コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第69回 東京都(中)

2004/03/22 20:29

週刊BCN 2004年03月22日vol.1032掲載

 全国の自治体が電子行政のスムーズな実現のために、県と市町村との間で電子申請などの共同構築・運用に乗り出している。東京都でも2002年5月に、システム共同化のために「都区市町村電子自治体共同運営協議会準備会」を設置。03年1月までに6回の会合を行い、同年2月には「準備会」の取れた正式な協議会として発足した。東京都の場合、区市町村との共同運営方式で「電子申請」と「電子調達」を稼動させることを決めており、3月11日に共同運営事業に対する提案募集を締め切った。近く参加業者が正式に決定する。(川井直樹)

共同運営方式で電子申請・調達稼働へ スムーズな市区町村の連携

■51団体が参加を決定

 「東京都の場合、政令指定都市がないため都内の区市町村との連携がスムーズに進んできた」と、田口裕之・総務局IT推進室電子自治体連携担当課長。神奈川県の共同化が横浜市や川崎市の政令指定都市2市に加えて、IT化で独自路線を歩む横須賀市の3市が参加しないことで、全県を網羅できないことに比べたら、協議会準備会の段階から順調に検討が進んだ。

 「都を含めて各自治体にとっては、電子化で業務効率をアップさせるとともに、共同化により電子自治体構築のコストを削減できるのがメリット」(田口課長)と、財政難のなかで電子化を進めるための処方箋が“共同化”だという。

 東京都を中心として進められてきた電子自治体共同運営計画だが、総務省が打ち出した電子自治体の広域化にも対応、調査費や実証プロジェクトで補助金も受けることになっている。この結果、「補助金事業と本番のシステム構築が並行して進むことになった」というのは、都を中心とした共同化構想が順調に進んできた証拠だろう。

 協議会は49自治体が参加してスタートしたが、現在は51団体が電子申請と電子調達の両方あるいはどちらか一方に参加することを決めている。このうち、電子申請と電子調達の両方を活用するのは46自治体だ。

 東京都自身は、電子調達システムをすでに構築しているため電子申請だけの利用となる。そのほかにも、江戸川区や国立市も電子調達システムをすでに活用しており、電子申請だけの利用になる。現在、協議会に参加していないのは多摩地域の3団体、島しょ部の9団体となっている。多摩地域や島しょ部の場合、過疎という問題を抱えており、利用者が狭い範囲に集中していることから、あえて広域化のメリットは少ないといえる。

 協議会に参加しているものの、電子申請についても電子調達についても利用を決定していない自治体もある。文京区がそれだ。

 「どちらのシステムも、自治体の業務効率改善や住民サービスの向上に役立つことが目的。そのメリットを判断できない自治体では、採用を見送るケースも出てくるだろう」と、田口課長は当初から予想していた。共同化といっても利用するには相応の負担が必要で、そのコストと業務効率改善や住民サービスの向上を天秤にかけて、「メリットなし」という判断も出てくる。文京区の場合がまさにそれにあたる。

■05年4月から入札情報提供と電子入札を開始

 BCNの電話取材に対して、文京区の企画政策部情報政策課は、「財政難のなかでメリットがあるかないかを判断して、04年度は見送ることにした」と、共同化についてはさしあたってメリットを見出せなかったという。

 文京区は今年2月に、04年度から06年度まで3か年の情報化計画を「文京区第2次電子自治体推進プラン」としてまとめた。そのなかでも電子申請・届出への対応として、「都及び都内区市町村の自治体が、共同運営による電子申請を05年1月から実施する予定だが、区民サービス等の観点から導入効果が明確でなかったため、本区はこの共同運営に04年度は参加しない」と明記し、外部に対して説明している。

 「協議会に参加している自治体ならば、導入しようと決定した時点で参加することが可能になる」(田口課長)としており、途中参加も可能と門戸を広げている。さらに、「他府県でも、東京都などが作る電子申請システムなどの基盤を利用したいというところがあれば、前向きに検討する」と、東京都だけで構築・運営というように排他的なシステムにはしないという。

 基本的に近く業者を決定し、その業者がIDCを使ってLGWAN(総合行政ネットワーク)ASPとして運用する。コンペに参加している企業名は明らかにしていないが、関係者によれば、「1社ではなく複数社でコンソーシアムを作っており、2グループが提案している」という。

 04年度から直ちに開発に着手し、05年1月から電子申請を実用化。電子調達については04年12月に業者登録を開始し、05年4月から入札情報提供サービスと電子入札システムの稼動を開始する。

 共同システムの利用料については、詳細は決定していない。ただ、東京都がシステム費用の半分を負担し、半分は利用する自治体が人口比で負担する。ただし、それらの契約については、「自治体それぞれが事業を行う業者と個別に契約することになる」(田口課長)。つまり、都庁がコンペ形式で選定した業者と決まっている負担額で、各自治体が随意契約を結ぶことになるわけだ。

 ちなみに、他府県の自治体がこのシステムの参加を希望した場合は、それぞれ業者と自治体との交渉になる。「都庁が潤うわけではないが、広く使われれば費用負担が少なくなるメリットも出てくるかもしれない」(同)とみる。

 東京都のケースもそうだが、こうした契約の煩雑さが共同化にはつきまとう。田口課長によれば、「協議会は任意団体であり、そもそも主契約者になる資格がない」という。事業の概要を決定しても契約する資格がないために、いちいち個別契約となる。業者の負担も小さくはない。

 自治体数が少ない東京都ならばまだ可能だが、212市町村を抱える北海道ではそうもいかない。そのため北海道では、道が資本の半分を出資し、残りを民間企業が負担する形で、電子自治体共通基盤の運営会社を6月に設立することを決めた。北海道から見れば、「道内の自治体IT化を進めるために、メインの事業者となる運営会社をつくる方が得策」で、地元IT関連企業へのビジネス発注を含め、道経済にプラスになることを狙った。

 東京都から見れば、都内にIDCの用件を満たした施設は豊富にあり、大手ITベンダーの本社もほとんどが東京にある。1200万人の人口を抱える東京都だけに、ビジネスの規模も大きい。あえて運営会社をつくらなくても、民間を利用することで電子自治体化は容易に進む。

 東京都の電子化は、当初は「3300万電子都市-東京から日本の再生を-」と千葉県、埼玉県、神奈川県など“首都圏”で協力して電子化を図ろうという壮大な計画で始まった。環境対策では協力が緊密だが、残念ながら電子化での共同化は難しそう。共通基盤の利用に門戸を開くことは、少しでも「3300万電子都市」につなげる含みもありそうだ。
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