ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略

<ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略>13.公共サイトのウェブアクセシビリティ

2006/03/27 16:04

週刊BCN 2006年03月27日vol.1131掲載

 ITは本来、高齢者や身障者を介助する有効な道具。視覚障害者が役所に申請手続きを行う場合も、ITを使えば役所まで出向かなくても済ませることができる。そうしたIT環境を実現する基盤が「ウェブアクセシビリティ」だ。

 総務省が地方公共団体などの公共サイトのアクセシビリティ確保に向けて啓蒙活動を開始した。昨年12月に公共分野におけるアクセシビリティ確保に関する研究会報告書のなかで「みんなの公共サイト運用モデル」手順書類集を策定。これを地方公共団体などに周知徹底をすることで、ウェブアクセシビリティの実現を図ろうという狙いだ。2月下旬から順次、全国各地でセミナーの開催を始めており、東京でのセミナーには定員200人に対して300人以上の応募があるなど社会的関心も高まってきている。

 日本でのウェブアクセシビリティへの対応は、W3C(World Wide Web Consortium)が勧告したWCAG(Web Content Accessibility Guidelines)を受けて旧郵政省と旧厚生省が1999年に指針を策定し、04年5月にはX8341-3としてJIS(日本工業規格)化が実現した。

 IT業界ではすでに広く認識が進み、対応している企業も多いと思われるが、05年3月に総務省が地方公共団体を対象に行った調査では、ウェブアクセシビリティの必要性について「首長を筆頭に一般職員も必要性を認識している」のは全体の1.8%。「必要性はほとんど認識されていない」は2割に達した。このため実際の取り組み状況も表に示すように「すでに十分に取り組んでいる」とする団体はわずか2.6%にとどまっている。

 JISの尊重を義務づけられている公共サイトで取り組みが遅れている原因について、総務省の研究会ではJISの内容が技術的すぎて難解であること、アクセシビリティ確保のための実現方法が明記されていないことの2点を指摘。問題点を解消するために各種手順書やワークシートを作成して「みんなの公共サイト運用モデル」として公表し、啓蒙普及を図ることにした。

 同モデルは、一般的な業務改善手法であるPDCA(計画・実行・評価・見直し)サイクルに基づいてアクセシビリティの確保・向上に組織的かつ継続的に取り組める手順を示している。基本方針策定ガイドや目標・実行計画設定ガイドから、コンテンツ制作会社の選定・発注・検収手順、アクセシビリティの簡易点検ガイドや実際に利用する高齢者・障害者による評価方法までが網羅されており、公共サイトだけでなく企業などの一般サイトにも十分に役立つ内容となっている。

 「企業にとって究極の広報戦略は自らメディアをもつこと。インターネットはメディアそのものなのに、まだ認識されていない」─今年正月のインタビュー記事に登場した出井伸之ソニー最高顧問はそう指摘していたが、ウェブサイトに対する認識も徐々に高まってきている。トヨタ自動車でも、今年1月に広報部総括室に初の専門組織「企業サイトグループ」を立ち上げて戦略的な取り組みをスタートしたところだ。紙のコンテンツをインターネットに置き換えるだけの時代から、ウェブサイトが大きく進化する時期を迎えようとしている。(ジャーナリスト 千葉利宏)

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