IT経営コーディネート 企業活性化にITCの妙手

<「IT経営」コーディネート 企業活性化にITCの妙手>1.千代田漬物編(上)

2007/05/21 16:18

週刊BCN 2007年05月21日vol.1187掲載

「改円隊」とITCで、IT改革断行

 ITコーディネータ(ITC)の活動を支援するため、今号から、ITCが関わりITを導入して経営改革に成功した企業事例を紹介する連載を開始します。ITCが上流工程から関わることで、ITベンダーの案件受注方法に変革をもたらすほか、中小企業のIT化にITCがなくてはならない存在であることを認識いただけると思います。(谷畑良胤●取材/文)

 千葉県にある創業32年の漬物総合問屋「千代田漬物」は9年前、耐用年数を過ぎたIT機器の入れ替えを行った。このことが、同社の「経営危機」の引き金となったのだ。

 コンビニエンスストアの台頭が著しく、得意先の「商店」が軒並み店を畳むなかで、同社の業績は低迷期に突入。挽回を期して、柿澤利行社長は、「仕事の垣根をなくす」狙いで、最新システムへ移行した。だが、これを機に30人の全社員から「辞表」が提出され、半数が辞めてしまった。思わぬ事態に、柿澤社長は頭を抱え込んだ。よく会社が潰れなかったものである。振り返れば、2年前にITコーディネータ(ITC)を活用した経営改革を断行したのは、この愚を二度と繰り返さないためでもあった。

 9年前の当時、得意先を巡回する営業担当者は、「待ちの営業」に浸かっていた。これを見直して「攻め」に転じようと、携帯できるハンディターミナルなどを使った見積書類や営業活動などの情報共有、メーカーへの二重発注などを防ぐシステムを取り入れた。これで、「新規顧客」の開拓が進む、はずだった。しかし、社員の労働量は増えて、売上高は減る一方。「なのにIT化に予算を割くのか」と反発を受け、大量退職を招いたのだ。

 柿澤社長はいまも、提出されたすべての「辞表」を保管し、自分を戒めている。「今度はIT化の必要性を理解させたい」。藁をもつかむ気持ちで駆け込んだ先が千葉県産業振興センター。ここで改革のお膳立てをしたITCの鬼澤健八氏(おにざわIT経営支援オフィス)に出会う。

 「今度こそ、全社員の理解を得なければ…」(柿澤社長)──。千葉県と千葉市の「専門家派遣制度」の補助金を利用し、鬼澤氏を招請し助言を受け始めた。危機に際して呼び戻した三男、柿澤好徹・部長(当時は次長)をIT構築プロジェクトチーム「改革円陣隊(通称・改円隊)」のリーダーに据え、2005年3月に改革へ向け始動した。

 同社のシステムは、現行版で「3代目」。最初はNEC製のオフコン、次にオープンシステムを導入。05年当時の「2代目」は、旧ネットウェアのサーバーでリース期間を過ぎたシステム。これを、成田市卸売市場内にある「成田店」と一元管理ができるようにし、販売・仕入・在庫管理に加え、会計処理を共通化することをなど狙った。

 「改円隊」発足にあたり、鬼澤氏はこう指示した。「ここでは、社長は社長じゃない。メンバーの1人」。経営環境の分析や業務プロセスの洗い出し、「強み」と「弱み」の分析などを開始した。鬼澤氏は「その間に、財務分析や売上分析、取引先の分析を並行して実施した」と、改円隊を後方支援、改革は着々と進展した。
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