IT経営コーディネート 企業活性化にITCの妙手

<「IT経営」コーディネート 企業活性化にITCの妙手>6.ビッグシェフ編(下)

2007/06/25 16:18

週刊BCN 2007年06月25日vol.1192掲載

ITCの発案で、イレギュラーを解決

 1977年に創業したビッグシェフは、テレビの料理番組に登場していた現社長の実父であり、料理人の藤咲信次氏が作った味をベースに、ドレッシングやソースを開発・製造したのが始まりだ。「レストランの味を食卓へ」--。大手デパートなど、取引先を次々に増やしてきた。

 一方、実務面では歪みが生じていた。取引先の要請に応じ、手書きの専用伝票で受注・発注をする。それだけではなく、取引先ごとの各種取引条件の違いもある。結果、本社や工場に、毎日“紙”が山積みに…。 例えばこうだ。大手コンビニから発注伝票が本社に届く。すると、販売管理ソフトに発注先を入力し、FAX用紙に受注内容を手書きで記述。FAXを受けた工場長は、手集計した製造数を生産部門に知らせるほか、梱包・物流部門に納品書、出荷指示書を手書きで手渡す。同一データを毎日3-4回程度、手書きしていたのである。

 担当するITコーディネータ(ITC)の今野康一氏は「従業員個人の暗黙知に頼っている」と、問題点を捉えた。「この暗黙知の部分を形式化し、自動化すれば…」、二重受注防止や売り上げの10%程度を占める配送コストを削減できると判断し、システム構築に着手した。5年前のことだ。

 「ワンソースワンインプット(重複入力の排除)」を基本とした業務効率化とミスの低減や取引先別の条件を加味した自動入力の実現、取引先により異なる伝票の例外処理に柔軟対応できるシステムの構築--等々、システム要件は完成した。だが、価格を抑える問題が片づいていない。

 そんな時、今野氏は柔軟性に優れ安価にカスタマイズできるアップル社のデータベース構築ソフト「FileMaker」に目をつけた。同ソフトのデベロッパーを探し、ビッグシェフの本社と工場の中間地点に事務所を置くスプラッシュに発注した。

 スプラッシュの蜷川晋・代表取締役は、元開発者。開発経験が豊富な蜷川代表取締役にしても、ビッグシェフの案件は“難敵”だった。「今野さんの分析を基に、工場に社員を派遣して作業をさせ、紙伝票を徹底的に調べた。さらに、現場担当者へのヒアリングを繰り返し、開発してはβ版をフィードバックした」。1年近くをかけ、開発を完了した。

 現システムは、UNIX系の「MacOSX」を基本OSとして採用し、「FileMakerサーバー7」上に受託ソフトを載せたシステムが約1000万円。サーバーや本社と工場に置くパソコン「iMac」などハード、VPNなどネットワーク構築を含め総額約1300万円で収まった。藤咲社長は「頭を悩ませていた例外処理の解消ができた。前に提案されたシステムなら、2500万円でも収まらなかったでしょう」と胸をなでおろす。今回のシステム開発が、それだけ難しい作業だったと、今野氏や開発者をねぎらう。
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