視点

著作権保護期間延長、百害あって一利なし

2005/02/14 16:41

週刊BCN 2005年02月14日vol.1076掲載

 著作物に対して認められる権利のほとんどは、作者の死後50年までに限って保護される。これを、70年に延ばそうとする動きが顕在化してきた。文化審議会著作権分科会は、去る1月24日、保護期間の延長を含む、「著作権法に関する今後の検討課題」を了承し、今後、法改正に向けたより具体的な検討が進められることになった。この目論見、百害あって一利なしと考える。

 著作権法の大目的は、「文化の発展に寄与する」ことにある。“権利の保護”は、これを果たすための手段。加えて“著作物の公正な利用を図る”というのも1つの手があることを、法は示している。であるからこそ、著作権は切れる仕組みになっている。

 創造をになう人に特別の権利を認めれば、作品で稼ぐ道が開ける。創作への専念を後押しし、つくることへの励ましも与えうる。

 他方、独占の可能性を抑え、知識や表現が社会に広く行き渡って活用されるよう体制を整えておくこともまた、著作権法の大目的にかなう。本来、人は、先人の文化的な蓄積を糧として自らを育み、真似て学んだものに、自分なりのなにがしかを付け足して、創造をなす。知識や表現の普及を促し、創造の母となる田を耕しておくことは、文化の前進にとって有利な選択である。励ましとして機能するあいだはしっかり著作物を保護し、その役割を終えた段階では、自由な共用に任せることが、著作権法設計思想の根幹をなす。

 とりわけ今、思い起こすべきは、権利を切ることの“効き目”が、インターネットを得て、本物になってきた点だ。本が紙でしか作れなかった段階では、作品を納める器の高コスト体質ゆえに、没後50年を経ての著作権切れは、価格の切り下げにつながらなかった。その事情を、ファイルという新しい器は、決定的に変えた。過去の文化資産をデジタル化して公開するという、著作権切れの新しい生かし方がみえてきた。

 この変わり目に際して、作る人の心に響くとは思えない、死後50年から70年への延長によって、デジタル・アーカイブの対象範囲を狭める等、時代の趨勢に背を向ける愚作である。

 筆者が関わる電子図書館、青空文庫のトップページに、延長反対のロゴをはった(http://www. aozora.gr.jp/)。法改正に向けた動きと反対論の詳細は、ロゴをクリックして開く文章で。
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