能化を優先させる戦略を選択しつつある。このような戦略選択で世界半導体ベンダーの競合軸が大きく変化することも予想され、すべての半導体ベンダーがインテルの後追いではなくなる。

■台湾、中国が中心拠点になり、アジア太平洋が重要な市場へ

 インテルの地域別の売上構成は、01年中盤から大きく変化している。米国では売上比率40%台を長らく維持しており、欧州・アジア太平洋がそれぞれ20%台、日本が10%弱という構成であった。00年後半からアジア太平洋比率が大きく伸長し始め、同時に米国比率下落が始まったため、01年の第4四半期に両地域比率の逆転が起き、その格差は広がりつつある(Figure35)。

 これは台湾、中国がハイテク生産の中心拠点になったからである。中国でのパソコン、IAサーバーの本格普及はこれからであるので、インテル売上高がアジア太平洋地域に大きく依存する時代が到来することが予想される。

 しかし、中国は国策あるいは依然として低い国民所得(GDP÷人口)から、米国特定ベンダーのハイテク製品に強く依存する国策は避けなければならない。

 パソコンソフトでは、ウィンドウズを代替する「紅旗(Redflag)Linux」「紅旗Office」を開発した。プロセッサでも国産優先政策を確立するため中国政府は、03年1月に「国産CPU開発普及組織」を発足させた。中国政府は明確に「海外半導体ベンダーへの依存度を下げる狙い」を表明して、05年には中国製パソコンには「中国CPU」を使うことを表明した。

 インテルにとってはパソコン、IAサーバーの大市場と期待する中国で、これまでとは異質な競合に巻き込まれる公算も高い。インテルは02年にパソコン、サーバー関連だけでなく、Wi―Fiや組み込み用半導体の技術開発に注力している(Figure36)。とくにパソコン市場を制覇したインテルにとって、当面注力しなければならないのはブレード、ミッド、ハイエンドサーバー分野だ。

 インテルはIBMと共同開発したブレード技術をホワイトボックスビルダーに提供し始めた。また64ビットItanium2では、先行するIBM Powerシリーズ、サンSPARCとの競合も激化するが、インテルの技術的な優位性は高くない。

 従ってインテルは同社と太い絆をもつHP、NEC、デルなどの支援強化を打ち出すと想定する米アナリストは多い。

 パソコンサチュレーションで市場の大きな伸長が期待できない現在、インテルはサーバーやWi―Fiあるいは携帯電話でシェアを大きく伸ばせるかが、再度、インテルが高度成長するかのカギを握っているといえるだろう。
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