e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>21.地域通貨と住基カード

2005/01/31 20:43

週刊BCN 2005年01月31日vol.1074掲載

 千葉県市川市で、住民基本台帳カードを利用した地域通貨モデルシステムの実証実験が昨年12月から1月までの2か月間行われた。総務省が、政府の地域再生推進プログラムの支援措置としてシステムを開発したもので、市川市のほか北九州市、熊本県小国町でも実施。同システムが狙いとする「地域通貨による地域活性化」と「住基カードの普及」という“一石二鳥”の効果は期待できそうか?(ジャーナリスト 千葉利宏)

 2003年8月から各市町村で発行が始まった住基カードも、04年8月までの1年間に発行された枚数は約36万枚と住民基本台帳人口の0.3%。住基カードを使った電子認証システム「公的個人認証」も04年1月から導入されたが、「電子申告の準備と見られる市民が、税理士を伴って手続きに訪れるぐらい」(市川市担当者)との声も。住基カードの発行枚数や電子申告の開始届出書提出件数(約6万6000件=1月12日現在)から見ても普及はまだこれからの段階だ。

 人口約46万人の市川市でも、住基カードの発行枚数は3000枚(約0.6%)程度だが、今回の実験には自治会、NPO(民間非営利活動)法人など20団体と約550人のモニターが参加した。地域通貨の名称・単位は、万葉集に登場する絶世の美人、手児奈に由来する「てこな」。地域通貨を活用して地域清掃、防犯パトロール、子育て支援などの地域活動やボランティア活動を支援・奨励するのが狙いで、「お年寄りが病院への付き添いを頼んだ時にお駄賃を渡すような感覚」(担当者)で利用してもらえることを想定したという。

 今回の実験では、地域通貨専用の“紙幣”を発行せずに、住基カードなどITを使って地域通貨を流通させる新しい仕組みを構築するのが、もう1つの狙いだ。個人モニターには自己負担(1000円)で住基カードと公的個人認証を取得してもらい、てこなの専用口座を開設。市川市から最初にモニター全員に1000てこな(1000円相当)、団体には会員数×500てこなを付与し、地域活動の謝礼として1時間100てこなを目安にモニター間で地域通貨を流通させていく。

 例えば、地域清掃に参加した個人モニターに自治会が100てこなを振り込むような場合には、団体の出納係がパソコンから公的個人認証を使ってサーバーにアクセスし、団体の口座から個人モニターの各口座を振り替える。また、モニターが貯まったてこなを動植物園の入園料や市内大型ショッピングセンターの商品券交換などに利用する場合は、市内約10か所に設置された専用端末機で、銀行のATMのように専用口座から住基カードにてこなを引き出して利用する。住基カードは銀行のキャッシュカードとJRのスイカカードが融合したような機能を果たすわけだ。

 実験に対する詳しい評価は、総務省が近く報告書にまとめる予定だが、市川市の実験を見る限り実験期間が2か月では短過ぎたのではないだろうか。地域通貨を地域活性化に活用するという試みも、“紙幣”を使わずに通貨を流通させる仕組みを構築するという試みも、誰もが経験したことのない新しいテーマであり、モニターが慣れるだけで時間がかかったようだ。現時点では、住基カードを使ったシステムを評価する以前に「ボランティア活動を通貨で評価するべきではない」、「貯まった地域通貨を利用できる出口を増やすべき」といった地域通貨のあり方に対する意見が多いという。金融のIT化も、昨年12月に金融庁が新しい金融強化プログラムの策定を打ち出したばかりで、電子マネーやインターネットバンキングも本格普及はまだこれから。地域通貨モデルシステムも大きな可能性が期待されているだけに、じっくり育てていく必要があるだろう。
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