関西のITベンダーの「今」そして「これから」

<関西のITベンダーの「今」そして「これから」>第1回 変動著しい関西地区の市場環境 新商売の模索が急務に

2011/09/22 20:29

週刊BCN 2011年09月19日vol.1399掲載

 『週刊BCN』は、全国各地のIT市場についての報道に力を入れることを今年度の編集方針として掲げている。その第一弾として、大阪/京都/神戸の3都市を中心とした関西地区のITベンダーの動きを追う企画を連載していく。関西地区は、東日本大震災後にデータセンターの建設地として注目を浴びるなど、このところ、IT市場の変動が活発になっている。連載では、現地での取材を通じて、関西ITベンダーの現在の取り組みと将来構想をクローズアップする。(取材・文/ゼンフ ミシャ)

 IT企業やデータセンター(DC)がひしめく東京に大きな衝撃を与えた東日本大震災。震災をきっかけとして、オフィスやDCの“首都圏離れ”が始まった。そして、多くの企業が避難先として着目したのは、大阪をはじめとした関西地区だった。関西での急速なDC需要の拡大傾向は、7月以降に関西電力管内で電力供給事情が悪化した現在も、沈静化する気配がない。NTTデータやNEC、富士通など、有力DC事業者の関西支社長は、声を揃えてDC需要の活性化を口にする。8月に兵庫県東部に「関西第二DC」を開設したNECの佐藤洋一関西支社長は、「東日本のユーザー企業のバックアップ用途を中心に、すでに約200ラックが埋まっている」と、予想外の好調な出足に感嘆の声を上げる。

ビジネスを海外に広げる

今年5月に「大阪ステーションシティ」としてリニューアルしたJR大阪駅。大阪で進行している複数の都市再開発プロジェクトが関西地区の経済に刺激を与えている
 大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県、三重県の2府5県からなる近畿地区は、日本全国のIT市場でおよそ15~20%の割合を占めている。ここ数年は、関西創業のITユーザー企業が本社機能を東京に移したり、関西に多い製造業の企業が工場や営業拠点を海外に移設するなど、関西地区のIT市場を取り巻く環境が大きく変動している。関西ITベンダーは、ユーザー企業の流出を受けて、ビジネスを海外を含めた関西以外の地域に拡大することが必須となっている。製造業向けのERP(統合基幹業務システム)を得意とするNTTデータ関西の藤井浩司社長は、「海外に進出した関西企業を現地でサポートする事業の強化に取り組んでいる。これから、IT投資の抑制などによって関西では売り上げが減る分を、海外で取っていく」という方針を語る。

 関西ITベンダーは、海外にある日系企業向けの展開を拡大する動きからもわかるように、関西市場に大幅な伸びが期待できるとは見込んでいない。今後、円高の影響によって製造業が直面する状況がさらに厳しくなり、「製造業のなかで、ニッチな分野に特化した“勝ち組”の企業を見分けて、彼らに集中的に営業をかける必要がある」とみるITベンダーが増えている。

 とはいえ、関西地区のIT市場は暗い話ばかりではない。近畿経済産業局によると、生産や個人消費、設備投資の面で、穏やかながら持ち直しの動きがみえている(図1)。さらに、関西の中堅・中小IT企業は、東日本大震災によって受けたビジネス上の悪影響は全国で最も小さくて済んでおり、来年は、今年のマイナスからプラスに転じて2~3%の成長が見込まれている(IDC Japan調べ、図2)。


有望株は「スマートシティ」

大阪の有名串かつ店の「だるま」は、お客に「ソースの二度付け ご遠慮下さい」と呼びかけている。関西では値引き要求が強く、ビジネスの利益率が他の地域と比べて低いと、IT業界関係者からよく聞いた
 今、大阪市内では大規模の都市再開発が目立っている。「梅田北ヤード」と呼ばれるJR大阪駅の周辺を中心として、数か所で再開発プロジェクトが進行中だ。関西地区は、京都の観光地や神戸の貿易港などを抱えており、さらに、太陽パネルや各種センサを製造するメーカーが多い。ITを活用して都市インフラを改善する「スマートシティ」を実現するための条件が揃っているのだ。神戸に本社を置くコベルコシステム(IBMグループの1社)の奥田兼三社長は、「関西では、スマートシティが必ず商売になる。企業間の大型連携を実現して、関西から日本のスマートシティ市場をリードしていきたい」と意気込みを示す。(※次回は、関西の大手ITベンダーの動向に焦点をあてる)
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