変貌する大手メーカーの販売・流通網

<変貌する大手メーカーの販売・流通網>第5回 日立製作所 「選択と集中」で巻き返し狙う

2004/03/01 20:42

週刊BCN 2004年03月01日vol.1029掲載

 グループ全体の「事業の選択と集中」を急速に進める日立製作所は、パソコンやサーバーなどの販売網で大幅な再編を断行している。企業向けでは、チャネル販売の核になるグループ会社で高付加価値事業へのシフトが進む。また、グループ内のノウハウや営業方法を集約して共有化した統一のソリューションビジネスを展開し、一体的な戦略のもと、システム構築の低価格化やスピードアップなどのニーズに備える作業も活発化している。従来、日立グループが強みとしてきた大企業向けに加え、最近では中堅・中小企業へ拡大し、今後開拓が進む市場もターゲットにしている。(谷畑良胤●取材/文)

中堅・中小市場を視野に

■チャネル販売と直販が併存

 日立製作所は、2002年度(03年3月期)までの中期経営計画「i.e. HITACHIプラン」で、高収益企業への変革を目指してきた。03年度(04年3月期)からは新たに、「i.e. HITACHIプランII」がスタート。「委員会等設置会社」に移行して、日立製作所とグループ会社の取締役の相互乗り入れを図り、グループを一体化した経営を強化している。このため、事業ポートフォリオの再構築やグループ内の合併、グループ会社の自主独創経営を尊重した新たな連結経営の確立が進められている。

 同社の企業向けパソコン「フローラ」シリーズ、IAサーバー「HA8000」シリーズなどのチャネル販売は、基本的に年商500億円以下の中堅・中小企業を中心に展開。これらチャネル販売は、グループの「販売会社」約30社、日立製品専売の「特約店」約130社、大手ディストリビュータやシステムインテグレータなど独立系の「ビジネス販売パートナー」約160社の3ルートを使って行われている。ちなみに大企業向けは直販が主体になっており、年商500億円を超える企業に対しては、パソコンやサーバーの上位機種の直販をメインにしている。

 このうち販売会社は、情報・通信系とシステムインテグレータ系の会社が中心。「マネジメント連結会社」と呼ばれ、グループ内で一体的な戦略立案・事業運営を行う会社と位置づけられている。独自色の濃い会社が目立つが、最近は、合併や事業統合などによる「選択と集中」が進む。「年商20-500億円規模の企業向け販売は、日立製作所として十分に開拓できず、深掘りできなかったマーケット。だが、今後は各社のノウハウを共有化して、新規ターゲットを開拓する」(田中忠文・ビジネス企画本部パートナー企画部長)と、一体的に中堅・中小市場へ本格的に乗り込む考えだ。

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■地域マーケット向けに事業部門を再編

 今年4月1日付で、インターネットデータセンター(IDC)の運用やセキュリティに強みを持つ日立ネットビジネスを吸収合併する新生の日立情報システムズが、アウトソーシング事業を強化。このため人材・技術を集約化して中小企業に特化した戦略を開始する。また、日立ソフトウェアエンジニアリングは、昨年度(03年3月期)から「高付加価値事業への転換」を掲げ、中小企業向けERP(統合基幹業務システム)などへ戦力の集約化を進めている。

 本社直轄の事業所も再編が進み、昨年12月には、東北地区のシステムエンジニアリング会社である日立東日本ソリューションズに、日立本体の産業・流通営業部門を集約。地域マーケットに対応したスピーディな提供を目指す事業体制を構築。同時期には、四国と中国地方でも同様の再編が行われた。

 販売会社にはこのほか、販売・生産・会計・就業管理システムを持つ日立エイチ・ビー・エム、金融・流通・公共系の各種システムサービスが得意の日立システムアンドサービス、ネットワークインフラやユビキタス関連のサービスで業績を伸ばす日立インフォメーションテクノロジーなどがある。また、特約店としてもシステムインテグレータの神田通信機や電通工業、ニッセイコムなどがある。これら販売会社や特約店は2次店を組織しており、その数が全国で1000社を超える。

 販売会社に関しては現在、グループ内の「事業の選択と集中」の方針に沿って、各社が独自に持つプロダクトを共通化し、グループ全体で横展開する動きを活発化させている。田中部長は、「販売会社の個別システムインテグレーションを除き、業務ソフトウェアのプロダクトを中心に整理し、システム構築の低コスト化に対応する」と、企業向けソフトなどを業種、業態、規模などに応じたデータベース化を拡充している。

 3年前には、日立本社のパートナー営業統括本部内に「ソリューション相談室」が設けられ、チャネル販売をするパートナーの要望に応じ、グループ内外の業務ソフトやハード製品を組み合わせた最適なソリューションを提供し、支援している。昨年6月からは、IAサーバー「HA8000」シリーズ本体とUPS(無停電電源装置)やバックアップソフトなどを安価にセットした「HA8000バリューパック」を商品化、中堅・中小企業向け販売の“突破口”を開く商材としてパートナーに提供している。「今後は、パートナーから引き合いの多い内容を選別し、グループ内で共通利用できるソリューションやパッケージなどのメニューを強化する」(田中部長)と、急速に商材の拡充を進める方針だ。

■コンシューマ向けは一括して流通

 コンシューマ向けパソコン「プリウス」シリーズと周辺機器の量販店向けは、日立ホームアンドライフソリューションの傘下にあった販売会社9社、システム会社6社、サービス会社8社を統合して昨年4月に設立された日立コンシューマ・マーケティングが一括して流通させている。鳴川亨・販売推進本部企画部長は、「地域密着型で全国に迅速な営業・サービス網を構築した。これで、製造・販売が一体化したオペレーションが完成した」と、AV(音響・映像)機器と同様の流通網でパソコンの量販店向け販売を強化する。

 ここ1年でグループ全体の販売網は大幅に再編され、ライバル追撃の体制は整った。グループ内では、ユビキタスと情報・通信機器を融合させた製品と販売の新展開も検討中で、流通網の拡充とともに製品バリエーションの拡大も進み、情報・家電分野での激しい競争のなかで生き残りを賭ける。
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