コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第44回 福井県

2003/09/22 20:29

週刊BCN 2003年09月22日vol.1007掲載

 福井県で自治体システムのオープン化の流れが加速している。福井県庁は1999年から主要基幹システムのオープン化に着手。翌00年には県内最大の広域事務組合がオープン化を決めた。県や市町村がオープン化するなかで、富士通系の共同企業体がシェアを拡大。県庁の財務会計システムをはじめ、県内35市町村のうち34市町村にシステムを提供する。一方、電子自治体関連では、福井市が興味深い住民基本台帳カード(住基カード)の使い方をしている。(安藤章司)

メインフレームから脱却し、オープン化の流れ加速 共同利用は全市町村参加の見込み

■複数の市町村で基幹システムを共同運用

 福井県では、もともとNECのメインフレームを使っていた。しかし、99年から税務システムをNTTデータに発注したのを手始めに、05年度から本稼働する財務会計システムを富士通に、04年度から一部稼働する予算編成システムをNECにそれぞれ発注した。また、土木積算システムについても、業者選定は終えていないものの、オープンシステムで作り直す予定だ。

 福井県の池田敏雄・総務部情報政策課IT推進室長は、「メインフレームは、給与処理などのバッチ処理や、プリンタへの大量出力などの作業に適している。主要な基幹システムがUNIXなどオープンシステムへ移行した後は、プリンタサーバーなどで引き続きメインフレームを活用する」と話す。

 県内市町村でも、オープン化の動きが活発化している。福井県には、県北部の「福井坂井地区広域市町村圏事務組合」と、同組合地域の南側に隣接する「福井県丹南広域組合」と、2つの大きな広域事務組合がある。

 複数の市町村で、住民基本台帳システム(住基システム)などの基幹システムを共同運用することで、経費を削減するのが事務組合の狙いだ。

 00年、これまでNECのメインフレームを使っていた「福井坂井地区広域市町村圏事務組合」がオープン化の方向を打ち出した。この入札に複数のシステムインテグレータが参加。最終的に富士通系の共同企業体が受注。UNIXを使ったオープンシステムへと移行した。

 富士通の二宮清文・福井支店長は、「福井坂井地区広域市町村圏事務組合の場合は、もともとは従来のメインフレームが老朽化したため、買い替えるという内容だった。商談が始まった00年以前の段階では、まだ政府のIT戦略や市町村合併などが今ほど活発ではなかったものの、オープン環境を提案した富士通系の共同企業体が受注することができた」と、当時からオープン化への強い要望があったことを打ち明ける。

 一方、「福井県丹南広域組合」は、もともと富士通の顧客であり、これら両組合に代表されるように、他にも富士通が納入している市町村を合わせると、県内35市町村のうち実に34市町村は富士通系のシステムを使っていることになるという。

 県や市町村のオープン化が進むのと同時に、市町村合併の作業も進む。現在、県内では法定合併協議会が6つ、任意合併協議会が1つと、合計で7つの組織が協議を進めている。なかでも、福井県最大の街で、人口約25万人を擁する福井市は、05年2月をめどに周辺5市町村と合併して、人口約33万人の街になる。福井県全体の人口が約82万人であることを考えれば、全体の約40%を占める大きさだ。

 電子自治体を実現するために欠かせない電子申請システムは、この新生・福井市(名称未定)の動向が、非常に重要である。

■住基カードの多目的利用にも取り組む

 福井県では今年度末までに、県内すべての市町村を総合行政ネットワーク(LGWAN)に接続し、05年度までに電子申請システムを稼働させる計画を立てる。県では、総務省の方針に従い、県内35市町村で共通した電子申請システムを導入する。

 今年5月から県内市町村と話し合いを進め、市町村の理解を取り付けられるよう努力している。福井県では、市町村での共同利用方式による電子申請システムの開発費は約1億5000万円、年間維持費が1億円程度かかると試算する。これを全額すべて市町村に負担させるのではなく、県がある程度負担し、残りを35市町村で分担する方向で話し合いが進んでいるという。

 福井市の金井隆幸・企画政策部情報システム室主任は、「合併後、約33万人の人口を擁する新生・福井市が、共同利用型の電子申請システムから抜けてしまうと、県全体の電子申請システムが予算的に成り立たなくなってしまう恐れがある。電子申請システムは独自で設計することは考えていない」と、共同利用に参加する方向で準備を進めている。

 福井市では、04年4月から文書管理システムを稼働させる。このシステムは新生・福井市の人口約33万人分の文書を処理できる能力をもち、県内のシステムインテグレータ、江守商事に約3000万円で発注したという。5市町村が合併する際、それぞれ離れた庁舎との間で、広域的に文書を共有する必要性が発生するからだ。また、電子入札システムは、「横須賀方式」を採用し、同じく04年4月から稼働させる。

 また、福井市では今年8月に交付が始まった住民基本台帳カード(住基カード)の多目的利用で、興味深い取り組みをしている。

 まず手始めとして、市内図書館で使う図書カードの機能を住基カードに取り入れた。だが、図書カードを管理する情報システムは、バーコードカードのみに対応しており、ICカードには対応していない。このため、住基カードに図書館のバーコードシールを貼り付けて、04年1月から図書館でも使えるようにする。本当の意味でのICカードの利用にはならないかもしれないが、今後、図書館情報システムの刷新時のタイミングに合わせて、ICカードにも対応できるようにする。

 市では図書館のほかに、定期駐車券、トレーニングメンバーズカード、体育館利用券、保険センターで使う「あじさいカード」など、多くのカードを発行している。将来的には、これらのカードをICカードで一本化することも視野に入れている。

 NECの真田泰広・福井支店長は、「市町村合併だけがIT投資ではない。合併により医療情報のIT化や、広域消防に不可欠なIT投資であったりと、さまざまな需要が見込まれる」と、営業対象を限定せず、幅広く受注していくと意欲を示す。


◆地場システム販社の自治体戦略

福井システムズ、江守商事

■地域密着の強みを生かす

 福井システムズでは、昨年度(2003年3月期)の売上高約27億円のうち、約9割を自治体向けが占める。このうち県内と県外の比率は約7対3と、県内が多い。同社では、自治体向けの自社製基幹システムパッケージを大幅に刷新することで、県外の自治体での採用率を高める方針。白崎俊雄・取締役営業部長は、「将来的には県内外の比率を半々にする」と語る。

 同社オリジナルの自治体向けパッケージは「ナイス21」。これまでのウィンドウズや富士通のメインフレーム対応版を、すべてJavaに書き換え、リナックス上で稼働できるようにする。今後3年間で約3億円を投じて作り替える。福井システムズは、富士通のビジネスパートナー。

 一方、日立製作所と日本アイ・ビー・エム(日本IBM)のビジネスパートナーである江守商事は、情報サービスの売上高のうち2割強を自治体など公共系が占める。日立や日本IBMが江守商事に対する期待は、「北陸3県で両ベンダーのシェアを高めること」に尽きる。

 だが、宇野勝治・取締役情報事業担当は、「日立と日本IBMのブランドを捨てるわけでは決してないが、マルチベンダー化が進むなか、特に公共分野では地場のシステムインテグレータと組んで提案した方が有利」と、ベンダー色が前面に出ないよう注意を払う。

 コスト削減にも力を入れる。「東京と福井では、かかるコストに差がある。大手ベンダーのコストを100とすれば、当社は70のコストで同様の仕事を遂行する」と、地域密着の強みを生かしながら、生産性の向上に力を入れる。
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