コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第59回 群馬県

2004/01/12 20:29

週刊BCN 2004年01月12日vol.1022掲載

 群馬県は、全国的に見れば特にIT化が遅れているというわけではないが、東京都を中心とした関東圏でみると「遅れているのが実情だ」(嶋一哉・群馬県総務部情報政策課長)と担当者も認めている。この遅れを挽回するために、県と市町村は電子自治体を早急に実現しようと必死になっている。今年度はまだ開発中のシステム案件が多いものの、IT化が先行している他の都道府県を見習い、群馬県なりの電子自治体構築に力を入れている。また、群馬県でも汎用受付システムの共同利用を計画しており、今のところ全市町村が参加する予定になっている。(佐相彰彦)

IT化の“遅れ”挽回に注力 県・市町村ともに積極化 汎用受付システムの共同利用を計画

■2002年度、電子県庁推進打ち出す

 群馬県が2002年度にスタートした事業は、汎用受付システムの共同アウトソーシング。05年度の運用開始に向け、調査からスタート。基本設計を03年10月末に完了した。電子化する手続き業務は、県対象のもので113項目、1年間の申請件数の71%をカバーすることになる。市町村対象の手続きについては117項目を電子化する予定で、1年間の申請件数カバー率は77%。申請件数ベースで一挙に8割近くが電子化される。

 システム構築にかかる費用は8億3390万円。1年間の運用費は2億2888万円の予定。利用料は、9割の手続きが各市町村の人口割、1割が均等割となる。

 群馬県は、地元の有力企業であるジーシーシー(GCC)に基幹系システムをはじめ、さまざまな情報システムをアウトソーシングしている。嶋情報政策課長は、「アウトソーシングのメリットは熟知している。共同運用により、少ないコストで住民サービスを向上できる」と期待する。そして、「現段階で市町村が抱えている問題は合併だ。しかし、合併後に電子自治体を早急に実現できるというメリットがあることや、住民や地元企業との関係を新しく構築できるという意味では共同化が最適であることを説いた」ことで、全市町村が共同利用に参加する道筋をつけた。

 電子県庁の推進計画を打ち出したのは02年度から。まず01年3月に地域情報化を目指した「ぐんまネットプラン」を策定。これをベースに本格的な自治体IT化に乗り出した。電子県庁構築では、05年度までに、申請・届出や文書事務などの業務が電子化される予定。

 関東圏で一番“遅れている”という群馬県の情報化だが、「ぐんまネットプラン」に盛り込まれた計画では、今年度は開発中のシステムが多い。ブロードバンドのインフラ整備に関しては、NTTなど民間企業が進めているため、県主導では進まないもどかしさもある。県内に、ADSLや光ファイバーなどブロードバンドネットワークを活用できない地域も残っている。

 嶋情報政策課長によれば、「IT化に関しては、誘いがないという理由から、他県との連携を考えたことなどなかった」とか。しかし、今では05年度までに電子県庁を構築するという計画から、東京都などIT化で先行している自治体の手法を研究、分析している。それらを参考に「群馬県にあったシステムを導入していく。OSについても、Linuxなどオープンソースソフトウェアの情報を収集し、採用することも検討中」とキャッチアップに全力を注いでいる。

 加えて、フロントオフィスシステムの発注については、「地元企業を採用していきたい」と、県の産業活性化にもつなげていく方針だ。

■IT化で市民にメリットを提供

 前橋市は、将来的に市民サービスの向上を目的に住民基本台帳カードを活用することを計画している。このために、総務省の実証プロジェクトとして実証用ICカードを使って、アプリケーション追加可能な標準システムの評価を昨年2月28日と3月1日の2日間実施した。標準システムは、証明書自動交付、申請書自動作成、施設予約、成人保健の4システム。

 実験には市民が参加。実験の内容は、参加者に機械の前で実際の操作手順などを確認しながら操作してもらい、その評価をアンケート方式で集めた。

 実証実験の結果について、福田清和・前橋市総務部情報管理課長補佐(兼)情報政策係長は、「アンケートでは、便利という声が圧倒的に多かった」という。しかも、「パソコン操作に慣れていない市民も使える、デジタルデバイドを解消した端末が重要だという声もあった」と話す。「電子自治体の実現には、市民を第一に考えたシステムを」と、改めて実感したという。

 前橋市では、情報化推進計画として、「まえばし情報しんふぉにいプラン」を策定している。「住民ニーズにかなったサービスの提供」、「ITを活用した市民の積極的な行政への参加・協働」、「地域活力の醸成による、にぎわいのある地域社会の構築」、「行政事務プロセス改革による戦略的行政経営の実現」の4項目を基本方針とし、地域情報化と電子市役所の構築を一体的に推進することを目指す。

 福田課長補佐は、「デジタルデバイド解消のため、タッチパネルでインターネットに接続できる端末の公共施設への設置を進めている」という。

 IT化を進めていく上で、高い障壁になっているのが市町村合併問題だ。前橋市でも、大胡町、宮城村、粕川村の1町2村と今年12月をめどに合併することを決定した。システムに関しては、「合併後にできるだけ早い段階で構築したい」意向で、前橋市のシステムに1町2村のシステムを統合することになりそうだ。

 また、県が進めている汎用受付システムの共同利用に関して、福田課長補佐は、「システム化を加速させる取り組み」と評価。「全市町村の参加がコスト削減につながるメリットも理解している」と、採用には前向きだ。

 また、福田課長補佐は、「最近では、群馬県の産業の中心が高崎市に移行している」という現実から、「前橋市に住むメリットをアピールするためにも、IT化を早急に進めることが重要」と強調。電子自治体の早期実現のために、「企業や大学などの力が必要になる」と、産官学で連携することも検討するとしている。


◆地場システム販社の自治体戦略

ジーシーシー

■共同利用の受注を目指す

 ジーシーシー(GCC、松平緑社長)は、売上高のほぼ100%を自治体関連ビジネスが占めている。同社は、群馬県が進めている汎用受付システムの基本設計をNTT東日本、NECと共同で受注した。木暮哲哉・営業部企画担当係長は、「実際のシステム構築や運用についても確実に受注する」と自信をみせる。

 群馬県にIDC(インターネットデータセンター)をもつ企業は、GCCとNTT東日本、富士通の3社。長年、県庁の基幹系システムをアウトソーシングで請け負って来た実績、地元企業を積極的に採用するという県の意向から、GCCが受注する可能性が高いといわれている。

 群馬県内での基幹系システムの導入実績は、69市町村のうち44市町村。60%以上の圧倒的なシェアを誇る。

 2003年度(03年12月期)は、売上高が前年度比2.5%減の77億円と落ち込む見通し。町田敦・営業部次長は、「群馬県では、市町村の半分以上が合併問題を抱えている」ため、合併を控えて新規のIT投資を控えたことが影響したという。

 最近ではフロントオフィスシステムのパッケージ化で、利益率の向上に力を注いでいる。木暮係長は、「さまざまなニーズに応えるため、ラインアップを充実させる」予定で、それにより市町村合併の中でシェアを確保していく考えだ。

 また、自治体関連ビジネスで群馬県以外にも進出していく計画。特に「東北地域を開拓していきたい」としており、地元のシステムインテグレータとの協業を目論んでいる。
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