ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略

<ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略>6.大手ベンダーに聞く(4)富士通

2006/02/06 20:29

週刊BCN 2006年02月06日vol.1124掲載

 ──e-Japan戦略の5年間を振り返ると。

 「当初のコンセプトは“ITで国を元気にする”ことであり、“ITの恩恵を感じる社会をつくる”ために、富士通としても社内組織体制も整え、ソリューションも含めて提案する活動を展開してきた。e-Japanがなければ電子政府の受付システムを統合したり、認証基盤を構築したりは実現できなかっただろう」

 ──“想定外”だったことは。

 「IT利活用を進めるうえで、痛みを伴う部分や発想を変えなければならない部分があったし、政府調達などの制度面で追いついていないところはあった。システムではオープン化の流れが強まることで、価格の下落傾向も一気に進んでしまった」

 ──ビジネス展開が難しかったのでは。

 「最初の2年間はブロードバンド網の整備や電子政府のフロント系システム構築など“モノの基盤をつくる”時期だったが、後半は、e-文書法などの規制緩和や、業務・システム最適化計画、CIO(最高情報責任者)の制度導入といった“社会制度基盤をつくる”時期だった。IT業界内では、昨年ごろから日本でのIT投資がGDP(国内総生産)比でみても米国などの諸外国に比べて少ないという問題意識が高まっている。なかでも新規分野を切り開くための“戦略的IT投資”が減っているのではないかとの危惧もあるだけに、IT投資のための社会制度基盤が整いつつある今後に期待している」

 ──1月19日にIT新改革戦略も正式決定した。

 「今回の戦略は、これまでの成果をもとに相当踏み込んだ内容になっている。電子政府も具体的な目標が打ち出され、医療分野も骨格がしっかりとしたものがでてきたが、まだ十分に踏み込めていない分野もある」

 ──具体的には。

 「やはり教育と人材育成の分野だろう。生徒にITを教えることも必要だが、本来はITを教育にどう活用していくかという議論が重要のはず。その部分が足りない。産業競争力の強化も、技術・開発分野でもっと具体的な取り組みがあってよいのではないか」

 ──期待する分野は、やはり医療か。

 「富士通でも、ヘルスケアの部隊で各病院に電子カルテのシステムなどを納入してきているが、一方で高齢化社会に向けてITを使って保健・医療分野の構造問題を解決していく必要もある。病院など医療現場をカバーしているヘルスケア部隊だけでは対応できないので、政策推進本部にも医療チームを設置して、役所や大学などの先導的な役割を担う機関と連携する取り組みも進めている。“現場と先導”とが融合した体制を医療では1年くらい前から立ち上げており、地域でのIT化でも地方支店と政策推進本部が連携した取り組みを進めているところだ」

 ──種まきから刈り取りまでの期間が長くなっているのでは。

 「確かに、災害対策分野が今後有望だと認識していても、実際にどこからビジネスになるかは見えにくい。法律や制度も絡んで、ITを導入する効果などを単純に説明できない分野は増えている」

 ──一方で、日銀の統計を見ると、IT分野のサービス価格指数の下落が続いており、デフレ脱却にはほど遠い。

 「単純にコストダウンを図るためのITではそうならざるを得ないかもしれないが、戦略的なIT投資についてはその正当な価値をITベンダーからも発言していく必要がある。VFM(バリュー・フォー・マネー)などの考え方を理解してもらうための工夫や努力がIT業界側にも不足していた。国内景気も回復して、今まさに民間も戦略IT投資に向けて舵を切り始めたところであり、ITベンダーからも企業トップに向けてその重要性について情報発信していくことが重要だ。ITベンダーにとっても、解決しなければならない宿題は多い」

(ジャーナリスト 千葉利宏)
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