コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第40回 愛知県(2)

2006/01/23 20:42

週刊BCN 2006年01月23日vol.1122掲載

 システムインテグレータ(SIer)の重点業種への特化戦略が進んでいる。全業種を広く浅く展開する方式から、自社の強みを発揮しやすい業種へ経営資源を集中することで勝ち残りを狙う戦略だ。大手ベンダーのなかにも、業種特化戦略を支援する動きが出始めている。重点業種の絞り込みはさらに加速しそうだ。(光と影PART IX・特別取材班)

重点業種への特化戦略進む 経営資源集中で強みを発揮

■業種・業務知識蓄え下請けからの脱却を

 愛知県はトヨタ自動車を筆頭に製造業が強い地域である。トヨタ系列のグループ会社や地場の製造業者などが巨大な産業クラスターを形成し、これを支える流通業、金融、健康・医療サービスなど周辺業種も充実している。業種特化戦略を展開するだけの十分な市場規模があることから、主要SIerは自社の強みを発揮しやすい少数の業種に経営資源を集中する傾向にある。特定分野をより深く掘り下げる戦略を相次いで打ち出し、競争力を高め、ビジネスを有利に展開するのが狙いだ。

 顧客企業の経営問題を解決するソリューションを積極的に提案していくには、顧客が属する業界や業務のノウハウ習得が欠かせない。営業とシステムエンジニア(SE)が一体となって業種ノウハウを身につけてこそ顧客企業から直接受注できる元請けになるチャンスも増える。大手メーカーの下請け的な存在に甘んじていては、競争に勝ち残れない。重点業種を見極め、業種ノウハウの蓄積と集中的な営業展開による顧客との関係強化が収益拡大のカギになっている。

 日本アイ・ビー・エム(日本IBM)のトップディーラー・日本ビジネスコンピューター(JBCC)のグループ会社で東海地区を中心にビジネスを展開しているシーアイエス(CIS)は、「エンドユーザーを持つことで当社の使命を果たせる」(船岡弘忠社長)と、地域に密着した業種展開によって顧客との関係を強化することがCISの企業価値を高めると話す。同社は日本IBMのハードウェアやミドルウェア、JBCCの遠隔監視サポートなどのサービスを取り扱っており、多くのエンドユーザーを掴むことは、IBM陣営全体の利益や3社の役割分担の明確化にも結びつく。

 東海地区におけるNECのトップディーラーで独立系SIerのフューチャーインは、SEを中心としたエンジニア約150人を親会社で通信建設業のシーキューブから2004年8月に迎え入れた。システム開発力を強化し、主に民需市場の開拓につなげていく方針だ。従来、営業だけでは顧客担当者からの高度に技術的な質問に対応できないケースが見られた。だが、SEの大幅増員により「営業マンへのバックアップ体制を強化」(猿田俊明社長)し、営業が顧客の懐に思い切って飛び込んでいく姿勢が顕著になってきたという。

 民需では主に製造業の生産管理システムを柱のひとつとしているが、今年度(06年3月期)、東海地区で中堅鉄鋼メーカーの生産管理システムの受注が決まるなど、「成果が表れている」(同)とし、現在進行中の複数の大型案件の受注にも手応えを感じている。営業とSEが密接に連携してターゲット業種へのアプローチを強めることで、よりレベルの高い提案が可能になったのだ。

■請け負いで大型案件のノウハウ得る企業も

 日立グループ直系のSIerである日立エイチ・ビー・エムは、信用金庫や地方銀行の事務処理を円滑に進めるための業務アプリケーションの作り込みに関して「随一の実績」(岩本喬・常務取締役中部本部長)を誇る。過去15年余りにわたり、日立製作所本体とも連携しながら金融機関のバックヤードを支える情報システムの開発を戦略的に推し進めて業務ノウハウを積み上げてきた。

 東海地区に約40団体ある信用金庫のうちの8割ほどに事務処理関連システムの納入実績があり、今後はこうした業種ノウハウの横展開を全国的に推進していく。

 業種に強くなり、顧客企業から直接受注することで収益力の拡大を図るSIerが増えるなかで、敢えて大手ベンダーなどからソフトウェアなどの請け負い開発に進み出ることで業種ノウハウの習得を目指す動きもある。

 富士通ビジネスパートナーの東海地区最大手であるトーテックアメニティは、より大規模なプログラム開発の手法や業種ノウハウの習得を進めるため、戦略的に請け負い開発の比率を増やしている。今年度(06年3月期)の単体ベースの売上高のうち請け負い開発を中心としたテクノロジーアウトソーシングの比率は約45%を占める見通しだが、来年度は50%を超える勢いで増やす。

 中堅企業クラスの企業なら基幹業務システムを含めたトータルなシステム構築が可能だが、トーテックアメニティでは「より大規模な案件の受注にも耐えうるノウハウを得る」(坂井幸治社長)ことで成長を目指す。

 請け負い開発は、このためのステップアップの手段と位置づけており、将来的により難易度の高いシステム開発を可能にする技術を身につけていく考えだ。

 受注に際しては、脈略が掴みにくい細切れの受注ではなく、プロジェクト単位のまとまった開発を率先して請け負ったり、3次受け以降の下請けは避けるなどして、ソフトウェア開発や業種に関するノウハウの蓄積が進みやすい案件比率を増やすよう努めている。

 富士通もこうしたビジネスパートナーの業種戦略を推奨している。富士通では2年ほど前から営業ターゲットとする重点業種を共に開拓するビジネスパートナーの増強に力を入れており、「技術支援や人材育成」(小池康夫・経営執行役東海営業本部長)などの面で支援を強化してきた。

 直近では、ターゲットとする業種のノウハウ習得で一定の実績を積み上げたビジネスパートナーに対して富士通の顧客企業の一部を紹介するなど、より踏み込んだ協力関係の構築に努めている。

 製造業や健康・医療関連など重点業種にビジネスパートナーと共にアプローチできる体制を強化することで競争力を高めていく戦略だ。大手ベンダーのバックアップもあり、主要SIerの重点業種への特化戦略はさらに加速する様相だ。
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