WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第188回 次世代のユーティリティ市場

2004/02/02 16:04

週刊BCN 2004年02月02日vol.1025掲載

 04年に入ると米国IT業界では、サン、IBM、ヒューレット・パッカード(HP)のエンタープライズプレーヤーがこぞって、05年以降に本格的に利用が立ち上がると期待される、ユーティリティコンピューティングに向けた製品・サービスの拡大に動き出した。ネットを介して企業が必要な時に必要なだけコンピューティングパワーを従量制料金で使えるユーティリティサービスは、IT経費削減に大きな効果があることが、次第にはっきりしてきた。このため当初は2010年頃に立ち上がると予想されていたユーティリティ時代が3-4年前倒しされそうな状況にある。

必要な時に必要なだけ

 サンはユーティリティの基盤となるグリッドコンピューティング用「Grid Engine」と同社「N1」ソフトの統合に着手した。サンN1担当、デービット・ネルソン-ギャル副社長は語る。「サンは04年にユーティリティ技術を具現化するため自社N1技術の強化に注力する。まず、顧客のIT資産の有効活用で社内にグリッドを構成し、その上で次のユーティリティサービスに順次移行できるロードマップを描き上げる」

 IBMも早くからユーティリティ時代到来を予告していた。同社技術戦略担当、アービング・ラダウスキーバーガー副社長は、「当社顧客では既に10社近くが、IBMユーティリティサービスを利用し始めている」と前置きして次のようにいう。「まずユーティリティ時代に向うため顧客は現行ITの管理を人手から解放し、自動化する方向へ動き出さなければならない。ユーティリティはグリッドが基盤となるので、社内にグリッド利用技術を高めることが重要となる。その出発点は、システム管理の自動化であり、これにはIBM発信のオートノミック(自律型)コンピューティングを十分使いこなすことが大切だ」

 ユーティリティ利用を究極のITサービスと位置づけるIBMでは、自己治癒力と自己管理機能をもつオートノミックが重要な技術基盤となっている。IBMはDB2など基幹ミドルウェアにもオートノミック機能搭載の開発を推進している。

 HPは同社コンセプト「アダプティブエンタープライズ」によるユーティリティサービス具体化に力を注ぐ。同社ユーティリティ担当、ニック・バンデルズウィーク氏は、「これまでHPが大学・研究所で実績を積み上げてきたハイパフォーマンスコンピューティング技術を商用に転用することで、業界でいち早くユーティリティサービスの基盤グリッド構築が完成する。同時に大学向け技術、特に大型のクラスターサーバーをエンタープライズに納入し始め、顧客のユーティリティ時代への備えを強化している」と語る。

 メリル・リンチのアナリスト、スティーブ・ミルノビッチ氏は次のように解説する。「ユーティリティへの準備を先行することが、現在世界エンタープライズ市場でのプレゼンスを高める最も有効な戦略といえるだろう。04年は世界中でこの準備の開発競争が激しくなり、ここでの出遅れは次世代IT市場での致命傷になる」(中野英嗣●文)

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