愛託系SIerの2006年度通期決算集計のうち、売上高200億円未満の80社に限ると、売上高は8.6%増の6021億9300万円、純利益は65.2%減の65億円。売上高純利益率は2.3ポイント減の1.1%に落ち込んだ。プライム受注ないし元請け的な大手SIerが増収増益で沸き立っているのと裏腹に、80社中27社が減益、うち18社が赤字と惨憺たる状況だ。個々にみれば不採算プロジェクトや資産の見直しといった理由があるにしても、もう一つ、「法規制ならぬ“規制”がSIerのコストアップを生み、経営を圧迫している」という指摘がある。(佃均(ジャーナリスト)●取材/文)

コストを下請けが負担

■Pマーク取得が条件

 東京・新宿のとある喫茶店。奥のソファで顔見知りが片手を上げた。東京都内に本社を置く要員派遣型ソフト会社の営業部長だ。

 「いやぁ、まいりました」

 と彼は話し始めた。取引先から無理難題を要求されている、という。

 SI業界の大手が主要な取引先だ。契約書の名目は「業務委託」「再委託」などだが、実質はプログラマの派遣。昨年の秋から今春にかけて、契約更新のたびに取引先から「1人派遣」の回避を求められ始めた。

 プログラマやオペレータの派遣を受け入れる側からすると、「1人派遣」が多くなると請求書の受領や振り込みなど事務手続きが煩雑になる。5人、10人を1口に束ねれば、その手間が5分の1、10分の1になる。このことはつまるところ、「外注先の絞り込み」を意味している。

 「1人派遣で契約していた外注をまとめるというのは、私たちが孫請け、ひ孫請けになるということでもある。契約とか派遣法の問題だけの話じゃない。それだけピンハネが増えて、実入りが減るわけですよ。これまでと同じ仕事をしているのに、月額単価が10%以上、下手をすると20%以上減ってしまう」

 営業部長氏が「まいった」と嘆息するのは、実をいうとそのことではない。1人派遣の集約による減収問題は、元請け会社からの発注価額を上乗せしてもらい、その子会社と契約を結ぶことで妥協した。ところが今度は、新たな契約先となった子会社から、「契約を継続するなら、P(プライバシー)マークを取得することが条件」と通告されたという。

 「当社の規模でPマークを取得するなんて無理。だいいち、個人情報保護法の対象じゃない。元請けの会社はPマークもISMSも取得している。だからといって外注のわれわれに同じことを求めることはないでしょう?」

 契約を打ち切る理由にしているのではないか。そう尋ねると、営業部長氏は大きく首を縦に振った。

 「もしPマークを取得したら、たいへんな費用がかかる。発注元だって、無理な注文だと分かっている。この秋の契約更新では単金をアップしないよ、ということでしょう。かたちを変えた下請けいじめですよ」

■1人派遣の社内失業も

 1人派遣問題を解決できなかった別の会社は、3か月の猶予期間が終了するこの6月末で契約が打ち切られる。発注元から、労働者派遣法の問題を回避するために「今の会社を辞めて子会社の社員になるか、契約を打ち切るか」を迫られた。移籍を拒否した派遣プログラマは、7月から“社内失業者”になる。

 「派遣法に抵触するから、という理由で会社を辞めさせるのは納得できない。仕事は順調だし、職場の人間関係も円満。1人派遣だからこそ、休日も返上して頑張ってきた。私に落ち度があるならともかく、会社の都合で別の倉庫にモノを移すように扱われる。私は自分の履歴書を汚したくない」

 と、その派遣プログラマは嘆く。

 「彼はもう2年も同じ客先で仕事をしていて、システムの隅々を知っている。人手不足なんだから、単金を上げてもらおうと考えていた。まさか契約打ち切りとは、想像もしていなかった」

 派遣会社の経営者は肩を落とす。

 派遣型ソフト事業では、就業者の稼働率が利益の多寡を決める。100人のうち10人に手空きが生じると、失う利益は1割ではない。1年間の利益があらかた飛んでしまう。

 この会社の派遣プログラマの場合、第三者的にいえば、3か月程度で交代要員が確保できる程度の「誰にでもできる仕事」だった。発注元が、「プログラマ1人分の穴ならチーム全体で埋められる」と判断し、事務管理費の圧縮を優先したということでもある。大手SIerが圧縮したコストを下請けソフト会社が負担する構図だ。

■元請けの利益確保策が波及

 下請けソフト会社を追い詰めているのは、発注元のSIerの機構改革だ。前述の内容とは直接の関係はないが、例えば住商情報システムは、昨年度から外注先の絞り込みに取り組んできた。住商エレクトロニクスと合併したことに伴って、外注政策の見直しが必要だったからだ。

 「本社の管理部門が把握していたのが600社。ところが部門や支社、子会社が個別に外注会社を使っていて、契約のしかたもまちまち、発注価額の決め方もバラバラだった。これでは外注費がどんどん膨らんでしまうし、無駄も多い」

 決算説明会で阿部康行社長はこう語る。全社的な最適化を図る、という方針は妥当といっていい。外注を使う場合の社内ルール、契約書の一元管理、支払いの一元化などは、不明朗な会計処理を未然に防止することにつながっていく。

 同社に限らず、インテック、アイネス、SRAといった有力SIerが進めているのは1部上場企業としての内部統制策の一環で、外注会社の重要性を認識している良心的な企業群だ。

 だが一方で、より多くの利益をグループ内にとどめることを目的に外注を絞り込むことも少なくない。大手SIerとその連結子会社が多重に契約し、それぞれに「管理費」の名目でピンハネする。元請け会社が子会社に仕事を出すだけで、グループ内に最低10%の利益をとどめることができるのだ。

 「たしかにそうすれば、大手は利益は確保できる。しかしそれでは業界の下支えが疲弊する。下支えが疲弊すれば、全体がこける」(日本システムディベロップメントの冲中一郎社長)。このことは「多重下請け構造の解消」というグランドデザインと正反対の方向性を示す。労働者派遣法、個人情報保護法、安全・信頼性基準、Pマーク、ITSS、ISMS、CMM…。「対応は任意」だが、それが多重下請け構造のなかで目に見えない“規制”となり、業界の疲弊を生んでいる。