e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>14.標準的電子カルテ研究報告会

2004/12/06 16:18

週刊BCN 2004年12月06日vol.1067掲載

 厚生労働省が2003年度からスタートした標準的電子カルテ開発プロジェクトの研究報告会が11月28日、第5回日本医療情報学会学術大会が開かれていた名古屋国際会議場で同時開催された。同報告会も今回で6回目。研究状況の報告に加えて、03年8月にスタートした標準的電子カルテ推進委員会が今年8月にまとめた「中間論点整理メモ」に基づくディスカッションも行われ、電子カルテの普及に向けて活発な意見交換が行われた。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 「電子カルテ導入によって何を実現するか」──。今回の報告会で改めて議論されたのがこの点だ。厚労省では01年12月に「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」を策定、電子カルテシステムの効果として患者に対する理解しやすい説明やセカンドオピニオンなどの「情報提供」、根拠(エビデンス)の創出による「質の向上」、フィルム等消耗品の使用量削減などの「効率化」を示した。その後、電子カルテを導入する病院が着実に増えているにも関わらず、医療関係者の間から電子カルテ導入のメリットを問う声がなくならないからだ。

 標準的電子カルテ推進委員会の中間論点整理メモでも、普及に向けた課題として「医療における役割や守備領域が明確化できておらず、システムの大規模化、高額化を招きやすい」や「システムの単位ごとに部品化を図って共通利用化を進める取り組みが十分ではない」などを指摘。課題解決に向けて、(1)標準的電子カルテ導入の目的や目標の明確化、(2)導入効果を評価する方法の明確化、(3)標準的電子カルテが備えるべき機能等、(4)普及させるために必要な基盤整備──の4点で検討を進め、来年3月にも報告書を取りまとめる予定だ。このメモからも、普及に向けて導入効果の周知を重要視していることがうかがえる。

 研究報告会のディスカッションでは、標準的電子カルテ研究に取り組んでいる学識者などからは、次のような指摘があった。情報共有と情報伝達の確実性、利用価値のあるデータベースの構築、質と安全性の向上、情報主権の明確化によって権利保護しやすい環境の創出、透明性の向上、追跡性と理由付け、ゲノム情報をベースとしたオーダーメード医療に向けた将来対応──など。そこで示された導入効果には、電子カルテの普及が進み、ネットワーク化で情報の共有化やデータベース化が図られて実現できる中長期的なメリットも含まれていると考えられる。

 一方、電子カルテを売り込んでいるITベンダーの声を聞くと、医療機関から求められるのは、短期的なメリットだという。「周りの病院が導入してからでも遅くない、とおっしゃる病院長は依然として多い」(ソフトベンダー営業担当者)というように、ある程度普及が進んでから後乗りした方が、学識者が指摘するような中長期的なメリットを出しやすいのは確かだ。それだけに「先行導入する医療機関に対してインセンティブが必要」との指摘も聞くが、高速道路のETCのように料金格差を付けるようなやり方が果たしてできるかどうか。

 会場では、95年から電子カルテを導入してインターネットでの情報提供サービス「プラネット」をスタートしている亀田総合病院(千葉県鴨川市)の展示が行われていた。千葉県南房総地域で20医療機関、患者1800人が参加して情報共有を行っており、今年9月からはNTTドコモのFOMAでの情報提供も可能になった。

 「最近では、高齢で持病のある親のカルテを、離れて住んでいる子供がチェックしたいという需要が増えてきた」(亀田総合病院の山田剛士・地域医療ネットワーク室長)。こうした利用方法も、電子化とネットワーク化で初めて実現できたサービスであり、今後の少子高齢化社会に向けて一段とニーズが高まる可能性はあるだろう。

 厚労省では今年9月末にまとめた医療情報ネットワーク基盤検討会の最終報告に基づいて、保健医療分野の公開鍵基盤の認証局証明書ポリシーや診療録などの電子保存のガイドライン改訂版などの策定を進めており、電子カルテをネットワーク化するための基盤が今年度中にも整う見通しだ。IT戦略本部の評価専門調査会でも、医療分野のIT化に関する評価作業を開始しており、見かけ上のツールの普及率にとらわれるのではなく、利用者の視点での適切な電子カルテ普及に向けて短期、中長期で導入効果を実感できる具体的な戦略設定が求められている。
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