視点

これからのIT人材育成

2004/01/12 16:41

週刊BCN 2004年01月12日vol.1022掲載

 IT(情報技術)分野の技術者が不足しているという声が各界から聞こえてくる。その対策として、例えば、総務省はIT技術者が全体で42万人、セキュリティ技術者は12万人不足していると試算し、資格制度などをつくってIT技術者の育成に取り組んでいる。また、経済産業省は11職種からなる「ITスキル標準」を2002年12月に策定し、ITのスペシャリスト育成を推進している。

 これらの取り組みはいずれも社会人を対象にした人材育成であるが、社会人の再教育という枠組みだけではIT人材の不足を解消する抜本的な解決策にはならないであろう。その多くは大学に期待したいところである。ところが、文部科学省の調査によると、2001年度におけるIT系大学院修士の卒業生は約1万5000人である。これでは比較的レベルの高いIT人材も足りないのは当然であり、大学はその役割を十分に果たしていない。

 「情報化白書2003」によると、企業1500社の情報システム部門に対するアンケート結果では、ITのどの分野でも7割以上の企業が技術者不足であると回答している。なかでも特に不足しているのはITコンサルティング、業務分析、プロジェクト管理、システム監査などができる高度なIT技術者だそうだ。高度なIT人材にはITに関する専門的な知識のほかに、幅広い見識、豊かな教養、高いコミュニケーション能力などの総合力が要求される。また、情報システムは人が使うものであるから、使いやすい情報システムを構築するには人間をよく理解している必要がある。

 これまでの大学のIT系学部や大学院は、高度なIT人材の育成という意識が希薄であったように思える。教養教育の軽視、複数の専門分野が専攻できない、人間についてはほとんど教えていない、文系と理系の壁がある、という事実がそのことを示している。米国の大学ではとっくにこのような課題は解決している。例えば、著名なほとんどの大学のコンピュータサイエンス分野では、人間を理解するための心理学に関する講義が多い。ソフトウェアの開発は中国やインドなどの追い上げが激しく、今後は大きな脅威になってくるであろう。だが、業務分析やシステム監査のようなきわめて高度な領域はそれほど簡単に追いつけるものではない。日本は国際競争力をつけるためにも、これからは高度なIT人材の育成にもっと力を入れるべきである。
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