前回、パッケージソフト販売の企業には、いわゆる「研究開発のための研究開発費」のほかに、商品として開発しているマスターの開発費の一部も研究開発費となるものがあると説明した。会計基準の「研究開発費」と税法の「試験研究費」は、ほぼイコールなので、研究開発費も場合によっては、租税特別措置法の試験研究費減税の対象となり得る。  今回はこれを検討し、「どの範囲の費用が試験研究費であり、税額控除の対象となるのか」を考えてみよう。(日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(JPSA) 税務委員会委員長 税理士 根岸邦彦(監修))

 試験研究費は、もともと繰延資産に属している。具体的な定義は、法人税法施行令第14条(繰延資産の範囲)と法第2条第24号(繰延資産の意義)に次のように規定されている。

 「政令で定める費用は、法人が支出する費用(資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用を除く)のうち、新たな製品の製造又は新たな技術の発明に関わる試験研究のために特別に支出する費用」とある。これを受けて、試験研究費には、「特別の試験研究費」と「経常の試験研究費」があるとされている。

 今回の減税については、「損金の額に算入される試験研究費の額がある場合」という表現で、「特別に支出する」制限はない。したがって、経常的に行われる開発作業の中にも減税の対象となるものが含まれることになる。

 問題はその中身、つまり「試験研究費の範囲」なのである。租税特別措置法の第42条の4(試験研究費の額が増加した場合等の法人税額の特別控除)には、「試験研究費とは、製品の製造または技術の改良、考案もしくは発明に係わる試験研究のために要する費用で、政令で定めるものをいう」とある。

 そこで、「政令」をみてみる。租税特別措置法施行令の第27条の4(試験研究費の額が増加した場合等の法人税額の特別控除)には、「法第42条の4第3項第2号に規定する試験研究のために要する費用で政令が定めるものは次に掲げる費用とする」とある。

 (1)その試験研究を行うために要する原材料費、人件費(専門的知識をもって当該試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限る)および経費、(2)他の者に委託して試験研究を行う法人の当該試験研究のために当該委託を受けた者に対して支払う費用、がそれである。

 ここで企業会計から税務へと会計的な整理を行うと、「不整合」が起きていることが分かる。企業会計の費用範囲は、「研究開発等にかかわる会計基準」によって、「研究開発費には、人件費、原材料費、固定資産の減価償却費及び間接費の配賦額等、研究開発のために消費されたすべての原価が含まれる」とされている。

 これを上記の施行令27条の4と比較すると「人件費」に「専門的知識」と「専ら従事する」という制限文句がついているのが問題だ。素直に考えると「減税」が政策遂行目的のものである以上、減税対象となる人件費を、会計基準より狭くしたのだろうと納得してしまうかもしれない。

 事実、今回の改正以前の「増加試験研究費の税額控除」制度の場合には、製薬会社などでは研究所で発生する試験研究費の中から、一般事務員の給与などを控除して減税の適用を行っていたという。しかしながら、上場しているソフトウェア開発企業の場合には、すでにこの数年会計基準に準拠した原価計算を行って、ソフトウェアの資産計上と研究開発費の会計処理を行っている。

 この場合は、直接労務費、間接労務費において、「プログラマーではないから専門知識がない」とか、「管理職だから専ら開発に従事していない」というような区分で人件費の除外を行う慣習は当然ないのである。

 もし、会計基準と租税特別措置法の区分が異なるとすると、原価計算はおそろしく煩雑な作業となり、この曖昧さのおかげで減税の適用を断念する企業もたくさん出てくることが考えられる。これは「大型減税」の趣旨に反することである。

 そもそも上記の施行令の「人件費」はプログラマーだけとしても、間接労務費は租税特別措置法では「経費」に区分できる、という異論もある。外注で試験研究を行えば、全額が減税の対象となるのだから、整合性に問題があることはすぐにでもわかる。

 速やかにこの範囲が明らかとなる通達が公開されることを望みたい。