e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>13.電子債権の実証実験スタート

2004/11/29 16:18

週刊BCN 2004年11月29日vol.1066掲載

 電子債権の導入実証実験が12月から沖縄県で、沖縄銀行、琉球銀行、沖縄海邦銀行、コザ信用金庫などの主要金融機関が参加してスタートする。実験には100社程度の地元企業が参加する予定で、経済産業省でも参加企業を対象に同サービスに関する調査事業を来年3月まで実施する。今年6月に決定した「e-Japan重点計画-2004」で、電子的な手段による債権管理・譲渡を可能とする電子債権法(仮称)の制定について「04年中に結論を得る」としており、今回の実験開始で電子債権法制に向けた動きが一段と加速することになりそうだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 電子債権は、「e-Japan戦略II」でIT利活用を推進すべき先導的7分野に位置付けられる「中小企業金融」のなかの重要施策。信金中央金庫が2003年12月から一部実用化した電子手形サービスをベースにして、商業手形に売掛金を加えた売掛債権を対象に、電子的に債権管理・譲渡が可能な仕組みの構築をめざしている。

 企業金融は、大企業では株式市場などを通じた直接金融の比重が高まっているが、中小・中堅企業では間接金融への依存度が高く、不動産担保に過度に依存した融資慣行が続いているのが実情だ。法人企業統計(02年度)によると、資本金1億円未満の中小企業の資産構成は、現金・預金81兆円に対して、土地81兆円、売掛金62兆円、在庫44兆円、受取手形16兆円、有価証券5兆円など。不動産に匹敵する売掛金を担保として活用できれば「中小企業の資金繰りを大きく改善できる」(経済産業政策局産業資金課)というわけだ。

 売掛債権のうち商業手形は手形割引などファイナンスに活用されてきたが、紙である手形の保管・運搬コスト、紛失・盗難リスクなどの負担を理由に利用が減少傾向にある。この手形の弱点を克服したサービスとして、大手銀行がファクタリング方式などの一括決済サービスを提供して利用を増やしているが、親事業者と下請事業者との決済など債務者と債権者が同じ金融機関と取引関係がある場合に限られる。これに対して、従来の手形と同様に取引金融機関が異なる場合でも利用できる仕組みとして開発されたのが電子手形サービスだ。

 一方、売掛金はこれまでファイナンスにあまり活用されていなかったが、その理由は権利譲渡する場合に確定日付の取得や債権譲渡禁止特約の確認などの手続きが面倒であり、権利が二重に譲渡されるリスクもあったため。逆に、これらの問題点を解決できる仕組みをIT利用によって構築できれば、売掛金をファイナンスに活用できる環境が整うことになる。

 現在、検討されている電子債権のイメージはこうだ。電子債権を管理する組織である「電子債権管理機関」が管理する「電子債権原簿」に電子債権の発生・移転を登録・書き換えを行うことで、債権の管理・譲渡が行われる仕組み。電子債権管理機関は民間企業の出資で、複数が併存することを想定している。

 来月から実証実験が始まる沖縄県は、島が多いために従来から手形の管理・輸送コスト負担が重く、電子債権の潜在ニーズが高かった地域。地元の主要金融機関が揃って実験に参加する背景もそこにあるが、一方で大手銀行を中心に一括決済サービスなどで取引企業を囲い込もうとする動きも強まっている。全国銀行協会や全国地方銀行協会でも10月になって電子債権に関する検討部会を設置したばかり。

 実験を通じてサービスを利用した企業だけでなく、金融機関がどう評価するかも電子債権が実現するかどうかのポイントになりそうだ。
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