システム開発の効率化最前線

<システム開発の効率化最前線>12.ソフトクリエイト ネット通販システム新製品を投入

2006/06/05 20:37

週刊BCN 2006年06月05日vol.1140掲載

 ソフト開発のソフトクリエイト(林勝社長)は主力のインターネット通販システム「ecbeing(ecビーング)」の新版「ecビーングEX」を6月に発売した。今年に入って業務提携したインターネット広告代理店大手のセプテーニの広告管理システムと連携するなどマーケティング機能を大幅に強化した。これまでは商品をネットで販売するための機能拡充が中心だった。広告などマーケティングにまで踏み込んだ機能を実装したのは今回が初めて。(安藤章司●取材/文)

.NETベースで他社システムと連携

■ネット通販の特性「ロングテール現象」に注目

 新バージョンではecビーングの商品データベースや在庫データベースと、ネット広告代理店のセプテーニが運用するキーワード連動型広告の配信管理システムとリアルタイムに連動する機能を標準装備した。セプテーニの広告管理システムとの連動を基本としているが、顧客企業からの要望があれば別の広告代理店のシステムとの連携も個別開発で対応する。

 顧客を呼び込み、実売に結びつけるマーケティング機能をシステムに実装したのは、ネット通販ならではの特性を生かす狙いがある。

 従来型のデパートやスーパーなどの小売店は、売り場スペースが限られていることから売れ筋上位の商品ばかりに意識がいき、たまにしか売れない商品は手薄になりがちだった。ネット通販は売り場スペースの制約が少なく、かつインターネットが接続できる地域ならどこでも商圏に入る特性がある。限られた商圏で限られた売り場を持つリアルな店舗に比べて、ネット通販はよりニッチな需要を幅広く捉える能力に長けている。

 こうしたネット通販の特性は「ロングテール現象」(長い尻尾)と呼ばれている。全国に大型店舗を出店し、多大なコストを投じて展開する従来型の小売り店舗に対して、ネット通販は小口ながら幅広い多様な需要を低コストで取り込みながら急成長している。

前者の主力に位置づける売れ筋商材を「ヘッド」(頭)とし、ネット通販が得意とするニッチ商材を「テール」(尻尾)とするならば、近年、この“尻尾”が実はとてつもなく“長い”ことがネット通販の急成長によって証明されつつある。

 検索キーワードと関連した広告を表示するなどして売り上げを伸ばしている検索サービス大手のグーグルも、「ひとつひとつの需要は小さいものの、集まると巨大な市場になる」(グーグルの村上憲郎社長)と、ロングテールに注目している。

 ソフトクリエイトでは、まず自ら運営しているパソコン・家電のネット通販サイト「特価COM(特価コム)」でマーケティング機能の有効性を確認していく。

 特価コムの約3万点の商品データベースの中から、今年度(2007年3月期)上期中をめどに約1万点をセプテーニが管理運営するキーワード連動型広告と連携させる。これまで商品データベースは外部と連動しない閉じたデータベースだったが、今回初めて外部から検索できるようにする。


■検索サイトとの連携で集客を図る

 キーワード連動型広告は、商品の売り文句を短いコメントにまとめて表示する文字広告だ。ユーザーが検索サイトで検索するキーワードと連動する形で表示される。例えば、ユーザーが検索サイトで「パソコン」と入力したとする。検索結果を表示する画面で「特価コム、最新ノートパソコンを安く販売」などと文字広告を表示する。ユーザーは「パソコン」というキーワードに対して何らかの関心を抱いている可能性が高く、通常のバナー広告などよりもクリック率は格段に高いという。通常はユーザーがクリックした時点で広告料が発生する。

 文字広告のキャッチコピー次第でクリック率は大きく異なるといい、インターネットユーザーの心をつかむ広告づくりのノウハウも蓄積する。実践を通じて得られたデータは迅速にecビーングの改良に反映させたり、顧客企業向けのコンサルティングサービスに生かしたりすることで、従来にも増して大きな効果を出せるよう努める。

 新しいecビーングでは、商品データベースにあらかじめ文字広告を添えておき、一括してセプテーニの広告管理システムへ登録できるようにする。在庫がなくなれば自動的に広告出稿を停止することもできる。広告予算の範囲内で効果的なマーケティングを人手やコストをかけずに展開することでネット通販の収益性の向上が期待されている。

 ecビーングの開発を担当するソフトクリエイトの林雅也・取締役プロダクト事業部長兼EC統括部長兼プロダクト開発第3グループ長は「ecサイトの運営は、検索サイトとの連携なしには考えられない」と、グーグルやヤフーといった大手検索サイトとシステム的に連携できるパッケージづくりが欠かせないと話す。

 顧客企業からも新型ecビーングのマーケティング機能を利用したいという引き合いが急増しており、「早ければ今年度下期からecビーングとキーワード連動型広告を実際に顧客に使ってもらうことになる」(岡本康広・事業開発室室長)という。

■.NETフレームワークが大きな力に

 他社システムとの連動は、.NETフレームワークが標準でサポートしているウェブサービスを活用して実現している。ウェブサービスは異なる業務アプリケーション同士を連携させる通信方式の業界標準で、今回のセプテーニのシステムとの連携でもこの方式を軸に位置づけている。ecビーングは02年に.NETフレームワークに対応しており、「あのとき.NETフレームワークに対応させていなかったら、業界に先駆けたシステムづくりはできなかった」(林取締役)と振り返る。

 他社システムやさまざまなインターネット上のサービスと連携していくうえで、すべて自前で開発していては膨大な開発費と時間がかり、需要を先取りすることが難しくなる。.NETフレームワークはこうした基礎となる部分をサポートしているため、ソフトクリエイトはecビーングの本来のネット通販部分の開発に資源を集中できた。02年の段階ですでにウェブ上のサービスと連携する「.NET構想」の話は出ていたものの、「当時はまだサービス連携のイメージに実感が伴っていなかったのが正直なところ。今になってようやく実ビジネスとして実感できる。ネットの双方向性をフルに生かした新しいウェブの捉え方であるウェブ2.0を先取りしたものだった」と高く評価する。年度内には最新バージョンの.NETフレームワーク2.0にecビーングを対応させる予定だ。

 キーワード連動型広告は、ニュースサイトや個人のブログなどに掲載される記事内容をコンピュータで自動的に分析して配信するなど、適用範囲が日増しに拡大している。日々進化するインターネットマーケティングを積極的にとり入れることで顧客企業の売上増に貢献するネット通販システムに仕上げていく。こうした取り組みによりecビーングEXは今年度100システムの販売を目指す。
(取材協力:.NETビジネスフォーラム)
  • 1