総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>32.三和メッキ工業(上)

2005/06/20 16:18

週刊BCN 2005年06月20日vol.1093掲載

 メッキ加工の三和メッキ工業(福井市、清水和夫社長)は、ウェブを使った積極的な営業展開で売り上げを伸ばしている。法人顧客向けのウェブと、個人顧客向けのウェブの両方を開設し、主に新規顧客の開拓に役立てている。新しいメッキ加工技術の開発にも力を入れており、開発した技術はウェブ上に公開し、メッキ加工需要の掘り起こしに努めている。

ウェブで個人からの注文にも対応

 今年度(2005年9月期)の売り上げのうち、ウェブが窓口となって受注した比率は10-12%に達する見込みで、このうち個人顧客から受注した比率は半分弱の4-5%を占める見通しだ。メッキ加工事業者が個人顧客から小口の注文を直接受けるケースは少ないこともあり、個人顧客向けのウェブ「必殺!めっき職人」を04年2月に開設してからは、全国から注文が増え続け、売り上げ全体を押し上げるまでになった。

 産業機械の部品をメッキ加工する仕事が多い同社では、「自分たちが何に使う機械の部品をメッキしているのか分からない」(清水栄次・常務取締役)こともしばしばあった。ところが、個人顧客からの注文は、顧客のお気に入りのライターや愛車の部品、趣味のモデルガンなど、個人が大切にしている“宝物”が持ち込まれることが多い。個人の深い思い入れや思い出が詰まった宝物のメッキは、「これまでとは違った刺激や緊張感があり、試行錯誤の中から新しいメッキ加工技術が生まれることもある」(同)と、社内の活性化に結びついた。

 個人顧客が持ち込むモノは多種多様で、これまで経験したことのない素材にメッキ加工を施すことも少なくない。このため、顧客の思い描いていた仕上がりと異なることもまれに起こってしまう。そうならないために、電話で顧客と何回も綿密に打ち合わせたり、電子メールを何十通もやり取りするなど、業務効率の観点から見ればマイナスが発生し経営面のリスクになる可能性もある。しかし、あえて個人からの小口の注文を取ることは、三和メッキ工業の全国的な知名度や技術力を高めていくためには必要だと考えている。

 「必殺!めっき職人」など、三和メッキ工業のウェブの開発を手がけた電子商取引(EC)システム開発のサーフボードは、「ウェブを使った顧客開拓に対する三和メッキ工業の意欲は、非常に大きいものを感じた」(サーフボードの田嶋節和社長)と、並々ならぬ熱意に驚きを隠さない。ウェブを使った商取引では、電子メールや電話などの問い合わせに対して素早く丁寧に対応していくことが求められる。ECがうまくいかない会社の大半が、こうしたオンラインや電話での対応がうまくできないことが「原因の1つ」だと田嶋社長は分析する。三和メッキ工業のECが成功した背景には、この顧客対応のよさが大きなプラスになった。1つ1つの小口のメッキ需要に丁寧に対応していく姿勢は、個人顧客だけでなく法人顧客にも高い評価を得た。

 三和メッキ工業の法人顧客向けのビジネスでは“試作品からの共同開発”を重視している。メッキ加工は、中国など海外企業との激しい国際競争にさらされており、価格だけで海外勢に対抗するのは難しい。顧客企業と試作品の段階から研究を重ねることで技術水準を高め、他社では真似のできないオリジナルの加工技術の確立に努める。

 試作では、小口の注文で試行錯誤が続くことが多い。三和メッキ工業の顧客の要望にしっかり耳を傾け、丁寧に対応していく姿勢は、法人顧客の需要を引き出すのにも役立っている。法人顧客向けのウェブで、個人顧客向けの「必殺!めっき職人」と同様、電子メールや電話での問い合わせに即座に反応する体制をつくりあげた。素早く丁寧な対応は新規顧客の開拓や試作品の共同開発を進める上で欠かせない要素だけに、顧客からの反応も上々だという。

 個人顧客からの多種多様な要望や、法人顧客との共同試作は、新しい技術を開発する原動力になっている。同社では年間2つ以上の新しい加工技術を開発し、ウェブ上に公開する目標を立てている。今年度(05年9月期)は、1月に「ブラックステンコート加工」、4月に「テフロン硬質クロム加工」を発表した。

 ブラックステンコート加工は、漆黒調の独特の色合いが特徴で、個人顧客が持ち込んだモデルガンのメッキ加工などを通じて開発に漕ぎ着けた。テフロン硬質クロム加工は、一般家庭で使うフライパンのテフロン加工のように硬くてよく滑る特性をさらに強めた表面加工技術で、顧客企業との共同開発の過程で開発した。三和メッキ工業では、すでに25種類の加工技術をサービスメニューに加えており、今後も積極的に増やしていく。さまざまなメッキ加工サービスをワンストップで提供することで、他社との差別化につなげる。

 三和メッキ工業の今年度の売上高は3億5000万円の見込みだが、2年後の07年9月期には売上高5億円、経常利益率20%を目指す。ウェブを窓口とした受注比率を全体の2割程度に拡大させる方向で、今後もインターネットを重要な営業ツールとして活用していく方針だ。次回は、三和メッキ工業のウェブ開発を一手に引き受けるサーフボードの戦略を詳しく追う。(安藤章司)
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