コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第71回 総集編(1)

2004/04/05 16:04

週刊BCN 2004年04月05日vol.1034掲載

 BCNでは、「コンピュータ流通の光と影 PART VIII・最先端IT国家への布石」として2003年11月から全国47都道府県を歩き、地方自治体のIT化の進捗状況をつぶさに取材してきた。取材開始から約1年半。それぞれのIT戦略に沿って電子化が進んだ自治体もあれば、財政難から一部計画の延期を余儀なくされた自治体もある。この1年半を再検証するために、われわれが最初に取材をスタートした岡山県に戻ってみた。(川井直樹)

自治体で構築進むブロードバンドネットワーク ネットリテラシー向上が電子自治体普及のカギ

■岡山県、「岡山IT戦略プログラムee」策定

 岡山県は、02年6月に新見市の市長および市議会議員選挙で国内初の電子投票を実施したのをはじめとして、電子自治体構築では常にトップグループを走っている。

 昨年には岡山市を対象に、5ギガヘルツ帯の無線LANを活用してネットワーク構築を図る「IT特区構想」が認定されるなど、県内全域でIT化が進められている。岡山県の情報化政策も「岡山IT戦略プログラム」から、「岡山IT戦略プログラムee」へと移行。「ee」は「evolution edition=進化・発展版」を意味している。

 社会経済生産性本部は3月26日、岡山市のCONVEX岡山で、「情報化シンポジウム・イン・岡山」を開催した。そのなかで、石井正弘・岡山県知事は、「市町村と一体となってIT化を進めていく方針に変わりはない。県内全域で同じ行政サービスを受けられるようにならなければならない」と、岡山県がIT化を急ぐ理由を説明。そして3月末には、パスポート申請の電子化も全国に先駆けてスタートした。

 岡山県が市町村とともにIT化を進める背景には、自設の高速ネットワークがある。県内に伝送速度155M-622Mbpsのネットワーク基幹網を設置。これに合わせて市町村への支線網を自治体負担で構築し、02年度末に全市町村への接続を完了した。この「岡山情報ハイウェイ」は当初、県内13か所のアクセスポイントにATM(非同期転送モード)交換機を設置し活用してきた。さらに高度な情報ネットワークを構築するために、13か所のアクセスポイントをギガスイッチに置き換え、伝送速度を1G-10Gbpsに高め、全県をIPv6を使ったネットワークでカバーした。

 新免國夫・岡山県企画振興部次長・IT戦略推進室長は、早期にネットワーク整備を実行できたことで、「岡山県内のブロードバンド回線加入可能世帯は92.8%になった。3年以内に100%になる」と、電子申請・届出など県民に対する行政サービス向上の基本となるネットワーク構築での岡山県の先進性に自信を見せる。

■コスト抑制と利用率向上がポイント

 各都道府県の取材を通じて、この地域ネットワークの構築を大きな課題とする自治体は多かった。

 自設のネットワーク構築を「岡山方式」とするなら、同じ中国地方の島根県では、NTT西日本からの借り上げ回線で県内をくまなくネットワーク化した。町長の公約により、04年度から06年度事業で独自に光ファイバー網を構築する予定の島根町を除いて、全ての市町村で光ファイバー、ADSL、CATVといった回線網によるブロードバンド接続を可能にした。世帯カバー率でも04年3月の段階で99%となっている。

 島根県の情報政策課の担当者は、「通信事業者の回線を活用することは民活にもなる。しかも何より情報ネットワークにかかるコストを抑えることができる」点を強調しており、「島根県が全面的に借り上げ回線でネットワークを構築したことで、他府県の情報政策担当者からの問い合わせが相次いだ」としていた。

 それだけ、財政難のなかで情報ネットワーク構築は進めなければならず、なるべくコストを抑えたいという要求が強かったのだろう。他の県でも、「県で技術革新の速い通信網の保守や管理をする職員を確保しておくのは不可能。民間に委託する方が、最新技術への移行がスムーズ」とし、通信事業者の回線借り上げを支持する。

 こうした意見がある一方で、自治体による自設方式は、行政ネットワークを民間に貸し出すなど、地域産業の振興にも役立つ、といった面があるという。ブロードバンドネットワークを構築しても、行政でフルに活用するわけではない。地元産業や住民に開放することで、県全体でのインターネットリテラシーを向上することができ、行政サービスの電子化も容易になる、という意見もあり、実際に岡山県などは自設方式でIT化を進めてきたわけだ。

 しかし、いずれの政策も実現できなかった県もある。

 奈良県は県土の3分の2が山岳地帯。加えて人口も少ない。電子自治体を構築するためには全県をカバーしなければならないが、過疎地域にまでADSLなどのサービスは提供されていない。そこで奈良県はやむを得ず、第3セクター方式でCATVネットワークを設置。「赤字覚悟」で、地域情報網構築に乗り出している。

 電子政府構築の基本となるのが、ブロードバンドネットワークの完備と、それを地域住民、企業が活用することだ。

 全国各自治体でネットワーク構築が進んだが、インターネット普及率となると02年末の段階で人口の54.5%と国民の半数をようやく上回った程度(03年版「情報通信白書」)。総務省中国総合通信局のまとめによれば、中国地方では最もIT化に熱心な岡山県でも、ブロードバンドの世帯普及率は04年1月末の段階で25.8%と4軒に1軒の割合に過ぎない。島根県に至っては17.9%と中国地方でも最低だ。

 行政ネットワークが完備されて、電子申請・届出など電子行政サービスが充実していっても、その利用率が急速に高まるかどうかは未知数だ。
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