個人情報保護法で変わる“IT風景”

<個人情報保護法で変わる“IT風景”>10.本格モバイル活用が進む

2005/04/11 16:04

週刊BCN 2005年04月11日vol.1084掲載

 4月1日、いよいよ個人情報保護法の完全施行が始まった。企業のIT活用にこの法律がどのような影響を与えるか、徐々にあらわになってくるだろう。

 そこで1つプラスの傾向がすでに出ている。一見すると逆説的なのだが、同法の影響で「本格的なモバイルコンピューティング」が広がる可能性がある。

 この連載では、情報漏えい対策として、ノートパソコンの社外への持ち出しを禁止する企業が出ていると述べたことがある。ノートパソコンを社外に持ち出すと、紛失したり、盗難に遭うリスクがつきまとう。性悪説に立てば、管理・監視が及ばない社外に個人情報を持ち出すことの危険性は無視できない。

 だが、出先でもノートパソコンを使うビジネス習慣がここまで定着している現在、持ち出しを禁止してしまうと、仕事にならないビジネスマンが出てくる。

 この二律背反を解決する方策こそが、本格的なモバイルコンピューティングなのだ。

 ノートパソコンにはデータを持たせず、PHS(簡易型携帯電話)のデータ通信などを使って会社にあるサーバーに接続、データを呼び出して利用して、ローカルディスクに保存できない仕様にしておく。

 サーバーでデータを集中管理しておけば、利用履歴が残るので、不正利用を抑止できる。もちろん、生体認証やデータ暗号化など組み合わせて、なりすましや紛失・盗難時の安全性も確保してのことである。

 従来、通信コストの高さがネックとなり、サーバー集中型のモバイルコンピューティングはそれほど普及していなかった。逆にローカルディスクにできる限りデータを詰め込み、会社のサーバーへ接続する時間を極力減らす利用法が一般的だった。

 それが同法のもとで、モバイルコンピューティング本来の効用が再評価されている。ノートパソコンを社外でも利用できることによる便益を認めたうえで、通信コストと情報漏えいの被害コストを天秤(てんびん)に掛ければ、前者を選ぶ企業が自ずと出てくる。

 例えば、損害保険大手の損保ジャパンがこの3月から営業担当者4000人に向け、こうしたサーバー集中型のモバイルコンピューティング活用を取り入れた。

 個人情報保護法のもとでモバイル活用の見直しが進みそうだ。(坂口正憲(ジャーナリスト))
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